第43話
やって参りました、夏休み!
しかも、俺たちSOS団の八月は、ひと味違うぜ!
──何せどこかのわがままな神様少女のお陰で、八月の後半が延々と、ループし続けているんだからな‼
「というわけで、今回の
すでに取得済みの電話番号やメールアドレスが登録されたスマホを眺めながら、非常に有意義な『夏休みの計画』を練っていると──
「うん、音声通話の着信か?」
しかも『この子』が俺のほうに連絡をよこすなんて、珍しいこともあるものだな。
「はい、もしもし、俺だけど」
『……あのう、
吉村
言わずと知れた我が妹の一の親友で、当然現役バリバリの
……本来ならただ単に『お友達のお兄さん』に過ぎないこの俺とは、このように直接連絡をやりとりするような関係ではないはずなのだが、なぜだかこうして結構頻繁に、いきなりのメールや事によれば音声通話を頂戴することがあり、しかもなぜだか妹のほうもむしろ奨励している節があったのだ。
「えっ、時間? うん、時間なら、腐るほど余っているよ」
なぜなら俺たちの八月は、現在絶賛ループ中だからな!(しつこい)
何せ八月後半を何度も繰り返しているのだから、SOS団のイベントの合間にちょっと遠出をするだけで、四十七都道府県津々浦々にもれなく所在している全店舗を訪れて、じっくりねっとりとロリ少女たちを
……それにたとえ店の警備セクションや官憲に不審人物としてとっ捕まっても、新たなループに入れば無条件で解放されるしな。
まあ、そんな社会不適合者どものことはともかく、このいわゆる『エンドレスエイト』状態に自覚的な俺たちSOS団員が、文字通りの無限の時間を持て余しているのは間違いなかった。
『……そうですか、良かったあ。どうしてもあなたに、連れて行っていただきたいところがあるんです』
おやあ、このパターンは、もしかして……。
「へえ、また年齢制限のある、映画か何かを観たいとか?」
『そうそう、そうなんです! どうしても観たいんです! ………………………あなたと』
「え、何だって? 最後のほう、聞こえなかったんだけど」(これぞ突発性難聴──『ラブコメ主人公病』とも言う)
『い、いえ、何でもありません。こちらのことです!』
「ああ、それならいいんだけど……」
『……それで、御都合のほうは、いかがでしょうか?』
「うん、いいよ。今ちょう半月ほど暇だし。そっちの予定としては、いつ頃がいいんだい?」
『ほんとですかあ! よかったあ。──そうですね、早ければ早いほどいいので、いっそのこと、明日なんかどうでしょうか?』
「明日って、映画……なんだよね? 上映スケジュールとか席取りとかのほうは、大丈夫なの?」
『ええ、それはもう。すでに今週から上映期間に入っていますし、それに吉村の力を使えば、市内の映画館ならどこでも、すぐに指定席を押さえられますので』
──おっと、さすがは地元指折りの、名家のお嬢様。
『では、明日の朝九時過ぎに、家の車でお迎えに上がりますから、よろしくお願いします♡』
簡単に打ち合わせを終わらせるや、心なしかうきうきした様子で通話を切る、美少女JS嬢。
「……うん? 別に年齢を偽っての秘密のお出かけではなく、普通に家の人にチケットを押さえさせたり、車を出させたりしても構わないんだったら、わざわざ赤の他人の俺がエスコートする必要はないんじゃないか?」
そのように、俺が至極当然の疑問に思い当たった、
──その刹那。
「き・を・つ・け・て」
「──おわっ⁉」
突然の何だか不気味なつぶやき声とともに飛来する、どこかで見たような小さなパッケージ。
「おいっ、JSのくせに、何てものを、投げて寄越すんだ⁉」
そうそれは、健やかな家族計画のための必需品の、例のゴム製品であった。
しかし高校生の兄から本気で怒鳴りつけられた妹様のほうは、何ら動ずることもなく、泰然とした表情を保ち続けていた。
……何か、いかにもアンニュイな雰囲気をかもし出しながら、腕を組んで壁に寄りかかっているポーズが非常に板についているんだけど、本当におまえは他称『キョンの妹』なのか?
「明日デートなんでしょ、ミヨキチと。だったら必ず、それを使いなさい。──後悔したくなかったらね」
だからおまえらは、ツッコミどころが多すぎるんだよ⁉ もっと
「ミヨキチ相手に、こんなもの使う必要はないだろうが⁉ そもそも明日は、デートなんかじゃねえ!」
「? それってつまりは、もはやミヨキチとはすべて合意の上で、中出しOKだし、二人の関係は交際し始めの恋人なんかじゃなく、夫婦も同然というわけ?」
「だああああっ、だからJSが! 俺の可愛い妹が! 『中出し』なんて言葉を使うなって! 言ってるんだよ!」
わかる、わかるよ? 最近の小学五、六年生が、けしてピュアな存在なんかじゃないことは!
それでも、夢を見ていたいじゃない! 特に何よりも、自分の妹に対しては! いつまでもピュアな存在であるはずだって!
……おそらく
しかしそんな兄心を少しも忖度することなく、いかにもほとほとあきれ果てたかのように大きくため息をつく、目の前の少女。
「……まったく、相変わらず危機意識が低いんだから。そんなんじゃ、そこらの雌犬たちにつけ込まれる一方よ? ──とにかく、これだけは約束してちょうだい。ミヨキチから差し出された『ゴム』だけは、絶対に使わないと」
だからさあ!
「そもそも俺とミヨキチはそんな関係じゃないと、何度言ったら──」
「穴が、開いているのよ」
へ?
「穴って、何に?」
「ミヨキチが渡してくるであろう、ゴムよ」
「なっ⁉」
おいおい、それって。
「あなたは気楽に考えているようだけど、明日ずっと一日ミヨキチと二人っきりでいて、どんな状況に陥れられるかわかったもんじゃないんだから、もしゴムを使わなければならない状況になっても、彼女のゴムだけは使っては駄目よ」
……え? 俺って明日、どんな目に遭わせられるわけ?
「いやでも、こんなこと言うのも何だけど、おまえってどちらかと言うとむしろ、俺とミヨキチの仲が進展するように、仕向けていたんじゃなかったっけ?」
こういうことを言い出すと、もはや『鈍感主人公』ではなくなってしまいかねないけど、まあ、話しの進行上、ギリギリOKということで。
「……ミヨキチを応援していたのは、何よりも
「争奪戦だって?」
それってラノベなんかでお馴染みの、『鈍感主人公争奪戦』のこと?
俺がのんきにも、そんな馬鹿なことを考えていた、
──まさに、その時、
「決まっているでしょう、あなたの、『作者』としての力よ。それというのも私たち『ヒロイン』は、本能的に『作者』を求めるようになっているの。──何せ私たちは『作者』に認められて初めて、真の『ヒロイン』になることができるのですからね」
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
「だから! 『作者』とか! 『ヒロイン』とか! いかにもメタっぽい台詞は! 控えやがれ! と言っているだろうが!」
「そうはいっても、これは私たち『ヒロイン』の
最後にぼそっと、いかにも不穏な台詞を、付け加えたりしないでください!
「いや、『ヒロイン』って、おまえは俺の妹だろうが?」
「妹だろうが姉だろうが母親だろうが娘だろうが、関係はないわ。『ヒロイン』である限りは、たとえ他の『ヒロイン』を全員排除しようとも、『作者』を自分だけのものにすることを止められないの」
「他の『ヒロイン』を、全員排除するって……」
「ふふ、案外次の
──‼
こいつ、今この時の俺たちがループ状態にあることを、気づいていたのか⁉
「いやだ、そんなに驚くこともないじゃない。一応私も
「……そういやミヨキチにも、『夢の主体』の
「ええ、だから彼女も、本気でキョンくんを穫りに来るわよ? 何せあなたを肉体的にものにできれば、その時点で勝利条件を達成できるのですからね」
ちょっと待て、それじゃ俺がギャルゲ感覚で、各ヒロインを落としていたんじゃなく、むしろヒロインが全員、俺一人を狙っているってわけか?
「い、いやでも、好都合にも今はまさにループ中なんだから、ミヨキチだろうが他のヒロインだろうが、何かの間違いで関係を持ったところで、八月三十一日になったらリセットされるだけじゃないのか?」
一縷の望みにすがりつくようにして、おずおずと申し出てみれば、帰ってきたのは侮蔑の視線だけであった。
「あなた、あのエセ超能力ボーイから、散々蘊蓄を聞かされたでしょうが? 全知の力を誇る『夢の主体』の
──っ。
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