第4話

   四



ケーキ

冷蔵庫に戻し

ワイングラスも片づけた

もう帰らない気がするの

九時すぎたし


私は私の荷物を持って

最近は殆ど帰ってない

自分のアパートを鍵を探し始めている

楽しかった

それでいい

私はあなたと一年も居られた……



マンションのドアに鍵をかけ

ドアポストから中へ滑らせる寸前

「どこ行くの?」

柔らかい優しい声

いちばん聞きたくなかった声

振り向けずに言う

帰るの

一番ふさわしいところ

だってあなたはお坊っちゃまで

一流企業につとめてて

私は小さな玩具会社で

事務やってるだけの……

「こっち見て」

振り向かされた私の目にうつったのは

いつになくダサイずぶ濡れのあなた

いつも後ろになでつけてる、きれいなおぐしがザンバラで

コートもズボンもドロだらけ

「どうしたの!?」

やっとこっちを見てくれた

言いざまあなたは私を抱きしめた



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