第144話 旅の初日は何事も無く。

 2度目の休憩で俺は魔力について話ている。途中先輩が説明をしたけど2人には伝わらなかった。


「こ〜モワッとしたら、ギュってしてパッ!だよ。」

「そう、和歌…あなたは感覚派ね。」

「そのイメージは参考にさせて頂きますね。」

「??ん。2人とも頑張って。」


 先輩の言葉を流す坂俣さんに優しく対応する奏人さん。言うだけ言って満足した先輩はそのまま見守る事にしたらしい。察しがいいのか、ただその先の言葉は無く本当にアドバイスだけだったのか。


「…てな訳で。感覚的なところはあんな感じで覚えて貰えれば。」

「「…。」」

「じゃ、細かな説明とかを俺が言います。まずは漫画とか見ますかって話から。」



 実際俺自身が漫画やアニメやゲームなどを参考にしていたし。魔力と言われても元の世界には無いものだから、実際に使った感覚と頭の中での想像力を活かすしかない。

 体中の血が巡る感じ、湯気が体から出る、気合というかオーラと言いますか…少年誌系に偏ってる気がするな。

 そんな2人もバドミントンで使った感覚と想像力ですぐにコツは掴んでくれた。


「これは意識してやると難しいものね。」

「あとは慣れって事ですかね。走りながら出来ますかね?」

「坂俣さんと奏人さんなら出来ますよ。休憩終わりも2人のペースで走ってくれていいので、俺達はその後を追いかけます。」

「あら?そんなこと言って私達が速すぎて追いつけなかったらどうするの?」

「それは大丈夫だと思いますが。」

「ならあなた達を引き離せるくらいにやってやるわ。」

「はは、天は負けず嫌いなんだから。」

「何を言ってるの?奏人もやるんだからね。」


 やる気があるのはいい事だけど、妙に煽ってくる坂俣さん。逆に奏人さんは他人事の様に見守っている。まぁ〜巻き込まれた感じで頑張る方向になりそうだけど。



「ふっふっふ。競争だね天。」

「笑っていられるのも今のうちよ和歌。」

「ふ、2人共。ほ、程々にね。」


 気合い十分な先輩と坂俣さんに慌てるきりんさん。


「競争心剥き出しだな〜これは色々大変そうだ。」

「他人事ですが先頭はお二人ですからね?あ、和歌先輩は後ろから追いかけるんですよ〜」

「分かってるよ〜」


 本当かねぇ…まぁ先輩は迷子になっても戻ってこれるだろう。俺はきりんさん見てればいいかな。そんなきりんさんと目が合う。


「ん??な、なにかな??」

「いえ、2人の事を見てて下さいねって思いまして。」

「さ、坂俣さんと鯨井さんをですか?」

「さすが、言わずとも伝わってますね。和歌先輩はほっといても大丈夫ですし、俺はきりんさんだけを見てますから。」

「はうぅ。わ、わ、分かった……不意打ちずるい…。」

「ん?」

「な、なんでも!そ、そろそろ走り出すみたいだよ!」


 先頭は坂俣さんと奏人さん。それを追いかける和歌先輩。競争はまた今度で納得してもらい今日は追いかける鬼役みたいな感じで頼んでおいた。その横に何か問題があった場合の対処にきりんさん。最後尾は俺が立つ。

 速さが上がる事での問題はただ一つ!きりんさんの明後日に走り出すあの方向感覚の違い!


 さて準備は整った。よーいスタートで走り出す2人。それを顔色変えずに追いかける3人。


「これはかなり速く走れそうね。喋る余裕も出来るし、いいわね。」

「魔力って便利ですね。これだけ速く走れれば楽しいですね。」


…。


……。


………なんて言ってたのは30分前の話。


「も、もうだ…め……。」

「調子、乗って、ま…した…。」


 2人がその場にヘタリ込む本日2回目です。今度は体力と魔力の限界だから少し休んでどうこう出来るものでもない。


「今日はここでお泊まりかな。」

「そ、そうなりますね。」

「ではちゃちゃっと準備しますか。」


 まずはルカさんに貰ったバッグから…テントを引っ張り出す。


「翔くん、これテントだよね?どうやってカバンに入ってたの?」

「えっと確かポケットに…紙が別にあって説明書が……あった。見てみます?」

「ふむふむ。ほー、分かんない!」

「あ、俺やりますよ。一度直接教わってますし。」


 これを見越したのか出発前にルカさんに呼び出されて教わった。先輩が居なかったのはきっと分からないと思われてたんだろう。


 次にヘレンさんから貰った食事をするさい火を起す為の道具、言わばサバイバルセット。こっちの使い方はきりんさんに任せる。


 そして一番重要なのが食料は調達。


「和歌先輩ちょっと大きめの食べれそうなもの狩って来れますか?」

「ん〜そんな都合よくいるかなぁ?でも私だけやる事ないしふらっと見てくるよ。」

「お願いします。」

「じゃ、ちょっと行ってくるね〜」


 色々指示を出してたら、ダウンしていた2人が手伝いに来た。


「狩って来てとか簡単に言うわね…それ以外の簡単な事なら手伝うわ。」

「ぼ、僕も少しであれば力になれるかと。流石に狩りに行く力は無いですが…。」


 食事の準備はきりんと坂俣さん。テントだったり周りの警護を俺と奏人さんが担当。食材調達に先輩。


 そしてテントが無事張り終わった頃…。


―ズシィィーーン!!


「な、なんの音だ!?」

「大丈夫ですよ奏人さん。きっと和歌先輩が何かして、っは!木が倒れてくる事は……ないか。」

「あんたも気が抜けなくて大変ね。」

「いやいや坂俣さん、そんな事は無いですよ?」

「そこ疑問なのね。出も何となく分かる気がするわ。」


 突然のでかい地響きの様な大きい音に驚く奏人さんに、俺は先輩がきっと何かしたから大丈夫と…。このパターンを思い出して木が倒れてこないか咄嗟に構えたのはしょうがない事だと思う。先輩の行動は驚く事ばかりで、油断していると怪我をする……俺が。


 そして先輩が戻ってきた。


「翔くん!なんか食べれそうなの持ってきた。」

「鳥ですかね?ちょっとサイズが大きい気がしますが。きりんさんこれって食べれますかね?」

「か、解体すれば。じ、時間かかります。」

「と言うか和歌。この鳥どうしたの?」

「ん?石投げただけだよ?」


 ある部分を見ると、何かが貫通した後があった。


 きりんさんは鳥を受け取り、捌く為に水辺に行くらしい。一人で行こうとしたが、奏人さんが手伝いに一緒に行った。これで迷子になる事は無いだろう。


「なんかもうメチャクチャね。そう言えば大きい音がしたんだけど。」

「あぁ〜大きい木を1本倒したからかな〜多分。木ノ実あるかも出し、倒れた木に何か当たるかなって。」

「翔の言った事もあながち外れてないのね。」

「翔くんが何だって〜?」

「大きい音で木が倒れてくるんじゃって言ってたのよ。」

「そんな事もあったねぇ〜懐かしい。」


 思い出にされているけど、マジで死を感じたねあれは。てか斧とか何にも無いのに、木とか簡単に倒しちゃうのはどうなんだ?


…。


……。


 鳥さんは皆で美味しく頂きました。辺りも暗くなってきたし寝る準備でもしようと提案をした。


「さて暗くなってきたし、交代で見張りをしながら寝ますか。」

「わ、分け方は。じょ、女性と男性の交代で。い、良いでしょうか?」

「網野さん。それだと危ないのでは?」

「じゃ〜天河森と天河海で分けよう。」

「そ、それは!!??」


 きりんさんの男女を分ける案は危ないと奏人さんが心配だと意見してきた。安全的には問題ないけど、俺も女性陣だけの見張りを任せて寝るのはどうかと思うので賛成だけど。


 そこで気の知れたどうしの天河森と天河海で分けようと先輩が切り出した。だが、もの凄い勢いで坂俣さんが食いついてきた。


「じゃ、翔くんと2人でもいい?」

「そ、それも…。」

「それはいけない!」

「奏人ぉ!!??」

「よぉし。合意だ何も問題ない!」

「わ、和歌ぁ!?」

「和歌先輩もう少しオブラートに…。」


 慌てる坂俣さんに先輩が追い打ちをかける。


「そ、そ、そう言う和歌は翔と一緒でどうなのよ?」

「私達は3人で仲良しだもん、問題ないよ~」

「へ!あ、そ、そうなの。ふーん。なら私もへ、へ、平気だし!」


 何に対抗したのか余裕を見せた先輩に自分も平気だと言い出した。さっきの慌て方を見ると強がりにしか見えない。


「ふふふ。」

「奏人さん面白そうですね。」

「あんな天は全然見ないから新鮮でね。別に僕にとって悪い事では無いから。」

「まぁそうですね。こちらでも違う反応見れてますし。」

「さ、3人…な、仲良し?ち、違うよね。でもでも、な、仲がいいのは本当だし…。」


 その反応を楽しむ奏人さんに、何か別の捉え方をしている人がもう一人。なんだかんだ今日は騒がしい夜になりそうだ。


 こうして俺達5人の旅初日は何事も無く過ぎていった。

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