第5話遺伝子操作
この世界の人間はスキルを使うとき、スキル名を唱えてから使う。
俺も、それに則って、スキルを使ってみる。
この世界で使えないと思われているスキルを授かった人は、名前を唱えても、何も起きなかったり、何か起きていても分からなかったりするらしい。
「遺伝子操作」
そう唱えると、目の前に、半透明のスクリーンが現れた。
そこには、DNAの二重らせん構造を模したであろう物がうつされていた。
「なになに、遺伝子を抽出したい対象と遺伝子を組み替えたい対象を選ぶのか」
とりあえず、俺は、そこらへんに生えている雑草を遺伝子を抽出したい物体に、厩舎にいる馬を遺伝子を組み替えたい対象に選んだ。
選ぶというのも、対象をスクリーンに映し、この対象にすると決定のボタンを押したら選べた。
すると、この草の遺伝子の中から、どの遺伝子を抽出しますか?とアナウンスが出てきた。
『光合成』『窒素同化』『無性生殖』『有性生殖』『栄養生殖』
これらが、出てきた遺伝子の内容だ。
ヒトの遺伝子、ヒトゲノムには、ヒトの細胞内にあるミトコンドリアの遺伝子も、ヒトゲノムの一部として含むから、光合成を行う葉緑体自体に遺伝子があるが、この草の遺伝子として現れたのであろう。
そもそも、遺伝子組み換えと、掛け合わせつまり、品種改良が何が違うかというと、かけ合わせには、近縁種同士が生殖し、子に親たちの遺伝子を残し、さらにその近縁種と掛け合わせて、厳選していく。
しかし、遺伝子組み換えは、近縁種じゃないものの遺伝子を、対象に組み入れ効果を発揮することができるのだ。
例えば、かけ合わせには、犬と狼を交尾させて、ウルフドッグを作ったりすることや、大人しい性格の犬同士を掛け合わせ、よりおとなしい子犬を作ったりすること だが、遺伝子組み換えは、極論を言うと、ハエの遺伝子を取り出して、野菜にその遺伝子を組み込むことすらできる。
しかし、ハエの遺伝子が、野菜の中で発現するか、影響を及ぼすかはわからない。
これが、遺伝子組み換えと掛け合わせの相違点だ。
これを踏まえて、先ほどの草の遺伝子の何を馬に組み込むかを考えるが、ぶっちゃけ、ほとんどアウトっぽい。
しかし、ここは異世界で、神様が、俺にスキルとして遺伝子組み換えを俺に与えてくれたわけだ。ということは、前世では、ありえないような遺伝子の組み合わせでも、神様の力、スキルの力で、大丈夫なんじゃないのか?という意見も俺の中で出てきた。
とりあえず、遺伝子組み換えしてみて、なんかおかしくなったら、それを殺して、誰にも食べさせないようにしよう。
それに、俺には時間がない。
アシュリーが公爵の領地に着くまでに、出来れば取り返したい。そのためには一刻も早くここから旅立たねばならないからだ。
無難そうなので、光合成を選択する。
すると、馬にむかってスキルを使って出てきたスクリーンから、光が扇形に伸びて、スキャンしているみたいに、馬の体に光の線が上下した。
光が収まると、そこには、緑色した馬がいた。
「うげっ、なんか悪いことしたな」
「ななな、なんじゃあぁぁぁあああ?馬が、ゴブリンみたいになっちょるがな!」
まぁでも、これで、馬に与える飼葉の量が減るだろう。
馬は、エサを一日に、たくさん食うから、長距離移動の時は、飼葉が大量に必要だったりするからだ。
しかし、スキルを使用したのは良いが、アシュリーを護送している周りの騎士を殺す攻撃力はない。
どうしたらいいのだろう?
考えろ、考えろ。
「あっ!親父、魔物のハンティングトロフィー、ちょっと借りるから!」
俺は、急いで、家の客間に行く。
そして、そこの壁にかざってある、頭だけになった、魔狼のハンティングトロフィーにスキルを使う。
『魔素吸収』『魔化』『鋭爪』『牙撃』『集団統率』
俺は、『魔化』を選ぶ。
そして、牧羊犬の小屋に行き、遺伝子操作の対象として、牧羊犬を選ぶ。
牧羊犬たちの中でも、最近、老衰で弱ってきている、一匹を対象とした。
老衰で弱っている牧羊犬を選んだのは俺のエゴだ。
すでに、命を弄んでいる感があるので、このさい、やりきることにした。
「ごめんな」
そう、ひと声牧羊犬にかけてから、遺伝子組み換えを行う。
すると、今まで弱弱しく寝ていて、毛もしょんぼりしていた牧羊犬が、立ち上がり、毛もしゃんとして、鋭い目つきになっていた。
すると、親父が俺に追いついたのか、驚きながら、声を発する。
「お前、ドリーなのか?おお!元気になってよかったなぁ!ドリー!」
俺が選んだ牧羊犬は、親父18くらいの時から、飼っていたドリーという犬だ。ちなみに、親父は今、30歳ちょっとだ。
『魔化』というのは生き物が魔物化したときに使う言葉だ。
なので、その現象を『魔化』と指している言葉と思っていたが、その魔化を発現する遺伝子があったことに実は驚いている。
「親父、感動してるところ悪いけど、ドリー連れて行っていくから。そして、ドリーは多分、普通の犬ではなくなってしまったかもしれない、ごめん」
「そうか……ドリーが生きてくれるなら、それでいい」
二人の間に、沈黙が訪れる。
空気を変えようと言葉を発す。
「じゃあ、俺もう、行くから」
「わかった、気張ってこい。ほれ、公爵領までの地図と、金と食料だ。」
そう言うと、親父は、俺に、地図とその他もろもろのはいった袋を渡してきた。
「ありがとう、親父。それと、さっきは、怒鳴って悪かった」
「ああ」
俺は、走って、厩舎に行き、緑色の馬に跨り、ドリーと一緒に、家を出る。
村の中を通る時、「なんじゃ、ありゃ?」と人々は言っていたが、俺は気にせず村を出た。
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