3-28 黙秘したら死刑

「リエとヨシカという陛下の妻を名乗る女性が二人、面会を求めていますが如何いたしましょう。」

 朝食に向かう優喜に、職員が伺いを立てに来た。

「すぐに食堂に通してください。失礼の無いようお願いしますよ。」

 優喜の言葉に、職員は慌てて頭を下げて、走り去っていく。


 優喜と茜が朝食を食べていると、二人の女性が案内されてきた。

「やっほー、待ちきれなくて来ちゃったよ。」

 軽く言う理恵。

「あまり勝手に動かないで欲しいんですが。結構危険なのですよ。掌握が済んでいなかったらどうするつもりだったのですか。」

 優喜はかなりご立腹のようだ。

 だが、理恵も負けていない。

「それはこっちの台詞だよ。まだ掌握が済んでいなかったら優喜様の命が危ないじゃない。あんまり心配かけるのも芳香のお腹の赤ちゃんに悪いんじゃないの?」

 しばし睨み合いが続き、優喜が折れた。

「分かりました。それでお二人は朝ご飯はお済みなのですか?」

「食べたよ。」

「お腹すいた。」

 何故か二人の返事は真っ二つに割れた。

「いや、芳香、さっき食べたじゃん。」

 理恵は呆れたように言う。

「だって、お腹すいたんだもん。赤ちゃんの分も食べなきゃなんだから。」

 芳香は胸を張って悪びれもせずに言う。

「ウェイタ、二人に適当に果物でも出してください。」

 優喜が苦笑いしながら、侍従に指示する。ちなみにウェイタというのは給仕長の名前だ。


 芳香と理恵は空いている席に適当に座ろうとするが、優喜に止められた。

「芳香は第一夫人なのですからこちらです。」

 優喜は座る右手側の席、茜の正面を示して言う。

「身内だけの場合は、茜はそこでオーケー。理恵は芳香の向こう側です。重要なお客様との会食の際はみんなこちら側で並んで座ります。」

「はーい。」

 言われて二人は大人しく従って席に着く。

 この地域にはレディファーストなんて女性蔑視の文化はない。

 女性が勝手に椅子に座ることは当然の権利として認められている。と言うか、そんな事が疑われる事がないくらい、男女平等が浸透している。

 だから優喜はエスコートなどしないし、侍従たちもそれを当然として見ている。

 ただし、座りやすく椅子を引いたりのは侍従の仕事だ。主が座ろうとするタイミングに合わせて椅子を動かす。


 優喜たちが四人で計画の進捗の確認をしていると、フルーツの盛り合わせが運ばれて来た。

 大皿から好みのフルーツを自分で取るスタイルである。

 芳香がリンゴ的なフルーツを取り、口へと運ぶと微妙な表情をする。

「なんでブドウ風味なのよ。リンゴじゃないのこれ。美味しいんだけどさ。」

「異世界あるあるだね。」

 理恵が笑いながら言う。

「日本にあるのと同じ物は一つもないんだっけ。」

 茜も果物を摘まみながら呟く。

「似ているものはいっぱいありますけど、同じと言えるものは一つも見たことが無いですよ。」

 優喜がキッパリ言うが、どこか寂しげにも感じる。

「さて、朝食後は大臣ズの処遇を決めていかねばなりません。各地を治める貴族たちとも話をしていかないとならないし、何より、神殿、ヨルエ教の莫迦どもの対処を急ぐ必要があります。みなさん、忙しくなりますが、よろしくお願いしますよ。」

「やること盛りだくさんだね。」

「はい、津田さんとか早く来てほしいですね。あの人、マジで有能ですから。それはともかく、午前はみんな揃って大臣との会談、午後からはそれぞれ閣僚と話を詰めたりですかね。大臣の何人がクビになるか分かりませんが。物理的に首を落とす人とかもいるかも知れないし。」

「その場で、は止めてよ。マジで、本当に。」

 理恵は本当に人死にを見るのが嫌なようだ。

「分かってますよ。そこまで暴君をするつもりはありません。」

「つもりと結果が一致するのなら苦労は無いのだよ。」

 イチゴっぽいものを食べながら、芳香が優喜みたいな酷いことを言う。



 この宮殿の大会議場は、放射状半円形になっている。中央に壇があり、その背後に議長席が議員席と向き合う形で一段高いところに設置されている。議長席から見て右側が皇帝の席で、左側が書記官の席だ。

 総席数は九十八にもなるが、発言権を持つのは、皇帝、議長である宰相、そして十四人の大臣たちとその副官だけだ。大臣たちは副官以外に秘書的な側近を数人ずつ連れてくるため、会議を開催すると八十から九十人程度が集まることになる。

 そんなにゾロゾロ連れて会議なんてしなくていいと思うが、この国はそういう文化らしい。


 優喜が皇帝席に着いた時には大臣たちは既に全員揃っている。議長を担う宰相が開会のベルを鳴らし、挨拶を始めた。

 優喜は三人の妻の他に連れているのは二人の秘書官だけだ。

「それでは、まず、皇帝譲位について、陛下よりお言葉がございます。」

「はじめまして。私はウールノリア国王ブチグォロス陛下よりこの国を任されましたユウキ・ティエユ・サツホロ・ウスイです。ご存知の方も多いかと思いますが、ゲレム帝国は戦争でウールノリアに敗北し、その属国となりました。つきましては、戦争に加担した方は、それに応じた処罰がありますのでよろしくお願いします。」

 処罰と聞いて、大臣たちには一斉に色めき立ち、場内は騒然とする。

「お黙りなさい!」

 優喜が轟音の魔術を鳴らし、一喝する。この轟音魔術は優喜のオリジナルで、とにかくドカンと大きな音を鳴らすだけのものだ。

「ゲレム帝国は、我がウールノリアに攻め込み、領地を荒らしたんです。ウールノリアがゲレム帝国の責任者たちを処罰するのは当たり前でしょう。あなたたちの理屈なんて知ったことではありません。」

 理恵が冷たく宣告する。

「戦争に加担していない、戦争反対派の方は赦すと、ブチグォロス陛下より承っていますし、連座での処刑はしないので、本当に関わっていない人は心配いりませんよ。」

 そう柔かに言うのは茜だ。


「それでは一人ずつ、今回の戦争での立場を述べていただきます。順にこの誓約書に署名のうえ血判を押してからお願いします。では、宰相殿からどうぞ。」

 呼ばれて、青ざめた宰相が立ち上がり、誓約書にサインし血判を押す。

「私は、資金や糧食の国庫の調整、予算計画に携わっていました。その立場から分かると思うが、私は挙兵には反対でした。戦争に予算が圧迫されてどれほど苦労したのか、ちょっと考えて頂ければ分かるかと存じます。ウールノリアに攻め込んでも何も得られないと何度も献言いたしたのですが、聞き入れられなかったのです。」

 まあ、言っていることは筋が通っているし、優喜の誓約の呪法も反応していないようだ。嘘はついていないのだろう。

 優喜と芳香は有罪、理恵と茜が無罪の札を上げて、宰相は3ポイントの有罪となった。


 優喜が3ポイント、芳香が2ポイント、理恵と茜が1ポイントずつを持ち、有罪としたらプラス、無罪でマイナスとなる仕組みだ。

 有罪の決が出て、宰相は真っ青になっていたが、優喜が「3ポイント以下は処刑は無い」ことを明言、胸を撫で下ろしている。


「では次は、右翼から順にどうぞ。」

 別にこの国には日本的な左翼・右翼というものは無い。そもそも現代で言う議会も憲法も無い絶対君主制の封建体制に右翼も左翼も無い。恐らく第一皇子派とかは有ったのだろうが、皇帝も王子たちも排された以上、そんなものはもはや何の意味も無い。

 今、反ユウキを掲げても処刑されるだけだろう。戦争、派兵に関わっていたと言っても処刑されるだろう。


「私は知らない! 関係ない。戦争なんて全然はなかきゃばああァァァ」

 奇声を上げ、泡を吹いてぶっ倒れる大臣。

 嘘を吐いたらそうなるのだ。優喜が大臣に血判を押させたのは誓約の呪法。

 闇、光、聖の三属性を用いたこの呪紋書に自らの血で印を押せば、その効果は劇的に大きくなる。さらに、優喜、茜、理恵の三人がそれぞれ自分の属性の部分の紋を血で描いているため、効果はさらに上がっている。レベル十の精神系対抗用護符では効果の軽減すらできないほどだ。

 優喜は、精神系防御をぶち破る方法を幾つも用意しているのだ。


 そして、四人全員が有罪の札を上げて、めでたく死刑決定となった。

「はい、次。」


 ふーっ、ふぅううーっ、ひゅっ、はっ、はひゅっ、ほへっ、ひっ、ふひっ……


 次の大臣は何も言わないうちに白目を剥いて倒れた。

「ええええ。」

「どんだけ疚しいことがあるの?」

 理恵と茜はドン引きだ。

 またしても、有罪7ポイントで死刑確定だ。


「あの、洗いざらい正直に言った方が良いですよ。ウソがばれた時点で死刑なんですから。それとも、爵位降格とかになるくらいなら死んだ方がマシなんですか?」

 芳香が呆れたように言う。


 その次の大臣からは、言葉を選びつつも、素直に包み隠さず述べていく。いや、隠しているかも知れないけど。

 だが、意外と積極的に関わっていた者は少なく、北方の治水・開墾を担当している大臣に至っては、本当に戦争の話など聞いたことも無かったようだった。

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