第137話 普通ってなんなんだ?

 勢いで攻撃した海王種と呼ばれる巨大な蟹はピクリとも動かない。これは倒してしまったのだろうか?

 きりんさんが確認がてら追い討ち…動きませんでした。それを見て先輩が近づいて来る。


「くんくん。翔くん生臭い。」

「そう言われましても…これは不可抗力ですし。」

「か、翔さん。じょ、状況確認等は私がします。う、海で洗い流してみては?」

「そうっすね。ではお言葉に甘えて。」

「私も海行く〜」


 夜で海も真っ暗だけど月が海に映りやけに神秘的な雰囲気。波打ち側で靴を脱いで足首までの深さで先輩は歩いている。俺は少し深い所まで歩こうとして…


「翔くーん。水かけるよ〜」


―ズバァァ!


「え?ちょまっ…」

「どう?綺麗に…あれ、翔くんどこ?」

「ぶはっ!死ぬ!!」

「お、そんな遠くにどうしたの?」

「いやいやいや、和歌先輩のせいですよ?」

「軽く蹴っただけなんだけどなぁ〜翔くんゴメンネ。」

「ぐっ。まぁ結果綺麗になったから良いですけど。」


 俺より浅瀬にいた先輩が、軽く蹴ったくらいで沖に流される勢いの水しぶき。でも1つだけ、あれは小さい波…津波と言ってもいいだろう。幸か不幸か俺と先輩しかいないから被害は無かったと言えよう。

 謝る先輩は可愛かったからなんでも許せてしまう。ただ他の人がいる時には、水を蹴る事はダメですよと釘を刺すのは忘れない。


「か、翔さん。だ、大丈夫でした?」


 ずぶ濡れな俺と先輩は、きりんさん達に合流して真っ先に心配された。


「ん?あ、はい。ちゃんと血は落ちたかと。」

「い、いや。そ、そっちじゃないんだけど…。」


「ヒソヒソ(さすがは邪神様だ。女神の津波すらモノともしない。)」

「ヒソヒソ(おい、聞こえたらどうするんだ。)」

「ヒソヒソ(女神様が2人いるんだ。大丈夫だろう。)」


 きりんさんに何故か心配されたが何かあったかな?あっちから視線と何か言われてるような…まぁいいか、きりんさんが確認した情報を聞こう。


 まず救援要請からおよそ3時間の間、天河海の人達が海王種の進攻を防いだお陰で町への被害は全く無かった事。

 小さい蟹の魔物を倒していたら海王種が出たとの事。そして1番深刻な問題が…。


「え?橋が壊されて学園に行けない?」

「そ、そうなんです。」

「ねーねー、それって泳いで行ったらダメなのかな?」

「その辺りは私がお話しします。」


 天河海の人が教えてくれた内容によると、海の中にも海王種がいるみたいで泳ぐのは危険。そもそもその橋を壊したのがそいつらしい。船で行く選択肢があるが、万が一に戦闘になったら夜は危ないから今は無理をするべきではない。

 明日の正午までには学園長も来るという事をきりんさんが話していたので、今日は町に戻って休む事にした。


「きりんちゃん。あの蟹食べれないかな?」

「て、天河海の人に聞いてみないと。ど、どうなんでしょう?」

「あ、食べれますよ。ですが持って行くには解体して荷台とか無いと無理ですね。」

「そっかぁ…じゃ、脚1本でもいいかな?ちらっ。」

「そんな目で見なくてもやりますよ。」


―バキィ!


「よっと、意外に軽いですね。」

「翔くんありがとね!」

「まぁ俺も食べたいですし。」


「ヒソヒソ(さすが邪神様だ。脚1本簡単にもぎ取ったぞ。)」

「ヒソヒソ(それよりあれを1人で持つ事もやばいだろう。)」


 蟹は食べれるらしく、先輩の希望で脚1本持って行く事にした。道中もチラチラ視線を感じるし、何かコソコソ話しているのも気になる。目が合うとさっと逸らされる、何なんだろう?


「なぁアムール。視線を感じるんだが俺何かしたかね?」

『まぁ心当たりがあり過ぎて、どう説明したもんか困るな。』

「あり過ぎるのか!?普通にしているだけなのに。」

『あの人間達からすると、3時間くらい戦っていた海王種を一撃で倒したのもだけど。蟹を運ぶのに荷台が必要と言われて、1人で脚もぎ取って運んでいる。最後に俺と喋っている事だな。』

「蟹は和歌先輩ときりんさんの追撃しただけですし、蟹を運ぶのだって女性に持たせる訳にはいかないし。アムールと話すのは……。」


 俺が普通じゃない所をアムールに上げてもらい考える。アムールと話すのが普通じゃないと?先輩だってペティットと話しいて、周りから見れば人間と兎だから微笑ましいくらいだ。

 ふと思い隣のアムールを見る。動物で言えば豹だって言うのは分かるし、目が鋭くて体格は俺と変わらない。ん〜周りから見れば怖い状況か?


「ん〜普通ってなんなんだ?」

『俺の予想だが。翔はあの和歌先輩と言っている姉ちゃんといるからな。あれよりは変じゃない、普通だと思ってるんじゃないか?』

「それだ!1番しっくりきた。」

「翔くーん、アムールくん。何か?」

「『何もございません!』」

「ふーん。ならいいけど。」


 何かを感じ取る先輩の雰囲気に飲まれる俺とアムール。もう何が普通か分からないな。

 先輩が…のくだりが1番しっくりくるが、それは考えないようにした方がいい。


 その後何事も無く町に着いた俺達は、蟹を食べると静かになるという噂通り黙々と蟹を堪能したのであった。

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