第41話 そして僕は逃げ延びる

「ひとつ質問、いい」


 その言葉に僕はほっとする。

 何はともあれ会話の糸口が出来た。


「何でもどうぞ」

「女の子の裸って、見たい物なのか」


 ……何だって。

 質問の日本語が意味ある内容として理解出来るまで。

 僕は幾ばくかの時間を必要とした。


「合宿のお風呂の時も騒ぎがあった。あと開発部の説明の時、全裸実験という言葉でかなり心が揺れたのが見えた。だから気になった」


 おいちょっと待ってくれ。

 その質問反則だろう。


 でも……

 どう答えようか考える。

 きっと不味いのは単なるごまかし。

 理彩さんは僕の心の動揺くらいはわかる魔法持ちらしい。

 ならむしろ正直に話した方がいいだろう。


 でも。

 まだ知り合って数日の、しかも同年齢の女の子に真っ正直に答えるのは。

 なかなか勇気がいる行動だったりする訳で。


 理彩さんの方を見る。

 彼女は薄い茶色の大きい目でこっちを見ている。

 あ、いかん、目を合わせられない……

 心の準備をするのにちょっと時間がかかった。


「性的な意味で興味が無い訳じゃ無い。というか気になるのは確かだ。つまり見たくないかといわれると見たい。でもだからと言って本人の意志を無視してまでとは思わない。そんな感じかな」


 もって回った表現と言わないでくれ。

 これでも精一杯正直に言ったつもりなんだ。


 僕のこの苦労した解答に対し、理彩さんはあっさり。

「理解した」

 と答えた。


 そして。

「どうしても見たくなったら言って欲しい。対処する」


 なぬ。

 ちょっと待て。

 それはどういう意味だ。


 さらに暴走しそうになる妄想を必死に抑える。

 考えるな。

 今の理彩さんの返答に深い意味はない。

 いや浅い意味もきっと無い。

 忘れろ!

 という処で。


「片付け終了!」

 と未来さんがやってきた。


 助かった。

 そう思ったところで。

「なかなか面白い話をしていたじゃないか」


 ぎくっ。

 ちょい待て今のやりとり聞こえていたのか。

 こういう時は話の転換だ。


「朝食はそれぞれバラバラだよな」

「うん。朝は作らない」

 そう理彩さんは答えてくれるが。


「でも今する話はそれじゃなさそうだよな」

 と未来さんが言う訳で。


 こういう場合はどうするか。

 昔の人は言いました。

 つまりいわゆる三十六計。

「御馳走様でした。それでは明日」

 立ち上がって4歩で部屋入り口の扉。


「逃げたな」

「無理強いよくない」


 そんな台詞が聞こえる中。

 僕はスタコラサッサと寮の自室目がけて逃げ出したのだった。

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