遺伝子組み換えで創ろう~ぼくのかんがえたさいきょうのモンスター~
新垣加々良
第1話異世界に転生してから十五年
異世界に転生してから十五年。
俺は人生って甘くないなと感じていた。
そりゃ、俺だって転生したての頃は「異世界転生キタコレ!!」ってなり、俺の時代がついに来たな、とか調子に乗っていましたよ。
現代っ子で、コンクリートで舗装されていた地面を踏んで毎日生活していた俺には、土がむき出しの地面で駆け回ることですら楽しかった。
今となってはそれも生活の一部となり、あの頃の俺を馬鹿だなと思っている。理由は、不便なこと極まりないからだ、特に雨の日の後のぬかるみとか。そのおかげで、コンクリートのありがたみを知った。
勿論、遊んでいるだけではなく、魔法や内政なんかもやってみようと試みたことは何度もある
でも、魔法は貴族や王族、特権階級と呼ばれる者たちが独占していて、一般の家庭である俺の家では習うことは出来なかった。
習うことができないとわかった俺は家のなかを必死になって探したよ。
何をかって?こういう時はだいたい魔法の使い方が載っている本が家の中にあることを前世の知識で知っていたからね。
でも本なんてものは、識字率が高くない世界の一般家庭に置いてあるわけがない。
したがって俺の家にはない。
別に俺の家は、没落貴族だとか、騎士の家系でもないので、親から魔法を教えて貰えたとかも無いし、剣術も出来ない。
内政の方はそもそも、前世で十五歳で死んだ俺には内政に使える知識がない。
こんな風に自分のことを振り返るとナイナイ尽くしで、前世と一緒で凡庸な人生をおくるんだろうなぁ、と思っている。
そんなこんなで、なにもないないづくしの理由を親のせいにして、傍から見ると自分の家を批判しているように聞こえるかもしれないが、俺は親には感謝している。
この危険な中世くらいの文明レベルの世界で、十五歳という、前世で死んだ年まで無事に育ててくれたからだ。
そして、ゆくゆくは長男であるこの俺は家業である牧場を継いで、何不自由なく死んでいくんだろう。
俺はそんな人生を心地よいものだと感じている。
でも、一つだけ、神様に文句を言えるなら言いたい。
「かみさまぁぁぁ、何でこんなに平凡なんだよ俺の人生ぃぃぃぃ!!!」
俺は家の牧場の敷地内の草原の丘で、寝転びながら空にそう叫んだ。
安定しているからと言って、楽しくないわけではないと分かっているつもりだけれど、異世界に来たなら成り上がってみたい気もするだろ?
そんな行き場のない、言っても仕方がない気持ちを叫んだ
「!……何いきなり叫んでるの!?頭でも打ったの!?大丈夫!?」
見られた!!
恥ずっ。
俺の遣る瀬無い気持ちを空に向かって叫んだのを見て、俺が頭を打ったんじゃないか、と驚きながら話しかけてきたのは、幼馴染のアシュリーだ。
「いや~ちょっとね……。そんなことより、ここに来るなんてなんか用事でもあったのか?」
恥ずかしい気持ちを顔に出さないように気を付けながら話題をそらす。
「あ、あ~うん、おばさんに野菜を届けに来たら、ゼン君にお弁当わたしてきて、って頼まれてさ。はい、お弁当」
そう言って、俺に弁当――と言ってもサンドイッチだが――を手渡すアシュリー。
「「あっ」」
渡すときに重なる二人の手
前世では、女子と手が触れるなんてことはなかった。
手を触れることを意識するくらい、俺はアシュリーのことが好きだった。
「あ、ありがとな、一緒に食うか?ちょうど、アシュリーの分もあるみたいだし」
努めて、平静を保ち言う。
「うん、ありがとう!」
「それでね、ゼン君……あの~、そのね、結婚とか興味ある?」
「ングッ!!」
俺は驚き、サンドイッチをのどに詰まらせた。
「水っ、水ちょうだい......」
最近、アシュリーはこの手の話を振ってくる。
俺とアシュリーは年が同じこと、親同士が仲のいいことがあり、小さい頃からお互いを意識してきた、と俺は思っている。
というか親同士が結婚しろ、という雰囲気を俺たちが小さい頃から出している。
「はいどうぞ」
俺は、ゴクゴクと水を飲み、ぷは~と、息を吐いた。
「ありがとう、アシュリー」
明日、村で行われる十五歳の成人の祭りの後に、俺はアシュリーにプロポーズする。
明日、プロポーズしようと思っていたところにアシュリーの結婚についての話が出たので動揺してしまいのどを詰まらせた。
俺が、先ほど空に向かって叫んでいたのは、成人になる前、つまり人生の分岐点を前にして、ちょっと溜まっていたストレスを吐き出し、今後送ることになるであろう、俺の平凡な人生にきちんと向かい合い、アシュリーに告白する踏ん切りをつけるためであったことと、俺の甘ったれた幻想に別れを告げるためであった。
幼馴染のひいき目なしに見てもアシュリーはかわいい。
美人でもあるが、かわいくもあり、性格も良い。
前世の女性みたいに、集団をつくり、誰かの悪口を言う、ドロドロとした女社会を経験していないので、性格も悪くない。
村の中にも、女社会はつくられてはいるが、互いが互いを蹴落とす感じではく、村の人間ならば助け合う感じだ。しかし、よそ者には厳しい。村社会らしい排他的な感じだ。
「け、結婚!!結婚って良いよな!こう、華やかな感じでさ!アシュリーなら貴族様と結婚しても、釣り合うと思うよ!!」
プロポーズを成人の祭りの後にしようと思ってた俺はテンパって、自分の結婚式は華やかなものにしたいという願望や、やはり、俺にはアシュリーは釣り合っていないのではないか、と思っていたことが、そのまま口から出ず、違う言葉に置き換えられて、口から飛び出した。
「!!......ゼン君......そ、そうだよね結婚っていいよね......そう、華やかでいいよね、でも、私は華やかでなくてもいいから、好きな人と結婚したいな......」
「ア、アシュリー、明日、い、今ぐらいの時間帯に、こ、ここに来てくれないか?伝えたいことがあるんだ」
俺は、明日、夕焼けが見えるこの丘の上で、アシュリーに告白する。
なので、アシュリーに明日の今、ここに来るように伝えた。
「あ……///、うん、わかった!」
アシュリーは、俺のこの言葉で、何かを察したのか照れながら、そう答えた。
それからしばらく、今までの人生についてだとか、二人の思い出について夕日が見えるころまで話し合っていた。
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