第9章、夏休み特別企画! すべてのハルヒ二次創作をこの一作に⁉ これぞ本当の『エンドレスエイト』だ!

第42話

「──さて、ここで質問です。夏と言えば、何を思い浮かべますか?」


 ………………………………は?


 目の前の同級生から突然投げかけられた、質問の台詞。

 そのあまりの唐突さは、俺に言葉を失わせるのに十分であった。

 しかしだからといって、別にその内容に驚くほどの意外性があったわけではない。


 ……というか、むしろ聞き覚えがあり過ぎて、当惑してしまったほどである。


「いや、いずみおまえ、確かほんの数日前に、あささんにも同じことを聞いていなかったか?」

 いかにもあきれ果てた口調と表情とで、すかさず問い返す俺。

 何せこの辺のくだりって、『孤島症候群』の導入部として、原典オリジナルにおいても結構重要な場面だからな。


 ──すでに夏休みに突入して数日後の、きた高文化系部室等の文芸部室兼我らがSOS団の非公認アジトにて。


 俺自身も人のことは言えないのだが、せっかくの学生にとっての待ちに待った長期休暇の始まりだというのに、他にやることがないのか、毎度お馴染みの俺と自称超能力少年と自称宇宙人少女の常連三人組が、分厚いSF系の洋書を読みふけっていたり(なが)、詰め将棋に興じていたり(古泉)、Web小説作成に励んでいたり(俺)といったふうに、いつものようにめいめい勝手にやっていたなかに、古泉が発した前後の脈略を考えればあまりにも不可解なる発言。

 思わず怪訝な表情となった俺であったが、当の優等生のほうは澄まし顔のままで、重ねて言を紡いでいく。

「前回はあくまでも『一般人』である朝比奈さん(デフォルト)に対するものであって、その回答としては、『夏休み』とか『海』とか『刺身』とか『舟盛り』などといった、文字通り回答でも構わなかったんですけどね」

 ……刺身はともかく、舟盛りってのは、果たして一般的なのだろうか?

「しかし我々のような『関係者』においては、当然それなりの回答が求められることになるのですよ」

「関係者って、俺たちが一体、何に関係しているって言うんだよ?」


「何を今更、僕らSOS団の団員メンバーが関係しているといったら、それはもちろん、団長のすずみやさんに決まっているではないですか」


「えっ」

「えっ」

「……えっ」


 ちなみに今の「えっ」は、最初の二つは俺と長門で、最後の「……えっ」は古泉によるものであった。

「ちょ、ちょっと、何ですか、お二方! 今完全に、素で驚かれていたでしょう⁉」

 珍しく焦りまくった表情を隠そうともせず、食ってかかってくる超能力者。

「あ、わりい。ほら、この二次創作のハルヒって、登場場面シーン自体、ほとんどないじゃないか? それであいつの存在そのものを、どうしても忘れがちになってしまうんだよなあ」

「いやいやいや、仮にも原典オリジナルにおけるメインヒロインに対して、その認識はどうなんですか⁉」

 そういったことは俺ではなく、この二次創作の作者に言ってくれ。

「それはともかくとして、おまえの言うところの俺たち『関係者』としては、一体どんな回答が求められているって言うんだ?」

 荒ぶる古泉少年をなだめるようにして、本題のほうを促してみれば、

 ──またしてもこいつときたら、わけのわからないことを言い出しやがった。


「言うまでもないことです、我々涼宮さん関係者にとっての夏と言えば、『エンドレスエイト』に決まっているでしょう!」


「「………………………………………………」」

 ツッコミどころが多すぎて、すぐに反応できねえ!

 俺と長門はお互いに目線だけで、どっちが対応するかをなすりつけ合ったものの、最終的には自他共に認める『ツッコミ役』である、俺に一任されることとなった。

「……ええと、相変わらず発言がメタ過ぎるんじゃないかとか、おまえこの前は『孤島症候群』も一緒に挙げていたじゃないかとか、一応『笹の葉ラプソディ』も夏のエピソードの範疇に入るんじゃないかとか、いろいろと言いたいことがあるんだけど、それよりも何よりもこの二次創作においては、『エンドレスエイト』回はすでにやり終えていたんじゃなかったっけ?」

 我ながらそれこそメタっぽい発言であったが、これだけは是が非でも言わないでおくわけにはいかなかった。

 あのクーデレの代表的キャラである長門すらも、うんうんと頷いているしな。

 しかし戸惑う俺たちと反比例するようにして、一人古泉だけはますますボルテージを上げていき、あたかも(『ハルヒ』とかいう名前の)強大極まりない邪神の神官でもあるかのように、ことさら厳かな口調で意味深な台詞を告げてくる。

「あんな普通の『エンドレスエイト』ではなく、これから行われるのは、真のループというものを体現した、本物の『永遠の夏休みサマードリーム』なのです」

 おまえって、『一般』とか『普通』とかいう言葉を無駄に多用して、自分サイドの『特殊性』を強調するのが好きだよなあ。

「いや、待て。行われるって、どういうことだ? そもそも真のループだか永遠の夏休みサマードリームだか知らないけど、そんな酔狂なことを、一体誰がしでかすって言うんだよ?」


「そりゃあ、決まっているでしょう。他でもない、涼宮さんですよ」


 おまえ本当に、ハルヒ大好きだな⁉

「だいたいが、これまでの『エンドレスエイト』は、根本的に間違っていたのです」

 おいおい、元々ループなどという異常現象に、間違いとか正しいとかないだろうが?

「──そう。せっかくループなぞという常ならざるイベントを行うのなら、原典オリジナルのような日常的な八月の繰り返しなんかじゃなく、もっと趣向を凝らすべきだったのですよ」

「は? ループの趣向を凝らすって、何だよそれ?」

 だから何度も言っているように、一部のSFマニアにしかわからないような謎言語ではなく、ちゃんと日本語をしゃべってくれよ。

「それこそ前回の『エンドレスエイト』回の蘊蓄解説の際に述べましたが、ループ中の世界はそのすべてが等価値なのであり、原典オリジナルのように最後の一回だけが本物で、残りはただ消えゆくのみの仮の世界なんかではなく、すべてが本物の世界なのであって、量子論に則ればあくまでもこの現実世界に対する『別の可能性の世界』として、将来にわたって現実のものとなる可能性を秘めているのです。この量子論においてはいわゆる『多世界』と呼ばれる世界群は、けして現実世界と似たり寄ったりの『並行世界パラレルワールド』の類いだけではなく、それこそSF小説やファンタジー小説そのものの、過去や未来の世界や異世界等も含まれているのです。──つまり、我々は原典オリジナルのような『エンドレスエイト』状態の中にあっては、タイムトラベルや異世界転移を体験したり、北高等の普段の身の回りの場所を舞台としつつ、異能バトルやロボットバトル等を経験したりすることも、あくまでも可能性の上とはいえ、十分にあり得たはずだったのです」

 あー、確かにこいつ、そういったことを言ってたような覚えも、無きにしも非ずだよな。

 ……しかし、何でこいつの持論て毎度のことながら、どことなくうさんくさいのかねえ。

「それだけではございません、実はこの『無限の別の可能性の世界のループ』こそ、リアルにすべての『涼宮ハルヒの憂鬱二次創作』の集大成を実現することすらできるのです」

「へ? リアルにすべての二次創作を実現できるって……」

「ループの中には無限の別の可能性の世界が含まれているわけですから、『カク○ム』様の『ハルヒ二次創作』のコーナーでよく見られるような、あなたが『キョン子』として女性化したり涼宮さんが『ハルヒコ』として男性化するといった定番のTSものを始めとして、あなたと様々なヒロインとのルートごとのスピンオフ的ラブコメものや、何とコンピ部の部員たちを主役にしたマニア好みのものに至るまで、ありとあらゆる二次創作そのものの『別の可能性の世界』が含まれているわけで、我々は八月のループエンドレスエイトが続いていく限り、リアルで二次創作の世界を体験することすら可能となるのですよ」

「なっ、二次創作の世界すらループの中に入っているなんて、そんなむちゃくちゃな⁉」

「むちゃくちゃとは失礼な。前にちゃんと申しておいたではありませんか、小説の世界も量子論的には、この現実世界の『別の可能性の世界』に含まれているのであって、将来にわたって現実のものとなり得るあくまでも『本物の世界』であり、原典オリジナルの『涼宮ハルヒの憂鬱』すらも含めて、原作者が考案する以前から可能性の上ではすでに存在していたのであり、たとえ連載が終わり絶版になりすべての読者から忘れ去られようとも、『世界』としては存在し続けていくのだと」

 むー、確かに物理学的にはそうかも知れんが、それを二次創作とはいえ、小説の論法に杓子定規的に当てはめられてもなあ……。

「やれやれ、どうやらあまり納得されておられないようですが、とにかくループというものは本来、あたかも二次創作的な無限の可能性を秘めた『別の世界』すらも実現できるのですから、せっかくそんな世界を体験し得る機会チャンスがあるのなら、有意義に活用しなくては宝の持ち腐れだと思うんですよ、僕としては」

 そのように言い切るや、ようやく得意の蘊蓄長話を終えてくれる超能力少年。

 しかしもはやこいつとは長い付き合いを自認する俺としては、額面通りに受け取るつもりなぞ毛頭なかった。

「ああ、うん、おまえの気持ちは、よくわかった。…………………………………それで、本音は?」


「ぶっちゃけて言いますとね、いよいよこれから夏休みが始まって、学生さんの読者が増えてかき入れ時だというのに、ここで『エンドレスエイト』をフル活用しなくてどうするんだということで、この二次創作の作者の無計画性のためにすでに使ってしまっていた、『エンドレスエイト』ネタを再利用するために、あれこれともっともらしい理由をこじつけているだけなんですよ」


 おおいっ、それはそれで、本当にぶっちゃけ過ぎだろうが⁉

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