第71話 月と太陽と
まだまだ寒い日が続いている。
しーんと冷たい空気が昼間も続く…
きっと今日の様な日は、冷蔵庫のチルド室の方が温かいかもしれない…
なので、こんな日曜日は、暖房の効いた店の中で少しくつろぎながら自分のために入れたコーヒーを、客の座るテーブルに座って味わってみる。
そして、カウンターの方を眺めてみる。
ここに座る人はこんな感じで店が見えてるんだなあと、思いながら飲むコーヒーはまた少し違った味わいを私にくれる。
ふと外を見ると彼女が不思議そうにこちらを覗き込んでいる。
私は店の扉を開けて彼女を招き入れる。
“何してたのかなあ~”
と、言った目をキラキラさせながら、悪戯っぽく私を見ながら入ってくる彼女。
少し、かなり、照れ臭くなった私は、カウンターに戻って彼女のために特製のカフェオレを。
コーヒーもまた入れ直して、二人でテーブルで飲んでみる。
彼女が時々連れて来る友達とのおしゃべり会議の際にご利用されるテーブルで。
今日は二人静かに、静かめのBGMを聞きながら…
そのあと、老犬に促され、散歩へ。
夕暮れ時。
小高い丘にある公園へ。
もうすぐ、頂上って時に彼女が思わず駆け上がる。
そして、
「わあ~すごい、ねえ、早く来て、来て‼」
と、手招きする。
私が小高い丘のてっぺんに着いた時に見たものは、東の空に昇る月と西の空に沈みゆく太陽であった。
もうすぐ西の山に沈もうとする茜色の空の中にある太陽と、もう既に、少し暗くなっている東の青い空に昇り始める月。
「私、こんなの初めて見た」
と、興奮を抑えきれない彼女。
私もこんな情景は初めてである。
老犬も、そんな私たちに感化されたのかシッポをバンバン振っている。
興奮しきった二人は、暫く西を見たり東を見たり、キョロキョロ。
やがて、沈みゆく太陽が西の山に消えるまで、静かにそれを見守っていた。
太陽が沈むと彼女はひとつ大きなため息。
「なんだか、心の中がお腹いっぱいって感じ」
と、不思議な日本語を言って、冷蔵庫並みの冷たい空気を吸い込んでいた。
そして、しゃがみ込んで老犬の頭を撫でながら、
「地球って不思議な星だねえ…」
老犬はただ、幸せそうに彼女に撫でられていた…
東の空の月は漆黒の空に白く静かに輝いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます