第9話 手術

すずです。

もう人生最大の悲劇です。

違った。すず、ヒトじゃないから何て言えばいいの、

生涯最大の悲劇って言えばいいの?

人を犬に変えただけのダジャレ言わんといてね

誰も笑わんから。

もー、

そんなんどうでもいいわ。

あの日、雨がシトシト降って寒くて、お父ちゃんもお母ちゃんも、どっかよそよそしくておかしかったんです。

ジッとお父ちゃんを見つめるとお父ちゃんもこっちを見てなんか言いたげで、

お母ちゃんは「すずの寝床や、毛布や」って忙しそうで、

ただでさえ怖い車に乗せられたら、いつもはないケージがあって・・・。

もう観念しました。

そのまま遠いところまで連れて行かれて、

また別の人の子になるんかなぁって。


実は違ったんだけど、それと同じくらいの事件よ。

避妊手術とかで子宮を取られてしまったんです。

すず。オンナでなくなっちゃった。


すすがお父ちゃんに貰われるときの約束で

「かわいそうなこの子たちが増えないよう、避妊手術は必ずしてください。」

って言うことだったんだけど、

そのすぐあとそこの獣医さんが

「今、避妊手術予約してくれたら半額」

ってどっかのテレビショッピングの甲高い声が聞こえてきそうな売り文句に

ついついお父ちゃんが

「よっしゃぁ、それ予約」

って後先考えずに申し込んでしまったんです。

出産はオンナの幸せってヒトは言ってる。

まぁ、その響きにはダンナにはないらしいけど、それは話別よね。

ヒトはレズ婚でも子供欲しがるのにどうしてすずは子供産んだらアカンの。

かわいそうな子が増えるばっかりって言うけど、

だったら、アンタたち「犬に子供を産ませてはならない」って法律作ればいいのよ。

そしたら、この世からアタシたちがいなくなって・・・。

そしたら一番困るのはヒトよね。

大昔、森から追い出され、外敵が怖くてブルブル震えるだけだったヒトに、

お友達になってあげたのは後にも先にもアタシ達だけよ。

アタシ達がヒトを守ってあげたんよ。

アタシ達がいたから勇気百倍で何処へでも行けるようになったんよ。

覚えてる。

それがいつの間にかおもちゃにされちゃって、

「このおもちゃ、言うこと聞かない」ってポイ。

「このおもちゃ、怖い」ってガス室。

「このおもちゃ、売れる」って強制売春。

ポイ捨てするからすずみたいのが出てきて、

世の中どうなってんねん!責任者出てこい!


って言っても

お父ちゃん、テレビ見て笑てるだけやし

まぁゴロニャンしとくしかないか

それにしてもこの手術跡痛いわ、

あの医者ヤブちゃう

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