第33話 小春日和の午後
このところ、朝は真冬、昼間は小春といった日和が続いている。
そんな午後、中高生たちがもう下校している。
期末テストでもやっているんだろう。
そうか、もうすぐ冬休みか。
商店街にもクリスマスメドレーが流れ、否応なく歳末の盛り上がりを感じる。
期末テストの出来は分からないが、彼女は何故か真っ直ぐ家には帰らず、この店に寄って老犬の世話をしてくれるようになった。
ひっよとしたら、無茶苦茶テストが出来なくて、現実逃避として老犬の面倒を見てくれているのかもしれない…
詳しいことは聞けないが、私には有難いことなので、つい、彼女の好意に甘えてしまっている。
が、しかしここは、きつく叱って、勉強させた方が良いのだろうか。
そんな心配をよそに、彼女は初冬の柔らかな陽射しの中で、店の前で老犬の毛づくろいをしてくれている。
キラキラと辺りは耀き、ポカポカと風のない冬の空気を温めてくれている。
初冬の陽射し、辺りの空気が冷たいからこそ、その温かさをすごく有難く感じることができる。
「そう言えば、昨日の夜、お月様、とても綺麗だったんだよ」
と、自分だけの宝物の秘密を特別に教えてくれているように彼女は老犬に話しかけている。
老犬がどこまで理解しているか分からないが、シッポを振って彼女の顔をペロペロとなめている。
「いつもは見れない遠くの山の形まで、クッキリ見えたんだよ」
と、老犬に話しかけている彼女。
誰もが慌ただしく働いている師走の午後、なぜかこの店だけは緩やかに時が流れている。
優しい初冬の陽射しが、彼女と老犬を暖かく包み込んでいる…
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