3-19 作戦会議

「それで、電撃作戦とはどうするのだ?」

 再び応接室に戻ってきて、王太子は話を戦争に戻した。

 芳香と理恵は無線機の使い方の説明のために運搬、設置について行っている。尚、運ぶのは兵たちに任せてある。


「大雑把に二点。侵攻してきた敵軍の足止め、そして、自動車を使って移動して、帝国の首都へ攻撃を仕掛けます。」

「足止めの方法は?」

 騎士団長が難しい顔をして問いかける。

「土魔法での地形操作ですね。それに、高速機動からの遠距離広範囲魔法攻撃で部隊司令を攻撃します。それだけでも侵攻を数日遅らせることくらいはできると思います。」

「地形操作か。以前魔物相手にも行ったと言っていたな。」

「相手が少数の軽装歩兵だけの場合は大した効果はありませんが、馬車で糧食を運んでいれば段差は大きな障害になりますからね。工兵くらいいるでしょうが、進軍速度は低下するでしょう。」


「成程な。では、首都への攻撃はどのように?」

「その前に、軍を率いているのが誰なのかを調べたいですね。目的は首都陥落ではなくて、皇帝を討つことですから。」

 優喜の言葉に、大臣たちが騒めく。

「どうかしましたか? それが一番手っ取り早いでしょう?」

「確かにそうなのだが、可能なのか?」

「居場所が分かれば可能だと思いますよ。」

 優喜は自信満々に言う。何か秘策でもあるのだろうか。


「ティエユ卿に任せてよいのか? 其方一人でできると?」

 国王が怪訝な表情で確認する。

「まさか。さすがにそれは無いですよ。王宮魔導士の中から、魔力が高くて広範囲攻撃が得意な者数名をお貸し頂きたい。それに、夜目の利く偵察が得意な方も二人くらい欲しいですね。」

「魔導士の属性は?」

「攻撃担当は火か水ですね。土属性も有れば申し分ありません。」

「残念だが、土属性を持っている者は上級者にはおらぬ。」

「では、火か水属性の方で良いです。三、四人ほど選出していただけるとありがたいです。それはそうと、兵はそれなりに集めてくださいよ。敵の頭を潰しても、敵兵が全部おとなしく帰ってくれるとは限りませんから。盗賊に成り下がってそこらに居座られても困りますからね。そこは人数集めて追い返したり掃討したりしないといけません。」


 眉を顰め、困った顔で優喜を見つめ、国王が問いかける。

「むう。どれくらいの規模で兵を起こせば足りる?」

「敵兵の練度もこの国の兵の強さもよく知らないのでハッキリとこれだけとは言えませんが、少なくとも敵の半分程度の数は集めた方が良いと思います。 あまりケチなことを言って損耗率を上げても、それはそれであちこちから不満が溢れてきますよ。移動するにも時間が掛かりますから、遠くから、特にここより南方から集めるのは止した方が良いですね。北側だけで集まる分だとどれくらいになりますか?」

「実際に兵を挙げて戦をしたのは三百九十二年以上も前のことだ。この場にいる誰も戦争など昔話でしか聞いたことが無い。各領主が持つ兵も魔物に対抗するためだ。犯罪者を取り押さえたことくらいはあるだろうが、敵の兵と戦ったことのある者などおらんのだ。領主に呼びかけて、実際にどれくらいの数の兵が、どれくらいの日数で集まるのかは見当が付かぬ。」

 ブチグォロスなんていう、「皆殺しだァァ!」とか叫んで突っ込んでいくのが似合っている名前なのに、随分と平和ボケした国王である。

「ここより北の領地だけで五千四百八十八人くらいは集まることは期待したいですね。」

 優喜は頭を振り、溜息を吐く。


「ティエユ殿の伴には騎士は何人ほど出せば良いのだ?」

 騎士団長が場の空気を変える。

「別に騎士は要りませんよ。特に夜間の偵察、索敵ができれば、騎士でも魔導士でもハンターでも農民でも構いません。」

 優喜の言葉に騎士団長は気色ばむ。

「魔導士ばかりでは守りに問題があるだろう。」

「問題ありません。槍の腕も、腕力も、私は全く必要としていません。」

「騎士は役立たずだと言うのか。」

「ハッキリ言いますと、その通りです。今後、騎士に求められる事は変わっていくことでしょう。まあ、今回は騎士団は残敵掃討の方に行っていただければ良いかと思いますよ。」

 優喜は冷たく言う。

 残念だが、近接武器の時代は終わるだろう。優喜のことだ、そのうちレールガンやビーム砲を搭載した戦車なども作り出すだろう。

 いや、既に飛行機の開発も考えているかも知れない。

 戦車が走り回り、爆撃機や戦闘機が飛び交う戦場で、騎兵や槍兵、弓兵など、ナンセンスというものだ。


「明日朝一番で王都を出たいと思いますので、人員の選出は急ぎでお願いします。」

「ギオグミアにはすぐに向かうのか?」

「いえ、ティエユの町に戻って色々準備をします。ギオグミアに持っていく無線機を作らねばなりませんし、魔導士の方にも作戦で使う魔石や魔法薬を作って頂かねばなりませんし。」

「魔石や魔法薬? 一体どんな物だ?」

 魔導士団長にもイマイチ伝わっていない。

「魔石は魔力を貯めておく石です。今回作りたい魔法薬は、魔法効果を高める薬ですよ。魔導杖と併用すれば、より威力が上がります。魔法薬に魔石を放り込むだけでも魔法発動できるし、有ると結構便利ですよ。」

「なんだそれは。そんなもの聞いたことが無いぞ。」

「でしょうね。どちらも緑星鋼の釜が無いと作れませんから。」

 優喜は平然と言うが、それは、この世の中に全く知られていない魔法の応用技術なのではないだろうか。そもそも、緑星鋼の加工技術自体が知られてい無いようだし、緑星鋼の釜なんてのも優喜しか持っていないだろう。


「よし、ティエユ卿の急襲部隊には私も加わろう。」

「メケシール? 其方がやらぬというのなら、誰が掃討部隊で魔導士を率いるのだ?」

 魔導士団長の突然の宣言に驚きの言葉を上げたのは国王である。

「副団長に…… いや、そんな事より、ティエユ卿の言う魔石や魔法薬が本当なら、我が国は彼の手に」

「ティエユ卿が一人でこの城を落とせることなど、爵位を授与する前から知っておるわ。」

 王太子の爆弾発言に空気が凍り付く。平然としているのは優喜と王太子、そして国王だ。王孫の方は目を剥いて固まっている。

 いくら王太子が政務の大部分を担っているとはいえ、国王に優喜のことを何も報告していないということは無いだろうから、国王は以前より優喜について色々聞いていたのだろう。

「敵対する意思の無い者を必要以上に警戒して、敵意を煽るのは愚かと言うものだ。」

 ドクグォロスはキッパリと断言する。

「そうですよ。せっかく仲良くやろうってことになっているんですから、無意味に波風立てないでください。」

「あんまり仲良くしようって感じに見えないんだけど……」

 横から茜がボソッと突っ込む。

 そんな気がしなくも無いけど、それは言っちゃダメだ。


 ともあれ、魔導士から四人、近衛兵から一人、騎士団から一人を選出することになり、会議は解散となった。優喜が現地に着いてから、無線会議をすることもできるのだ。不確定なことをゴチャゴチャ言っていても仕方が無い。

 翌朝、日の出とともに出発、集合場所は城門前である。

 優喜は無線機の説明をしていた芳香と理恵と合流して、別宅へと引き上げていった。


 別宅でもやる事が幾つかある。

 まずは、本宅に無線連絡し、無線機作成の準備を進めてもらう。さらに、二日でもう一台トラックを作れと命令したものの、幸一に徹夜しても無理だと拒否されてしまった。

 また、可能な限り魔石を作っておくように言っておく。

 さらに、魔導士協会、錬金術師協会に向けて、ティエユの町に支部を作るよう要請する手紙を書く。何度か言っているのだが、一向に作られる気配が無いのだ。

 いくつかの餌を匂わせて急かそうということは、優喜の魔法道具の技術をある程度までは公開するつもりなのだろう。

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