第2話告白
祭りの日になり、村は活気に溢れていた。
人々の表情は、皆、笑顔で溢れていた。
その一方、俺は緊張していた。
勿論、嬉しい気持ちはあるが、俺は、成人の儀式の後に幼馴染であるアシュリーに告白するのだ。緊張しないわけがない。
それに加えて、成人の儀式では、神様からスキルが貰えるのだ。どんなスキルがもらえるのか、それについても不安や嬉しさなどで胸がいっぱいで緊張する。
~~~~~
ゴーン、ゴーン、ゴーン
村の教会の鐘が鳴る。
村の子供たちが、1人1人、教会の中に入っていく。
アシュリーの番になり、中に入る。
数分後、アシュリーが浮かない顔をして、出てきた。
「どうしたの?」
俺は、ひそひそと、アシュリーに話しかける。
「ううん、ちょっとね、後で話す」
俺は聞きたい気持ちはあったが、この場で話したくない、または、話せない事柄なのだろう、と推測して、「そっか」と答えた。この場で、そのことを無理に聞いて、アシュリーにウザいなって思われたら、今後に支障が出るし、なにより、俺の心が耐えきれないだろうからだ。
俺の番になり、教会の中にはいる。
教会の中は、地球とは違い、ステンドグラスなどの装飾は無く、ドアの対面の壁に女神の像が置かれているだけだ。
「跪き、祈りなさい」
神父さんにそう言われ、俺は目をつぶり祈る。
神父さんがなにやら、祝詞のようなものを唱えているが、何を言っているか分からない。
『スキル:遺伝子操作を習得しました』
神父さんの声ではない、声が聞こえた。
これが俺のスキルなのか!
「終わりました。ゼン君、いや、ゼンさん、これからあなたは大人として扱われます。大人としての自覚を持ち、行動していくのですよ。それと、スキルの名前を教えてくれるかな?」
「俺のスキルは遺伝子操作です」
「イデンシソウサ……?ゼン君……、この世界には、神様が何のために作ったのか分からないスキルがたくさんある。君も知っての通り、スキルにあった仕事に就いた人が多いのは事実だ。でもね、スキルなんかに頼らなくても、この世界には活躍している人はたくさんいる。私は、そういう人を尊敬している。だからね、よく分からないスキルだからと言って、落ち込むことは無いよ。それに、後天的にスキルを得ることは出来るんだ。だから、頑張れ」
どうやら、神父さんは俺が、使えないスキルを貰ったと思っているようだ。
だから、フォローの言葉を投げかけてくれているのだろう。
ありがとう神父さん、でも、畜産農家として、これ以上適したスキルは無いので、心配はご無用です。
「ありがとう、神父さん」
そう言って、教会から出る。
教会の外に出ると、そこにはもう、アシュリーはいなかった。
「あれ?アシュリーがいない。なんだ、アシュリーと一緒に祭りをまわろうと思っていたのに、肝心のアシュリーがいないなら、家に帰って、告白のための準備に時間を使おう」
_______
告白の時間まで、あともうすぐだ。
俺は、一張羅を着て、髪も整えて、体も清潔にして、アシュリーに悪い印象を与えないように出来るだけのことはした。
もちろん、今までのことの積み重ねで、人に対する印象は出来るものだから、いまさら、身だしなみに気を使ったところで無駄なことかもしれないが、俺がアシュリーに対する最大限の対応でアシュリーに告白したいんだ。
13回目の身だしなみのチェックと、27回目の告白の言葉を頭の中でのシミュレーションを終えると、ちょうど、アシュリーが丘の上に登ってくるのが見えた。
「ふぅ~、落ち着け~俺。頭の中のシミュレート通りにすれば大丈夫だ。大丈夫だ……大丈夫だよな?いや、弱気なこと言ってる場合ではない、頑張れ!俺!お前なら出来る!」
アシュリーが丘の頂上に着き、俺の前に立つ。
ドックン、ドックン、と鳴る、俺の心臓の音が、耳の隣で生じているかのように感じる。
この心臓の音が、アシュリーに聞こえていたら恥ずかしいな、と思いつつも、俺は、今、たぶん顔を真っ赤にしているんだから、いまさら気にしてもだよなぁ、とも思っていた。
「あ、アシュリー、小さい頃からずっとあなたが好きでした。あなたとなら、僕はこの人生を歩んでいける。いや、あなたとしか、僕の人生は歩んでいけない、と思っています。ぼ、僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」
そう言うと同時に、俺は、頭を下げ、礼の形になり、アシュリーの方に右手を差し出す。
「…………」
アシュリーの返事を待つ。
いま、この瞬間が永遠化のように感じる。
今にも、心臓がこの胸から飛びだすんじゃないかと思うくらい、脈を打っている。
頭のなかで、アシュリーへの思いが、グルグルまわり、呼吸が苦しくなる。
「…………」
沈黙が数十秒経つ。
その頃には、さすがに、俺も、なにか、しくじってしまったのか?と思った。
しかし、まだ、今は忍耐の時、ここで、顔をあげて、告白失敗してしまったらどうする。
急いては事をし損ずる。耐えろ、俺、待て。
いや、しかし、さすがに、これは長くないか?
俺は、恐る恐る、顔だけを上げて、アシュリーを見る。
そこには、この世のものとは思えないくらいの美しく笑いながら泣いていたアシュリーがいた。
「ごめんね、ゼン君……」
そう言うと、アシュリーは全力で俺の前から走り去った。
「ふ、フラれ……た」
俺は膝をつき、その場で呆然として、虚空をみていた。
何時間も、何時間も。
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