第38話 まずは魔法杖から

 そんな訳で。

 新たに組み直して作った4つめの大テーブルを6人で囲む。

 暗い方にいた小柄な先輩が紅茶を入れてくれた。

 確か名前は紬さんと言ったかな。


 陶器製のポットに水とティーバッグを入れちょっと置いて。

 次に注ぐと湯気が出て紅茶の香りや色もついている。

 ポットはどう見ても電気とかのギミックは無いタイプ。

 つまり紬さんは熱系の魔法持ちという事かな。

 全員分のお茶が入った処で千歳先輩が口を開く。


「まずはもう一度自己紹介からだな。船橋千歳ふなばしちとせ、3年で魔法研究会開発部長だ。本来の所有魔法は風系統だが若干の光操作と治療魔法も使える。

 そして研究しているのは新規の魔法、及び魔法伝授のシステム。魔力があれば誰でも習得可能で便利な魔法を作り出す事が目標だな。

 次は紬」


 お茶を入れてくれた小柄な先輩が頷く。

愛甲紬あいこうつむぎ、2年です。持ち魔法は熱操作、大体プラスマイナス100度程度の温度操作ができます。今やっているのは魔法効果を食物や飲料に付与すること。魔法薬等への応用を目指しています」


 最後は明るい方にいたふんわり系おかっぱ髪の先輩だ。

石田杏いしだあんず2年。持ち魔法は物質加工及び変性。今やっているのは魔法杖の研究。話は明里に聞いている。宜しく」


 この2人と千歳さんが全裸実験したのか。

 そう考えかけて慌てて頭をリセットする。

 いかんいかん。

 妄想よくない。

 先輩方に申し訳無いしこっちとしても恥ずかしい。


 そんな僕の内心の微妙な動きと全く関係なく。

「以上だ。次はそっちも自己紹介してくれ。手前から順番に。名前と持ち魔法だけでいい」


 と千歳さんに言われる。

 千歳さんの手前というと僕からだな。


「柿生正樹です。普通科ですので魔法は使えません。宜しくお願いします」

「狛江未来です。魔法は氷雪及び冷却系です。宜しくお願いします」

「喜多見理彩です。軽い精神攻撃魔法が使えます。宜しくお願いします」


 最小限の挨拶をする。

 未来さんも大分用心している感じだ。

 ここへ来てから口数が極端に少ない。


「さて。まず3人は杏の研究について見て貰おうと思っている」

 と千歳さんが口を開いた。


「理由は簡単。杏の魔法杖の研究が一番進んでいるからだ。試作品も完成している。

 まずは報告書の束があるからそれを読んで現状を確認してくれ。それだけで3日位は優にかかると思う。あとは杏と相談だ。


 杏の作っている魔法杖とその理論。これが少しでも進めば普遍的な大魔力が得られて他の研究も飛躍的に進む。まあこれは私の勝手な予想だけれどな。そういう訳で宜しく頼む」


 という訳で。

 僕らのここでの作業が始まった。


 ◇◇◇


 お茶セットを片付けて。

 そして杏さんが色々な資料やら杖の実物やら資材を持ってくる。


「すみません、色々」

「いい。こっちも行き詰まっていた。整理にいい機会」


 資料はぱっと目にも色々。

 杖の素材ひとつにしても、

  ○ 過去の文献等からの抜き出し

  ○ 物性試験上からの候補

  ○ 実制作した結果からの分析

等色々な研究・実験とその結果がある。


 材質の他にも形状とか大きさの研究もある。


「これは大物ですね」

 なかなか大変そうだ。


「大丈夫、解説はする」

 そう杏さんは言ってくれたけれど。

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