第69話 冬のあったか
寒い朝、店の扉を開けてみると辺りは未だ雪景色。
普段なら、降っても1か2日で溶ける雪が、今回は数日経った今でも街を雪化粧で纏っている。
そんな日の夕方、カランコロンと、彼女が扉を開けて入って来た。
凄く浮かれた様子である。
まだまだ雪が楽しい年頃なんだなあと思っていた私に、
「今日ねえ~」
と、話しかけてくる彼女はいつになく優しい目をしていた。
話を聞くと―
彼女が中学校に登校する時、いつもすれ違う背の高い小学生の女の子が、いつも下を向いて、うつむき加減に、元気無く、背を丸くして、他の友達の集団の少し後ろを歩いていて…
その子は仲間に入りたいんだけど仲間に入れてもらえないような、そんな距離間で、みんなの後ろを付いて行ってるような…
そんな少女を、彼女は毎日すれ違いながら気をなっていたそうだ。
「そしたらね」
と、彼女は続ける。
「そうしたらね、今日、その子がね、雪の玉を手で作っててね。キラキラした目をしててね、他の子と楽しそうにふざけながら学校に行ってたの。新雪の雪の玉を手で丸めて友達にぶつけたり、ぶつけられたりしながら、楽しそうに、本当に楽しそうに」
と。
「良かったなあ~。なんかさあ、ホッとしたの…」
飲みかけのカフェオレの手で包みながら、
「良かったなあ~」
と、今日の出来事の余韻に浸っている。
ホットなカフェオレをひと口飲む。
「冬って寒いけど、温かいね…」
きっと今、彼女の心はホカホカしているんだろう。
そして、そんな彼女の優しい笑顔が私をほっこりさせてくれていた。
「うわ~ッ‼」
と、店の奥の窓際のお客が窓の外を見ながら歓声の様な声を上げた。
見ると、冬のどんよりとした雲の間から一瞬、夕陽が差し込んでいた。
窓の外、辺り一面がキラキラと輝いてた…
街中の雪がオレンジシロップをかけたフラッペの様に淡く輝いていた…
まるで、彼女の今日の出来事を一緒に喜んでくれている様な…
まるで、その少女の心の中の輝きを表してくれている様な…
ほんの僅かな時であったが、キラキラ、キラキラと輝いていた…
彼女は自分がご褒美でももらったかの様に幸せそうな顔をして、その美しい夕陽を眺めていた…
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