第136話 軽い気持ちでした。

 河の終わり、海に出た俺たちは目の前の光景に息を飲んだ。


「こ、これはまた…。」

「綺麗だね〜水平線に沈む夕陽と夜が混ざり合う感じ。」

「おっと、あまり景色をゆっくり見てる場合ではなかったか。さて学園か町に行きたいな。」


 景色を見て驚く。学園は海の真ん中に見えるのがそうだろうと話し合う。町の様子も気になるから、町を突っ切って状況確認しつつ学園に向かう事にした。



 地上を走る俺とアムール。


『ここは町だよな?人っ子一人居ないな。』

「海王種って言うのが出たから避難でもしてんじゃないか?」

『そう言えば姉ちゃん2人が着いて来てないけど。』

「あぁ、2人なら…あれだ。」


 屋根を飛び交う2つの影。


『俺はもう突っ込まねえぞ。屋根走ってるのに何故か俺達よりも前にいる事とか。』

「そのうち慣れるって。俺も慣れたし。」

『言っておくが、そこに翔も含まれるからな。』

「俺もか!?」

『どうして含まれてないと思った?』


 アムールと屋根を飛び交うあの2人は異常だっと話す、何故かそこに俺がカウントされていた。地面をちゃんと走ってるんだけどな。


 走りながら町の様子を確認する。家の明かりは付いているが、道に人が出ていないからか静かだ。試合後15時に出て、途中アムールと合流して15時半。そこから走り始めて今は…18時か。


「夕食の時間か。」

『飯時だから人が居ないとかじゃ無いからな。』

「そんなのは分かっている…。」

『ならいいが。なんか気になるのか?』

「…海鮮料理食べれるかなっと。」

『……。』


 改めて時間見て思う。馬車で4時間の距離で80キロはあった道のり。初めから全力出せば2時間切ったかもしれない。2時間半なら妥当か。


『まさかとは思うが、途中急いだのは飯時に間に合うようにか?』

「流石に当初の目的を忘れたりはしないさ。頑張れば2時間切れたかなっと思ってな。」

『馬車で4時間の道のりを2時間半に短縮、しかも走ってだから異常だかんな。』

「そうか?80キロを2時間半なら、時速32キロって感じじゃないか?」

『翔の言うジソクって何か知らないけど、2時間半休みなしで走れるものなのか?』

「いや、現に3人は走ったぞ?」

『まぁそうだけど。あれ?俺がおかしいのか?』

「深い事気にするな。ん?」


 真っ直ぐ走っていると、海を遮る大きい何かと人の声がする。


「翔!はっきり確認は出来んが海王種らしき影が見えた。」

「逆光でよく見えないけど…ハサミのシルエットが見えたから多分大きい蟹さんだと思う。

「でかい蟹ですか。何れにしても人の声がしますし、突撃するしかないですね。」


 2人が飛び降りてきて屋根から見た状況を教えてくれる。声はするし行けば分かると俺達は走り出す。



「耐えろ!夜になれば奴は海に帰るはずだ!」

「学園長達が来るまで町を守れ!」


 はっきり声が聞こえる。倒れている人も何人か見えるから状況はあまり良さそうじゃない。


「チェストぉぉーー!!」

『!!!!!』


―バキ!ドーン。


 一気に加速した先輩の飛び蹴りが蟹に炸裂。何かが割れた様な音に、蟹が仰向け?に倒れた。


「せい!」

『!!!!!』


―バキ!ドゴーン。


 倒れた蟹にかなーり高く跳んだきりんさんはそのままかかと落とし。またも嫌な音に地面にめり込む蟹。


「翔!」

「翔くん!」

「あ、はい。」


 2人に呼ばれ止まっていた時間を戻し、地面に埋まりもがく蟹に…。


「あ、ちょっと高すぎた。まぁいいか。」


 自分でも驚く高さを跳んだが、気にせず拳を打ち込む。


―バキィ!!


『キィィィィ……。』


 完全に動きを止めた蟹。あまりにも突然の状況に誰もついてこれず静まりかえる。殻を完全に突き破り、蟹の返り血を被り見た目は…。


「これが地獄絵図か〜」


 暗くなり月明かりが照らす中。天河海で1つの伝説?が語り継がれる事を俺は後で知る事になる。

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