改造人間戦奇譚
雨天いおり
第1話 最終回!リベンジャーブレイド!
鬼崎ケンスケは改造人間である!
悪の組織ダークマクロに両親を殺され、自身も改造兵士ブラックオーガとして改造されてしまった!
大幹部となり破壊と殺戮の限りを尽くし、最強の兵器として完成するかに見えたブラックオーガであったが、偶然起こったアクシデントにより正気を取り戻す。
逃亡の果てに目にしたのは、変わり果てた家族の姿であった。
復讐の怒りに燃える鬼崎ケンスケは、
雲一つない夜空には、満月が浮かんでいる。
蒼い月光が映し出すのは、巨大なビルの屋上に佇む一人の男。
ただし、男が立つそこは、最早一般的なビルではない。
ほんの数分前、そこにあったヘリポートや貯水設備などは軒並み吹き飛び、今は禍々しい石柱に囲まれた巨大な玉座が鎮座している。
時折、心臓の鼓動のような重低音を鳴らす玉座。それを中心として成人男性の胴ほどもある歪なパイプが、屋上を埋め尽くし、更にはビルの中にまで縦横に走る血管の様に這いまわっている。
幾重にも重なるそれは、侵入者の行く手を阻む不気味な迷路にも見える。
そして、そのさながら魔界を切り取った様な禍々しい空間の中に立つその男も、出で立ちは常人のそれではなかった。
それは戦うために作られた身体。
超合金の骨格と強靭な人工筋肉が構成する身体。それを覆う鎧は闇夜に溶け込むような黒に染まり、筋肉を縁取るように燃え立つ真紅のラインが走っている。
血涙を流している様な装飾が施されたマスクは、悲しみを耐えるように口を一文字に結んでいる。
鈍く硬質に光を反射する身体は、真新しい傷が各所にあり、この場に立つ直前まで激戦を繰り広げて来たことを物語っている。
そして彼が睨む視線の先。つまり屋上の中心に位置する玉座に泰然として佇むモノは、醜悪な怪人体へと変貌を遂げたダークマクロ総統マスターダーク。
先程まで、玉座に埋もれる様に座っていた老人が、今や3メートル程もある巨体に膨れ上がっている。
枯れ枝の様だった筋肉はその力を誇示するように張り詰め、背中や脇腹、腰などからまばらに生えた触手は、うねうねとイカやタコの足の様に蠢いている。
甲殻類の様な禍々しく硬質な外殻にどす黒い邪悪なオーラをまとい、無感情に支配されたその両の目は、玉座から復讐に燃える男を見下ろしている。
『よくぞジェノサイダーゴールドを打ち破ったなブレイドよ。
適者生存の法則からすれば、貴様は非常に優れた個体と言える。
最後にチャンスをやろうブレイド。我に仕えよ。
さすれば、いずれ世界は貴様の物となるだろう。』
「黙れ!!マスターダーク!!
俺は、貴様たちに弄ばれた人々の悲しみを忘れはしない。
俺は、貴様たちに殺された、両親の嘆きを忘れない!
俺は!
俺自身の怒りを忘れないっ!!!」
明確な拒絶の意思が殺意と共に放たれる。
物理的な衝撃を伴う程になったそれが、周囲の瓦礫を吹き飛ばす。
ゴウゴウと吹き荒れる瓦礫など意にも介さず、心底惜しいとでも言うようにマスターダークが言葉を放つ。
『残念だなブレイドよ。
貴様であれば、我の・・・
マスターダークはそこで言葉を切り、じっとブレイドを見つめる。
そして、醜悪に口元を歪めて笑う。
・・・我の、よい器になれたというのに。』
マスターダークに悔恨や良心などは微塵も存在しなかった。
あるのは、目の前にある成果物を壊さねばならないという
鬼崎ケンスケにもはや語るべき言葉はなかった。
「・・・・さあ、マスターダーク。決着をつけよう。」
足の裏にあるスラスターに火が灯り、弾けるようにリベンジャーブレイドが飛び出す。
左胸に埋め込まれた月光炉がうなりを上げ、余剰エネルギーの残滓が淡く光る軌跡を残した。
一瞬でマスターダークに肉薄し、エネルギーを込めた右拳を打ち出す。
「
渾身の威力を以て打ち出された必殺の拳が、目標を打ち据えることなく、打ち出されたエネルギー諸共弾き返された。
「なにっ!?ぐおおおおおおおおお!!」
弾き返されたエネルギーをもろに浴びて、それまでの軌跡をなぞる形で後ろに吹き飛んでいく。
縦横に走るパイプに激突してもなお勢いは止まらず、いくつもの障害物を蹴散らし、一際巨大なパイプに激突しようやく停止する。
「ガハッ!!」
クレーターの様に歪んだパイプにめり込むブレイド。
シュウシュウと全身から白い煙が立ち上っており、弾き返されたエネルギーの凄まじさを物語っている。
『無駄だブレイド。我に傷をつける事など不可能だ。
我は全知にして全能。いかなる干渉も受け付けぬ。
考え直せブレイド。頭を垂れ、跪け。
そして神に等しき我の僕となるのだ。』
「黙れ・・・。
この体朽ち果て、魂が燃え尽きようとも、俺は貴様を許しはしない。」
復讐の炎をその目に宿し。がくがくと震える体に鞭打って、再びマスターダークと対峙する。
しかし、物理的な干渉を全て反射するマスターダークに、有効な攻撃手段を見いだせない事も事実だ。
このままでは、じり貧になってしまう。
――――――何か・・・何か、秘密があるはずだ―――――
マスターダークは玉座に座ったまま動こうとしない。
台座を彩る巨大な二本の柱の間から、悠然と佇みこちらを見下ろしている様は、絶対的な自信と余裕を感じさせた。
「奴が余裕ぶって攻撃してこない内に、何とか対抗手段を考えなければ・・・。」
そこでふと、ブレイドはあることを思い出していた。
組織を裏切ったために、非業の死を遂げた怪人エレキアントの最後の言葉を
【柱を倒せリベンジャーブレイド。マスターダークを玉座から引きずり降ろさなければ、お前に勝ち目はない。
柱を・・・柱・・・を・・・・・】
「柱・・・二本の柱・・・・まさか!
【アナライズ・アイ】」
<説明しよう。
リベンジャーブレイドの特殊能力の一つ「アナライズ・アイ」とは、光、電波、熱等のあらゆる波動を見ることが出来るのだ!!>
アナライズ・アイによって映し出された光景。それは、マスターダークを中心にして、二本の柱から放たれる強力なエネルギーの奔流だった。
―――――っ!!ヤツの秘密はあの柱か!――――――
次の瞬間、雄叫びと共に両拳を胸の前で打合せる。
そのまま月光炉の回転を上げ、膨大なエネルギーを生み出す。
青白く輝く超エネルギーは、全身を駆け巡り、再び拳へと導かれる。
「いくぞ。マスターダーク!」
半身になり左拳を前に突き出し構えを取る。
重心を落とし、再びスラスターに火を入れる。
『ククククク・・・無駄なあがきだブレイド。
何度でも立ち向かってくるがいい。
そして己の無力さを噛み締めよ。』
「ほざけっ!!」
急加速するリベンジャーブレイド。先程弾き飛ばされた距離など、無かったかのようにマスターダークへ肉薄する。
加速のエネルギーを左拳に乗せ、渾身の力を以って打ち出す。
「スタンフラッシュ!!」
青白い光の起動を描く拳は、標的に触れる事は無かった。マスターダークの眼前で開かれた左腕が、眩い光を放つ。
本来は破壊のために打ち出されるエネルギーを、そのまま光量に変換した閃光に、周囲は一瞬にして影を失い、白一色の世界へと塗り替えられた。
『ぐぅうおおおおおおおおお!!おのれぇえ!
目つぶしとは小癪なまねをっ!!』
「うおおおお!!」
突き出した左腕を起点に身体を捻り、両足のスラスタ―で姿勢を強引に入れ替える。時計回りに得た加速を右拳に乗せ、振り向きざまの裏拳を、マスターダークにではなく、玉座を守るように立つ柱の一本に叩き込んだ。
柱から流れ出るエネルギーと右拳から放たれるエネルギーが衝突し、膨大な熱量となって膨れ上がる。
柱は一瞬でひびが入ったかと思うと、吹き荒れる熱量の波にへし折られ、基部を残して粉々に吹き飛んで行った。
そして熱量の嵐は、柱だけでなく等しく周囲の物体に襲い掛かる。その中心にいたマスターダークとブレイドも例外ではない。
吹き飛ばされたブレイドは玉座を囲んで立つ他の柱に打ち付けられ、倒れ込んでいる。体からはブスブスと煙が上がり、体を覆う外殻鎧の所々は破損してしまっている。
しかし、さらにダメージを負った者がいる。柱からのエネルギーに守られていたマスターダークだ。
二極のエネルギーの中心点に立つことにより、外部の物理干渉を無効化していたため、片方のエネルギーが途絶えた瞬間、もう片方のエネルギーが、拮抗することなく中心点にに居るマスターダークに流れ込んだのだ。
シールドのエネルギーに襲われ、更に、ブレイドが起こした大爆発の熱量に焼かれたマスターダークは、体を覆っていた触手がちぎれ跳び、露わになった本体が真っ黒に炭化し、内部機構がショートしたためか断続的に火花を散らしている。
もはや動くものは居ないと思われた。
しかし、常人ならば足を踏み入れただけで全身を焼かれてしまうような、凶悪な熱が荒れ狂う空間に動くものがある。
ボロボロの体を引きずり起こし、ゆっくりと立ち上がる。
一歩一歩、踏みしめるように玉座へと近づいていく。
「・・・・終わりだ。マスターダーク。
俺の復讐はここに完成する。」
ギシギシと不協和音を奏でる体に喝を入れ、とどめの一撃を叩き込もうと右の拳を振り上げた。
その刹那、玉座の周囲にちぎれ跳んでいた触手が飛び出し、ブレイドの体を拘束した。
「くっ!これは!」
『かかったなブレイド。我が触手にはこのような使い方もあるのだ。』
ずるりとマスターダークが起き上がる。火花を散らし、炭化した体表が煙を吐いているが、その動作にはダメージを感じさせない。
『見事だリブレイド。我をここまで追い詰めるとは、汝を強者と認めよう。
そして、我を脅かし得る強者は、この世界には不要だ。ここで、滅するがいい。』
その言葉が終わると同時に、ブレイドの全身を拘束している触手から強烈なエネルギーが放出された。
強靭な外骨格を貫き、全身の人工筋肉が焼け、内蔵器官が悲鳴を上げる。
「ぐぁあああああああああああああ!!」
『フハハハハハハハ!心地良い。実に心地よい悲鳴だ。
我が野望に立ちふさがった愚かさを呪い、復讐を果たせぬまま散華せよ!』
勝利を確信したマスターダークが、ただれた顔を歪ませて嗤う。
もはや、目の前の敵に見る物はないと言わんばかりに、天を仰ぎ大笑する。
その時だ。
一本の腕が、マスターダークの胸から生えた。
『な・・・に・・・』
ゴブと白い人工血液を吐き出すマスターダーク。
飛び出した腕は白く染まり、輝きながら鳴動する何かを掴んでいる。
「あれは!」
リベンジャーブレイドはその腕に見覚えがあった。
漆黒の鎧に電の様に走る黄金のライン。圧倒的な破壊をもたらす腕。
死闘の末に、因縁の決着を迎えた宿敵、ジェノサイダーゴールドの右腕だった。
「クッハハハハハハ!待っていた!待っていたぞこの時を!!
首領閣下・・・いや、マスターダーク!!
貴様の太陽炉はオレがもらった!!」
ズルリと腕を引き抜き、マスターダークを蹴り飛ばす。
『くっ!おのれぇえ!貴様はリベンジャーブレイドに敗れ、死んだのではなかったのか!』
「俺は死ねん。俺を救うために犠牲になった者のためにも、絶対に死ぬことは出来んのだ!!」
そう言って、ジェノサイダーゴールドは、まとっていたボロボロのマントを脱ぎ棄てた。
現れたのは、無残に焼け焦げた左胸の傷と、致命傷であったろうその傷に埋め込まれ、失われた機能を補うように拍動する小型のエネルギー炉だった。
「ゴールド・・・それは・・・」
「ブレイドよ。貴様はよく戦い、そしてオレに勝利した。
これはその戦いの傷、そしてクィーンアラクネのエネルギー炉だ。」
「な、に・・・。」
愕然とするリベンジャーブレイド。そして、なおもジェノサイダーゴールドの言葉は続く。
「自らの命と引き換えに、クィーンアラクネはオレの命を救った。
ならばもう、オレは引き返せない。留まる事などできようはずもない!!」
雄叫びと共に、右胸の装甲を引き剥がし、右腕に掴んでいた太陽炉を捻じり刺した。
周囲に閃光が走る。静かに脈打っていた太陽炉は、新たな母体を認め、触手を伸ばす。
ジェノサイダーゴールドの剥き出しになった素体に突き刺さった触手は、融合しながら更に細かに別れ、脈打つ血管としてジェノサイダーゴールドの体を内側から侵食していく。
そして、その浸食が全身に及んだ瞬間、ジェノサイダーゴールドの体から閃光が放たれた。
破壊の後すら白く塗りつぶした閃光は、徐々に収束していき、やがて静寂を取り戻した。
ドクン・・・ドクン・・・
単純に、しかし大地そのものが震えているような、重々しい拍動がこだまする。
金色の光を明滅させ、ゆっくりと脈動する太陽炉を右胸に宿し、そこから伸びる複数の触手や血管に覆われ、二回りも肥大化した体躯。
地鳴りのような拍動は、そこから発せられていた。
より戦闘的に、より破壊的に変化した全身を覆う装甲。
太陽炉の脈動に合わせ、装甲の隙間から黄金の光が漏れる。
肉体に収まりきらないエネルギーが溢れ出しているのだ。
そこに在るのは、もはやジェノサイダーゴールドではなかった。
ただそこに在るだけで、圧倒的な力を感じさせ、絶望的な破壊をもたらす何かだった。
「・・・ゴールド・・・」
『・・・・・否。ジェノサイダーゴールドデハナイ。
人類社会ニ終焉ヲモタラシ、コノ星ヲ救済スルもの。
救済者ニシテ統一者。新タナル地球ヲ統ベルもの。
我ガ名ハ、救星王ナリ。』
救星王。そう名乗ったそれは、無造作に。さも埃を払うかのように無造作に、左手を払った。
その瞬間、太陽炉のエネルギーを含んだ凄まじい嵐が吹き荒れ、周囲パイプ、柱、鉄骨、ありとあらゆる物を砕き、捻じ切り、吹き飛ばす。
「う、おお、お、お、お、お、お!!」
咄嗟に全身からエネルギーを放出し、荒れ狂う太陽炉の風を相殺する。
嵐のあとに残ったのは、救星王を中心にして渦を巻くようにえぐられたコンクリートの床と、かろうじて防御できたブレイド。
そして、その重量故に踏みとどまった、かつてマスターダークだったものだ。
『・・・す、凄まじい・・・ちか、らよな・・・救星王・・・
その・・・ちからハ・・・神にも、ひとし、い・・・』
耳障りな雑音が混じる声で、マスターダークが笑う。
『・・・・耳障りだ。』
その一言で、突如マスターダークが燃え上がった。強烈な熱の中で瞬く間に灰となり崩れ落ちる。
熱気を取り払うかのように吹いたビル風が、そこには何もなかったとでも言うように、灰をさらっていった。
「マスターダーク・・・」
あまりにもあっけない仇敵の最期。
じっと、その焼け跡を見つめるブレイド。その胸に去来するのは、虚しさでもなく、悔しさでもなく、ただの哀れみだった。
『人ノ世ハ・・・』
ハッとして、声の方へ視線を向ける。
救星王はその目を、周囲を囲むビル群そしてその先に広がる街並みへと向けていた。
『人ノ世ハ、今宵ヲ以ッテ終ワリヲ告ゲル。
カツテ、豊カデアッタ地球本来ノ姿ヲ取リ戻スノダ。』
ぞわぞわと、救星王を包み込む触手が動き出す。花弁が開くようにその先を開いたかと思うと、その先端にまばゆい黄金色の光が集まってゆく。
『滅ビヨ。』
パアッと光の玉が町の空を覆った。輝く雪がゆっくりと降り注ぐように見えるそれは、その絶望的な結末とは裏腹に、この世の物とは思えない程に幻想的だった。
ふわりふわりと、地表に向かって降りていく光の滴。その最初の一つが、ビル群の一角に触れた。
響き渡る轟音。破壊をもたらす熱波。まるで昼間の様に周囲を照らす閃光。
高層ビルのほとんどを吹き飛ばしたその爆発を皮切りに、見渡す限りの視界全てが閃光に彩られ、誰一人として悲鳴さえ上げることが出来ないまま、一つの町が地球上から消滅した。
「や、やめろ!!」
全力で拳を放ち、蹴りを繰り出す。その全てに月光炉の力が乗っている。
しかし、目の前の破壊の化身は小揺るぎもせず、その間にも、断続的に光球は生み出されている。
「くっ!ならば!」
バックステップ。最大の技を繰り出すべく、距離を取る。
左脚を踏み出し、右脚を引く。半身になり、右手を腰のベルトへ、左手は手のひらを内側に向けて標的にかざす。
「月光炉―――
―――――ドゥンッ!!
瞬間、左胸に埋め込まれた月光炉が唸りを上げる。
獣の咆哮を思わせる稼働音と共に、燃えるようなエネルギーの余波が左半身を包み込む。
「まだだ。流星炉――――
――――――ギィインッ!!
右胸から光が流れ出る。それは風を纏うように、右半身を包み込んだ。
【流星炉】それはかつて、リベンジャーブレイドのパートナーであったストライカービーが、自身の命と引き換えに移植したエネルギー炉である。
「ストライカービー・・・蜂谷サツキ・・・俺に力を貸してくれ。」
二つのエネルギーは腰のベルトで融合し、増幅され、右脚へと収束してゆく。
右脚の装甲が展開し、破壊を生み出す形へと姿を変える。
「いくぞ救星王!!」
地上を覆う熱風に追われ、雲一つない夜空へと飛び上がる。
更なる高度へ上昇すべく、背面と脚部のスラスタ―に火が灯る。
戦闘機と同等の推力を持つエンジンは、空力限界高度までリベンジャーブレイドを押し上げた。
悠か下界にて殺戮の限りを行う救星王をその視界に捉える。
超高高度からの急速降下とともに持てるエネルギーの全てを対象に叩き込む、リベンジャーブレイド最大の技が今、放たれる。
月天を切り裂く流星の如く、光が縦一文字に帯となる。
『ヌゥ』
迫りくる脅威に、救星王が天を仰ぎ見る。
無差別に放出していた光球を消し、右手にエネルギーを集中させる。
『消エヨ』
天に掲げられた右腕から、暴力的な熱線が放出された。
空中で熱線とツインライト・ブレイカーが衝突する。数瞬の拮抗の後、熱線を切り裂きながらツインライト・ブレイカーが再び加速する。
「おおおおおおおおおっ!!」
荒野と変わり果てた町の中で唯一残った、救星王が立つ高層ビルの頂点から強烈な閃光が走り、夜天を走り降る光の帯が消えて行った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
急制動をかけ、屋上に着地したリベンジャーブレイド。
「ッハアッ!!ハアッ!!ハアッ!!ハアッ!!・・・・」
息を荒げ、がっくりと膝を折っている。身体の周囲には、うっすらと月と星の光の残滓が漂っている。
その背後には、未だに救星王が天に腕を掲げたまま立っていた。
「・・・ダメ・・・だったか・・・・」
そう思い、再び立ち上がろうとした瞬間
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
救星王が苦しみ悶え、膝をついた。
見れば、右胸の太陽炉から伸びる一際太い動力パイプが焼き切れている。
『GUUUUUU!!GAAAAAAAAAA!』
「な、なんだ。ダメージを負ったにしては、苦しみ方がおかしい!」
その時、内側で何かが爆発するように、救星王の左肩が大きく膨らんだ。
その衝撃で、悶えていた救星王が、壊れた人形のようによろける。
鈍い音を響かせながら、何度も体のあちらこちらが、膨らんでは戻り、戻ってはまた大きく膨らむ。
行き場を無くしたエネルギーが内側から膨れ上がっているようだ。
膨張と収縮を繰り返しながら、救星王の体は徐々に光り輝き、いびつに膨らみはじめている。
その、あまりの熱量に、足元の床が解け始め、じりじりと沈んでいく。
「いかん!このままでは、救星王がこの町諸共、大爆発を起こしてしまう!」
『GUUU・・・コノ町諸共ダト?リダリベンジャーブレイド。
太陽炉ノエネルギー量ガソノ程度デ済ムト思ッテイルノカ!!』
「な、なに!?」
『コノママデハ、太陽炉ハ暴走シ、メルトダウンヲ起コス。極限マデエネルギーヲ溜コンダ太陽炉ハ地殻ニ穴ヲアケ、地球ノ中心デ大爆発ヲ起コスダロウ。
GUGIII・・・・ダガ、今、我ヲ攻撃スレバ、多少ハ犠牲ガ少ナクナルカモシレンゾ。
北半球ノ四分ノ一ガ焼キ払ワレル程度デ済ム。
GU、GOOOOO・・・・サア、選ベリベンジャーブレイド。貴様ハ何人殺ス?』
リベンジャーブレイドは、ゆっくりと救星王へと向き直った。
ガギンッ!と、両拳を胸の前で打ち合せ、再び胸の二つの炉を稼働させる。
「月光炉・流星炉・・・
――――――――凌駕稼働!!!《オーバードライヴ》」
未だかつて無い、全てを呑み込む程のエネルギーが生み出される。
ビルの屋上には月光炉の青白い炎と、流星炉の澄んだ緑色の風が吹き荒れ、他者の介入を拒む。
その炉心から立ち上る二つの光は柱となり、果てることなく夜空へと伸びていく。
「まだだ。まだ、足りない・・・・
――――――――二宝結合!!!《イグニッション》」
二つの炉心から生み出されたエネルギーが、腰のベルトへと流れ込み、混ざり合い、更に膨れ上がる。
しかし、そのエネルギーはただリベンジャーブレイドの体に蓄積されていくのみ。
攻撃のために収束するでもなく、身体強化のために流動させるでもなく、ただひたすら体内に溜めこんでいく。
『・・・・ナンダ・・・・何ヲシテイル!?』
悪魔の様な選択肢が投げかけられたはずの復讐者は、どちらを選ぶ事なく、意味が解らない行動を取っている。
「何ヲシテイルノダ!!ヤメロ!諦メロ!!
GUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
あまりの不気味さに、救星王が取り乱す。
「・・・俺の体を作った男がこう言っていた。
俺の月光炉は陰の性質を持ち、またその派生である流星炉も同様の性質を持つ。
そして、お前の太陽炉は真逆である陽の性質を持つ。
この二つの性質が同等のエネルギー量で重なった場合、互いに相殺し合い消滅する。ってな。」
『キ、貴様ッ!!』
「一緒に消えてやるよ・・・ゴールド。」
一点を目指して疾駆する。技や武器は要らない。もはや、互いが触れあえば完結する。
『クルナッ!!クルナアアアアアアアッ!!!」
救星王の断末魔の叫びは、天をも焦がす純白の光の中に消えて行った。
ここに、悪の組織ダークマクロは滅び、一人の男の復讐劇は幕を閉じたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます