あの  な味をもう一度

arm1475

第1話 来訪

 牛丼屋の店頭から、牛丼が消えて久しい。

 相も変わらず米国と日本のお偉いさんたちは、BSE感染問題で意見の相違を続け、一向に妥協ラインを見いだせずにいる。

 お陰で、牛丼一筋300年(違)の牛丼専門店としては、何とも邪道極まりない『豚丼』なる食べ物が並ぶ始末だ。

 一体、いつになったら牛丼屋で牛丼が食えるのか。

 一部の競馬場では売られているそうだが、しかーし、たかだか牛丼程度に、そこまで調べて足を運ぶ気にはならない。

 手軽に食えてこそ、牛丼屋の牛丼なのである。


 とか言いながら、今日の昼食は新メニューの豚ショウガ焼き定食だったりするわけだが。

 良いじゃねぇか、美味いんだから。

 爪楊枝で奥歯に挟まった脂身をほじくり返しながら店を出て、俺は大きく伸びをする。

 今日は朝早くから外回りでヘトヘトだったが、起きた時に観た、窓の外の久しぶりの晴天にちょっとやる気が出ていた。

 ついで言うと今日は給料日のハナ金(死語)。

 明日から恒例の二連休、午後もちょっと頑張っても明日は昼過ぎまで寝ていられるわけだ。

 夕方辺りに久しぶりに歌舞伎町にでも繰り出して――

 ……ていうか、暗い。

 理不尽なくらい暗い。

 夜か。

 俺は牛丼屋で、豚ショウガ焼き定食一人前を午後一杯掛けて喰っていたのか。

 んなわきゃない。

 そろそろ現実逃避止めないと。


 …………こんなコトが現実であってたまるか。


 空に――巨大な――超巨大な――理不尽なくらい巨大な――




  = ニュース速報 =


  巨大UFO、東京上空に出現


                   』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る