再生能力者のきまぐれ

睡魔王

クラス転移

第1話

「おれたちを異世界に召喚しただと!? ざけんな!」


 誰かの怒鳴り声。


 声が響いているのは薄暗い石造りの部屋。

 2‐C全員でもまだまだスペースが余る程度には広い。

 所々に暖色の灯りが配されている。

 普段あまり街では見ない形のライト。

 古風趣味?

 あるいは、西洋ファンタジーとかで目にするランタンみたい。


 俺、鬼灯ほおずき燈火とうかは目覚めたらここにいた。


「あなたたちは選ばれたのです」

「なんだと!? 説明しろや!」


 掴みかからんばかりの山田。

 口角泡も飛ばしている。

 怒気と唾を受けているのはティアラをした女。

 山田に怒鳴られても平然としている。

 大した度胸だ。


 清楚っぽい出で立ち。

 肌は滑らか。

 瞳は金。

 カラコン?

 髪は白っぽい。

 特に目をひくのは服装。

 薄手のローブ。

 あれだ。

 西洋絵画とかで目にする女神のイメージ?

 それがアニメっぽくアレンジ入った感じ。

 というか、


「ええ、もちろん説明します。あなたたちを召喚したのは、この女神なのですから」


 モノホンの女神さまな可能性が出てきた。

 一部の男子がコソコソ話し始める。


「これ異世界召喚じゃね?」

「だよね?」

「馬鹿。夢だよ、夢」

「夢の共有ってあるのかな?」

「リアルすぎるって」

「あれか? クラス転移ってやつ?」

「転移は僕だけでよかったわー」

「同感」

「このクラスでまとめて召喚じゃゼンゼン選ばれてないよー」


それは同感だこのクラスは最低のクラスだ大体のやつは髪を染めてるし、女は化粧品のにおいがプンプンする。男はヤンキーみたいなやつが主に目立っているそのくせ頭がいいときたもんだ、ほんと不公平だ。


 ある日、平凡な学生や社会人が目を覚ますと異世界にいた。


 異世界転生。

 異世界転移。


 俺も一応知っている。

 少し前に流行った小説やアニメのジャンルだ。

 赤ん坊スタートの転生とやらではなかったようだが……。


一部のビッチどもはパニック状態。


「ありえないし! ドッキリでしょこれぇ!?」

「ここどこ!? ヨーロッパ!? アメリカ!? ジ、ン、バ、ブ、エ!?」

「あたしら教室にいたよねよね!?」

「死んだの!? 今わたし霊体!?」

「はぁ!? スマホ電源入んないんだけど!?」

「私の荷物ないじゃん! 化粧とか着替えとかどうするわけー!?」


 ま……今は状況に従うか。

 夢ならいずれ覚めるだろう。


「…………」


 手を開く。

 閉じる。

 ほっぺをつねる。

 痛い。

 リアルな感触。

 夢とは思えないが……。

  周囲を見渡す。

 RPGの兵士みたいな恰好をした男が数十人。

 槍や剣を手にしている。

 ま、反抗は無理か。

 クラスメイトたちは丸腰。


 運動神経抜群の桐原。

 腕っ節の強い山田。

 学級委員長で古武術使いの藤堂。

 実は喧嘩も強いと噂される田辺姉妹。


 この五人がいても制圧は非現実的だろう。

 担任の鈴木からも抵抗の意思はうかがえないし。

 今のところ過激な反応をしているのは山田くらいだ。 

 鈴木が立ちあがって皆を諌めはじめる。


「ぼくにも今の状況はわからない! だからこそ今は、この女神様の説明を聞こう!」


 自分がリーダーと言わんばかりに声を張る鈴木。

 ちなみに鈴木はさっきから女神の胸もとをチラ見しまくっていた。

 異世界に来ても鈴木は鈴木のようだ。


「ありがとうございます、センセイ。それでは皆様、説明を始めさせていただきます」


 楚々と微笑み、女神は説明を始めた。


お~い!鈴木~!鼻の下伸ばすな~!




 説明を聞いて状況を少し理解できてきた。


 こういうことらしい。


 悪の親玉とされる魔王とやらがこの世界で復活した。


 俺が今いるここアライン王国では巨大な邪悪が現れるたび異世界から”選ばれし勇者”を召喚している。


 召喚された勇者たちは過去に発生した邪悪を何度か打ち倒している。

 ちなみに最後の召喚は200年ほど前。

 今だと、勇者の存在は伝承として語られる程度だそうだ。


 それでもアラインは他国から特別視されている。


”アラインは異界から救世の勇者を召喚する秘術を有している”


 これは大陸中に知れ渡っているという。

 なので大陸では一目置かれる国なのだとか。

 そしてそのアラインには国王より上位の存在がいる。


 女神フェリカ。


 女神を信奉するフェリカ教団には、国王ですら手を出せないとか。

 そう――勇者召喚の秘術を使えるのが、あの女神なのだ。


「つまりその魔王とやらをオレたちに倒せっていうのか?」


 桐原が質問した。

 この場で発言権を持つ者は自然と決まる。

 うち一人は当然、桐原拓斗。


「そうなります」

「ふーん。オレたちが協力しなかったら?」

「あなたたちは元の世界へ戻ることができません」

「戻る方法があるのか?」

「あります。ですが、魔王を倒さねば戻れないでしょう」

「なぜ?」


 女神が兵士に何か持ってこさせる。

 持ってこさせたのは、黒水晶の首飾り。


「逆召喚の儀には”邪王素”《じゃおうそ》と呼ばれる特殊な魔素が必要となります」


 女神が指を二本立てる。


「今、明らかになっている入手方法は二つです」


 女神が説明。


「一つは邪王素の源である魔王の心臓を手に入れること。もう一つは魔王が消滅する際に放出される邪王素をこの首飾りの水晶に取り込むことです」


 邪王素とやらを手に入れないと2‐Cを元の世界へ戻す儀式ができないらしい。


「そんなの全部おまえらの都合だろうが! ざけんな! 魔王とかおれたちには関係ねぇんだよ!」


 説明を受けても山田の腹の虫はおさまらない。

 女神が恭しく跪く。


「どうかこの世界を救っていただけないでしょうか、勇者様」

「ゆ、勇者ぁ? お――おれも勇者なのかよ?」


 急に下手に出られたせいなのか。

 はたまた”勇者”と呼ばれ、まんざらでもなかったのか。

 弾けそうだった山田の怒りが引っ込んだ。

 誰だって自分の存在を持ち上げられて悪い気はしない。

 あんな美女にとなれば、男ならなおさらだろう。


「皆様全員が救世の勇者なのです」

「あ、あのっ」


 発言権を求めて挙手したのは藤堂。


「質問してもいいですか?」

「どうぞ」

「と、藤堂綾香です」


 ぺこり。


「ふふ、トウドウさんは礼儀正しいのですね」

「い、いえ」


 謙遜する藤堂。


「さて、質問とはなんでしょう?」


 先を促す女神。


「見ての通り私たちはなんの力もない普通の人間です。どころか……戦いの経験のない人がほとんどだと思います」


 藤堂は古武術使い。

 異世界でも通用するのだろうか?


「そんな私たちにいきなり救世の勇者?と言われても、力になれるとは思えないんですが……」

「大丈夫です」


 女神は動じない。

 何か知っている顔。

 あれは、確信の表情だ。


「あなたたちは他の人間にはない特別な力を持っています」


 動ずる藤堂。


「で、でも! 心当たりなんてありません!」

「ええ、そうでしょうね」


 余裕を崩さず、女神は言う。



「こ・こ・へ・、召・喚・さ・れ・る・前・ま・で・は・」



 ていうか、あの女神。

 なんというか――


 最初から藤堂の反応を予・測・し・て・い・た・みたいだ。


 召喚された勇者たちが過去に何度かこの世界を救ったと聞いた。

 過去の勇者たちも最初、ほぼ同じ反応をしている?

 つまりは慣れているのか。

 あの女神は。


 こういう流・れ・に。


 テンプレに。



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