逆わらしべ長者が地球を救う!?

花ノ壱

逆わらしべ長者が地球を救う!?

 今日は待ちに待った新車の納車日だ。

 買ったのは外車のスポーツカー。

 ディーラーは自宅まで届けてくれるって言ったけど、1秒でも早く乗りたかった僕は朝イチでディーラーまで取りに来た。

 何せ18歳から7年間もこの車のためにコツコツと貯めて買ったのだ。

 開店10分前には着いていたけど、そこは僕も大人。10分待ってから店内へと入った。


「あ、ワラベ タカシ様ですよね」


 ディーラーの店員も驚いているようだった。

 それから少しの手続きと説明を受けてから、いよいよ念願の愛車となる車の受け渡しとなった。

 僕はもう嬉しさのあまり天にも昇るような気持ちで車に乗った。

 まずは両親に見せよう。そう思ったのがこの話の始まりである。


 ディーラーを出て自宅に帰ると、両親が玄関先で待っていた。

 なんだ、出迎えてくれるのかと思ったがどうも様子がおかしい。


 聞くとどうやら父が自分の車を車庫から出す際、誤ってバックしてしまい後ろの壁に激突してしまったとか。さらにその時、右後ろのタイヤをパンクさせてしまったらしい。

 そんなときにちょうど僕が新車に乗ってやってきたそうだ。


「たかし、頼む! 今日だけこの車を貸してくれ。父さん今からどうしても取引先にいかなきゃならないんだ。早く行かないと父さんの首がかかってるんだ。」

「そりゃあ一大事だな。僕が運転するから父さん乗ってよ」

「この車ツーシーターじゃないか? 途中で同僚を乗せなきゃいけないんだよ」

「それじゃあ貸すわけにはいかないよ」

「頼むよ、たかし。父さんほんとに首になっちゃうかもしれないんだ」


 そこまで言われては仕方がないので、僕はしぶしぶ今日納車されたばかりの新車を父に貸した。


 それから父がぶつけた軽自動車のパンクしたタイヤをスペアのものと交換して、修理工場に持っていくことにした。


「本当なら今頃、ドライブしてたのに……ツイてないなー」


 車の修理工場に着くとぶつけた部分の板金を依頼した。

 最低でも一週間はかかるらしい。


「あのー、代車なんてありませんかね?」

「今あるのは全部貸し出し中でね。あの自転車だったら使ってもいいけど」


 そう言って指を差した方向にはボロボロの自転車があった。

 自分が住んでいる地域は、そこそこの田舎でバス停も駅も近くにはない。

 仕方がないのでその自転車で帰るとことにした。


「せめて車でドライブしたかったのに。こんなオンボロ自転車じゃ気分も乗らないよ」


 自宅に着くと今度は妹が玄関から飛び出してきた。


「お兄ちゃん、その自転車貸して!」

「おまえの原付があるだろ?」

「ガソリン入れるの忘れてて動かないのよ。今から彼氏とデートなんだけど、駅前で待ち合わせなの。このままじゃ遅れちゃう。だからその自転車貸して!」


 僕はしぶしぶ妹に自転車を貸した。

 僕も暇になったので駅までこの自転車で行こうと思ったのに。


「お礼にこれあげる」


 妹は去り際に、持っていた少女漫画を一冊手渡した。


 公園にでも行って漫画でも読むか。

 しかたなく僕は公園まで散歩することにした。


 公園に着いてベンチで一休みしたあと、妹から貰った漫画を開くと隣のベンチから視線を感じた。


 小学3、4年くらい少女がこちらをじっと見ている。そう言えば今、僕が読もうとしているのは少女漫画だ。

 不審に思われのかも……


「これ読む?」


 僕は勇気を出して聞いてみた。


「うん! 読みたい!」


 小学生の女の子といっしょに読むとお巡りさんが来そうなので、僕はその漫画を少女にあげることにした。


「いいの?」

「うん、いいよ」

「ありがとう」


 その少女はお礼にと、僕に絆創膏を3枚くれた。

 怪我をする予定はなかったけど、ありがたく貰うことにした。


 公園にいても仕方ないので、僕は自宅に帰ることにした。

 途中で近所のおばさんに会った。

 夕飯の買い出しの帰りだろうか、大きなビニールの袋を持っている。

 すれ違い様に会釈をしたその瞬間、おばさんの持っていたビニール袋の底が破け、ミカンが一つ二つと転がり落ちた。

 僕は慌ててそれを拾うと、おばさんに手渡した。


「あら、やだ。袋が破けちゃったのね。拾ってくれてありがとね」


 おばさんはそう言うと、袋の破れた部分を手で押さえながら持ち辛そうに袋を抱えた。

 僕はついさっき、少女から貰った絆創膏3枚で、その袋の破れた部分を塞いだ。


「あら、ありがとう! おかげで助かったわ。これあげる。さっき商店街で貰ったの」


 おばさんはそう言うと、商店街で使えるという福引券を1枚僕に手渡した。


 僕は「どうも」と挨拶をして、自宅とは反対方向の商店街に向かった。

 どうせ暇だったので、せっかくだから福引券を引こうと思ったのだ。

 なにより1等はハワイ旅行なのだそう。

 人に親切にしたからいい事あるかも、なんて期待に胸を躍らせて。


 しかし、当たったのは残念ながら参加賞のトイレットペーパー。

 そのトイレットペーパーをぽーんと上に放り投げてはキャッチする、を繰り返しながら自宅に帰ることにした。

 途中で先ほどの公園を通りかかったが、漫画をあげだ少女はもういなかった。


 僕は急におしっこがしたくなったので公園のトイレによることにした。

 すると突然、公園のトイレの一室の中から男に声がした。


「誰かおらへんか? どこにも紙無くて困ってんねん。金払うんで、コンビニかなんかで買ってきてくれへんか?」


 関西弁のその男は60~70歳くらいのしゃがれた声で叫んでいた。


「一応私物のトイレットペーパーなら持っていますよ」


「おお! それくれへんかな?」


 僕は「いいですよ」と言ってトイレットペーパーをその個室に投げ入れた。


 するとその男は、個室の壁を挟んで話始めた。

 車を運転中、急にお腹が痛くなりこの公園に止めてトイレを使ったら、紙がないのでここから出られなくなっていたんだそうだ。


「ほんまありがとな。おっちゃん、ちゃんと拭かな気持ち悪くて出られないたちやねん」

「ハンカチとかは持っていなかったんですか?」

「今日持ってるハンカチはな、たまたま娘からのプレゼントのやつやってん。そんなもんで拭かれへんやろ」

「名刺とか、何か紙みたいなものは?」

「サラリーマンが名刺でケツ拭くなんてありえへんわ。名刺ちゅーのはな、命みたなもんやで」


 そう言うとその男は、トイレの個室の下にある隙間から手を出して名刺を一枚僕にくれた。

「〇〇商事 代表取締役」と書かれた名刺だった。


「兄ちゃんは命の恩人やで。このあと大事な会議なんやけどな、社長がその会議に遅れるわけにはいかんのや」

「はあ……」

「兄ちゃん、なんかあったらそこに書いてある番号に電話しいや。兄ちゃんの頼みなら、おっちゃんが聞いたるで」


 顔を合わせるのも気まずいので、その男がトイレから出る前に僕はそそくさとその場を去った。


「あーあ、トイレットペーパーなら使い道もあるのに、こんな名刺貰ったところで何にも嬉しくないよ」


 そうこうしてやっとのこと家に帰ると、ガレージには僕の車が停まっていた。

 ようやく帰って来たのかと安心して玄関を開けて家に入ると、リビングで父が頭を抱えていた。


 どうやら自分のせいで大きなミスをしてしまい、取引先に迷惑をかけてしまったらしい。

 今日はその謝罪に行ったのだが取りつく島もなかったようだ。


「はぁ~…… 〇〇商事との取引が終われば、うちの会社は大損害。俺のクビも免れん」


 〇〇商事? 聞いたことあるな。あ、さっきのおっさんの名刺に…… やはり同じ名前だった。

 僕はその場で名刺を父に渡した。


「お前、これどうしたんだよ? 〇〇商事の社長の名刺じゃないか!?」

「父さん、今からそこの電話番号に電話して、『さっきトイレでトイレットペーパーを渡したものです』って言うんだ。そしたらきっと全て上手く行くよ」


 僕はそれだけ言うと、2階の自分の部屋に入った。

 ふぅ~なんだか今日は疲れたな。そんなことを思いながらベッドでウトウトしていると、階段をダダダダっと上がってくる音が聞こえた。

 その足音はそのまま僕の部屋の前で止まると、トントンとドアをノックした。


「どうぞ」


 僕の声とほぼ同時くらいにドアが開くと、そこには父が立っていた。


「お前のおかげで上手く行きそうだよ! ほんとに助かった! ありがとうな!」


 父の喜ぶ顔が見れただけでも良しとするか。と思っていたが、それだけではなかった。

 父の手には見慣れない直径30センチほどの黒い石が……


「お礼にこれをやろう。父さんが40年ほど前に、とある森で拾った石だ。非常に珍しいものでな。なんと地球には存在しない鉱物で、おそらく隕石らしいんだ」


 正直いらない。今まで貰ったものは、それでも少し役に立つ要素はあったけど、これだけはマジでいらない……とは言えなかったので、これまた仕方なく貰うことにした。

 置くところがないから、ベランダの棚の上に飾ることにした。


 そしてその夜、眠りについた僕はカーテンの隙間から差し込む、突然の眩しい光で目を覚ます。

 眠たい目を擦りながら、ベランダに出てその光の先を見ると何やら人影が……

 だが逆光でよく見えない。小さい人間のようにも見えるけど

 あれ? ここ僕の部屋だよな?


「だれ? 誰かいるの?」


 少しして返ってきた返事は、まるで人間とは思えないような声をしていた。そうそれはまるで宇宙人のような……


「ヨウヤク、ミツケタ……ワガホシノ、タカラ」

「我が星の宝?」

「ソウダ……コノイシハ……ヨンジョウネンマエ……コノホシノ、ドコカニ……オトシタ」

「この石って、この石?」


 僕は父さんに貰った石を指差した。


「ソウダ……コノイシハ……モトモト、ワレワレノ、モノ」

「でも40年前に父さんが拾ったんだから、もう父さんのものだよ。そして今日、それを僕が貰ったんだ」

「カエサナイト、イウナラバ……コノホシヲ、シンリャクスル、マデダ」

「侵略するだって!? ちょっと待ってくれ。君たちは、もしかして宇宙人なの?」

「モシカシテ、デハナク……ソノトオリダ。ワレワレガ、ソノキニナレバ……コノホシナド……アットイウマニ……ケシトブゾ」

「分かったよ。返すよ。だから地球に侵略するとか止めてくれないか?」

「イイダロウ。カエスノデアレバ、ワレワレモ……コノホシカラ……サルコトニ、シヨウ」

「よかったよ。地球が滅ぼされなくて」

「ダガ……コノ、キオクハ……ワスレテ、モラウ」


 僕は朝起きると、何故か頭がガンガンした。

 何か悪い夢でも見ていたような……

 あれ? ベランダに置いておいた石がない。


「まあ、いいか。さあ今日は、一日中愛車でドライブだ!」

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