第45話

 俺の妹に始まり、彼女の無二の親友(だった?)ミヨキチに、その曾祖母にしてつる家に並ぶ名家中の名家よしむら家の現ひめである、他称『大ババ様』。


 そんなふうに、最初は俺たちSOS団員だけだったはずの、現在のこの『八月後半の世界』が無限ループ状態であることに気づく者が、だんだんと増えていった。


 ──そしてそれに合わせて、このいわゆる『エンドレスエイト』現象は、あたかも世界そのものが化けの皮を剥がすかのようにして、もはや単なる日常的な八月後半の繰り返しなぞではなくなっていったのだ。


 例えば、『ハルヒ』シリーズではもはや定番とも言えるタイムトラベルはあるわ、『なろう系』そのものの異世界転移はあるわ、俺が女性化したりハルヒが男性化したりといったTS展開はあるわ、各ヒロインごとのルート分岐展開はあるわ、俺とハルヒが大学生になったり正式につき合ったりするといった普通にあり得る『正統派続編的日々』を送ったりするわ、朝倉メイン回はもちろん自称宇宙人少女全員メイン回とか場合によってはコンピ研メイン回とかいったマニアックなエピソードはあるわ、ある意味今となっては正統派とも言える佐々木ささき団メイン回はあるわ、何と機関メインのサイキックバトルはあるわ、SOS団のメンバー全員がまったくの別人に入れ替わってしまうという某『国民的終わりなきエターなるアニメ』における声優交代劇的展開はあるわ、鶴屋家が密かに封印していた邪神が甦り、その討伐のために犬猿の仲の吉村家とタッグを組むのに始まり、SOS団その他の宇宙人と未来人と超能力者の力を結集するとともに、ハルヒが創作物フィクション的『神様』の力を振るい、俺がこの世界という『創作物』の神様である『作者』としての力を振るうことによって、どうにか再封印にこぎ着けるわ──等々といった、


 まさしく某超人気小説創作サイト『カ○ヨム』様あたりで現在絶賛公開されている、『すずみやハルヒのゆううつ』の二次創作である、数多の珠玉の名作の集合体そのものと化してしまっているような有り様であった。


 ……まあ、有り体に言ってしまえば、何でもアリの不可思議現象の連続になっているわけだが、二次創作をも含めた『ハルヒ』シリーズ全編の『語り手』である俺はそのすべてにつき合わされることになり、それらの周回ループごとに散々な目に遭わされたのは、言うまでもないことだろう。

 いや、何で俺が女体化して、しかも同じように男体化したハルヒとつき合わなければならないんだよ? 普通に元の性別のままでいいだろうが。……二次創作の作者って、いったい何を考えているんだ?

 いやそれにしても、古泉とふじわらのカップリングもアレだが、古泉と男体化したハルヒ(ハルヒコ)とのカップリングって。……二次創作のBLって、奥が深いぜ。

 ──え? 俺自身についてのカップリングは、どうなっているんだって? 

 さあ、何のことやら。他のやつらはともかく、語り手である俺はあくまでも健全路線一直線なのであって──ちょっ、やめろ! 何でミヨキチが男体化して、そんな捨てられた仔犬ような目をして、俺のことを見るんだ? よせ! 俺には、そんな趣味は………………………いや、ほんまマジで待って! ま、まさか、おまえのほうが『攻め』、だと? いやいやいや、それ以上近づくんじゃない! ア────────────ッ!


(※以下、禁断のディストピアSF二次創作、『ショタゲイン、JSの妹の同級生が男体化して、ハッテンバで待ち構えていました』に続く)


 ……まあ、冗談はともかくとして、このようにループしていることにかこつけて、まさしく二次創作そのままの何でもアリの世界をそれこそ無数に体験してきたわけだが、なぜだかただ一つだけ、あまり歓迎できない共通点があったのだ。


 ──それは事もあろうに、どの世界においても佐々木だけが元気な姿を見せることはなく、ほとんどにおいて病院や自宅等で、眠り続けていたことであった。



   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


「……佐々木ささき


 だだっ広い集中治療室を分厚いガラス越しに見下ろしながら、俺はひとつ。


 あたかも三文近未来SF小説のワンシーンみたいに、異様にごつい医療用のベッドの上に横たわっている痩せ細った身体中に繋がれている、無数の管。

 すっかり生気を失い蒼白く染まったその顔には、かつての快活な様は微塵もうかがえないものの、間違いなくその少女は俺の中学三年当時の、誰よりもかけがえのない『親友』であったのだ。


「──なぜだ、なぜなんだ、なぜどうしてもおまえだけを、目覚めさせることができないんだ⁉」


 いくら大声を上げようが、強化ガラス越しに昏睡している相手に聞こえるはずがないことを知っていながらも、俺は叫ばずにはおれなかった。

 この無限に繰り返す八月のループ中、俺はただ単に、遊んでいたわけではなかった。

 いやむしろ、いくらでも『トライアンドエラー』を行えるループ中だからこそ、俺はあの手この手と手段を尽くしていたのだ。


 ──何としても、最愛の『親友』を、目覚めさせるために。


 しかし何度、中学時代に遡って過去をやり直そうとも、この世界同様に『女神様』として眠り続けている異世界に転移して彼女を虜にしている魔王を倒そうとも、俺との間で性別を入れ替えようとも、SOS団ではなく佐々木団こそをメインに活躍させようとも、ながようあさくらみどりさん等の地球文明よりも遙かに優れた科学技術を有する宇宙人連中の力を借りようとも、あささん(大)やふじわらたちの未来の反則技的便利道具の力を借りようとも、いずみたちばなたちの強大な組織力に頼ろうとも、──その他、考えられる限りあらゆる手を尽くそうとも、佐々木は必ず昏睡してしまい、そしてけして目覚めることはなかったのだ。


 ──しかし、俺は断じて、諦めたりはしない。

 なぜなら、希望の目はかすかながらも、すでに見いだしているのだから。


 実は何度もループを繰り返しているうちに気づいたのだが、それこそ何百回か何千回かに一度程度の割合で、『同じ世界』に行き当たっていたのだ。

 それというのも、あまりにもその世界だけが、異質だったからである。


 ──名付けて、『うちの病室にはハルヒがいっぱい♡』。


 何とその世界にいたのは厳密には、俺を始めとして、本物の『涼宮ハルヒの憂鬱』の登場人物キャラクターたちではなかった。

 そう。あくまでも自分のことを、『涼宮ハルヒの憂鬱』の登場人物キャラクターだと信じ込んでいる、哀れなる妄想癖の集団でしかなかったのだ。


 実験都市、『JAライトニング学園』──またの名を、『第四EMP』。


 それは重篤なる中二病に罹患してしまった、思春期の少年少女たちを半ば強制的に収容した、農協JAを出資団体とし政府が直営している、教育機関の皮を被った『開放病棟』。


 ……ここまででおいても、いくら無限のループにおける『可能性の世界』の一候補とはいえ、もはや『二次創作』としての範疇を逸脱していると言わざるを得ないところであるが、


 問題は、その程度では、済みはしなかった。


 ──実は驚いたことにも、以上に述べたこの世界の基本的な在り方のすべては、俺の自作のWeb小説『ゆめメガミめない』におけると、そっくりそのまま同じだったのである。

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