3-17 産業超革命してます

 九月も下旬になり、秋風が吹き始めてきた頃、二つの試作品が完成した。

 第一に、小型トラック。機能や形状について多くの説明はするまでも無いだろう、日本中でよく見られる、大凡三トンくらい積載できそうな中型のトラックである。尚、荷台はオープンタイプだ。

 第二は音声通信装置だ。五十秒程度の通信をするのに、送受信側双方に標準的なレベル二魔法程度の魔力を必要とするが、魔力さえあれば一時間でも二時間でも長電話することが可能になっている。さらに、大容量の魔石を搭載することによって、予め魔力を充填しておけば魔導士がその場にいなくても通話が可能となっている。

 音声通信装置は、五十センチ立方程度の箱の上面と正面からラッパ上の物体が一つずつ生えており、これがそれぞれ受話用スピーカーと送話用マイクの役割を果たす。

 正面の下辺には四つの魔石が横に並んで埋め込まれていて、これが動力源。満タンの状態だとすべてが鮮やかな緑色になり、貯蔵している魔力量が減ってくると右側の物から灰色になっていく。魔力を充填する際は、右端の魔石に触れて魔力を込めれば良い。

 通信相手は本体右側に並んだレバー式スイッチで指定する。ティエユ本宅が六十四番、王都別宅が六十五番、王宮通信室はゼロ番の予定だ。指定の仕方は簡単五個のスイッチで二進数指定するだけだ。と言っても、こちらの世界では二進数など全く知られていないのだが。

 通話相手を設定した後に、右側面下側にある主電源(この国に適切な言葉が存在しないため、日本語から借用。DENGENGと発音する)をオンにすると、通話が可能となる。

 ただし、相手側が自分を通話相手に設定していない場合は当然のように通話できない。その場合は、送話器右側のボタンを押すことで、相手側に呼び出しブザーを鳴らすことができる。もちろん、相手側の魔力貯蔵量が完全に無くなっていた場合はその限りではない。

 呼び出しブザーが鳴っている間に受信側が主電源を入れて送話器左側のボタンを押すと、単方向の音声送信が可能になるので、必要であればそこで自分の番号を告げてスイッチの設定をして双方向の通信となる。


 通信機の本体は中までびっしり詰まったセラミック製であり、総重量が三百キログラムを超える。携帯電話が目標とか言っておきながら、とても一人では持ち上げることすらできない。

 トラックに積み込むのも一苦労である。腕力派の六人がかりでなんとか二台の通信機を荷台へと載せていた。


 さらに緑星鋼の槍を十四本積むと、『ヤマト』の五人が乗り込んで王都へと出発する。三人の妻はいつものように優喜のお供、そして、エモウテミは『ヤマト』脱退とするらしい。すでに『ヤマト』だけでなく、優喜一派は殆どハンター活動をしなくなったため、改めてチームを探したいということである。


 トラックは快調に走る。

 試運転で片道百七十キロは遠すぎるんじゃないかと思うが、特に問題なく四時間足らずで走破した。

 王都に着くとハンター組合前で優喜と茜、そしてエモウテミがクルマを降りる。エモウテミは脱退手続きだ。彼女はこれで優喜たちとはお別れである。優喜は脱退手続きと、荷下ろしの仕事の依頼を出しに行く。茜はその間に王宮へと走り、王太子への面会予約を取り付けに行く。


『腕力に自信がある方募集。報酬、一人銀貨十四枚。先着四人まで。ランク不問。時期、今すぐ。場所、ティエユ王都邸(すぐそこ)。仕事内容、荷車から邸内までの重量物の運搬。』

 仕事の依頼を出して一分後には希望者が集まっていた。危険性が無いと分かり切った王都内でのただの労役というつまらない仕事ではあるが、その報酬額が破格である。相場の十倍以上の報酬に、屈強な漢どもが群がって来た。

 日本で言えば、『一時間以内に終わる力仕事が一万円』といった感じだろうか。


 特に問題も無く音声通信装置の一台を王都別邸に設置すると、さっさと依頼完了処理を済ませて優喜たちは王宮へと向かう。駐車場にトラックを停めるとすぐに、係員に案内されて会議室へと向かう。

 速やかに話がしたいということで、荷物は後回しになった。

 優喜たちがいつもの応接室に通されると、最上座に座って待っていたのはいつものドクグォロス王太子ではなく、ブチグォロス国王であった。

 優喜たちは慌てて頭を下げ、恭しく挨拶をする。

「おまえら、俺にそんな挨拶したこと無いだろう。」

 王太子が苦笑いしながら言う。

「何をおっしゃいますか。殿下は面倒くさいのは嫌だって止めるじゃないですか。」

「そうだったか?」

「そうですよ。」

「まあ良い。今日はこちらも話がある。ちょうどティエユ卿を呼ぼうかと思っていたところに門番から変な報せがあってな、なんでもティエユ卿を名乗る怪しげな者が、馬も無いのに馬より速く走る馬車で来たとか意味の分からないことを言うのだ。そんな莫迦げたことをするのはティエユ卿以外にはおるまいに。」

「莫迦げたとは失礼な。それは自動車というものでして、これの製造をティエユの産業の一つにしたいと思っているのです。」

「いや、すまん。その話は後にしよう。」

 ドクグォロスは優喜の話を遮ると、父王に目配せをする。

「うむ。まず、これからする話は王宮内でもここにいる者しか知らぬ。この話は不用意に漏らさぬよう留意せよ。」

 国王は一旦言葉を切る。

「承知しました。」

 何か返事をしなければ話が進まないと思ったのか、二拍ほど置いてから優喜は頷き返事をした。

「今朝、ゲレム帝国より兵の侵攻があったとギオグミア卿より報せがあった。」


 王の言葉に、優喜は眉を顰め、そして、あからさまに嫌そうな表情をして王太子を睨む。さすがに王を睨むことはできないのだろうか。

「数は約一万九千二百八。エイネス街道の国境を越えてを南下中とのことだ。」

「何故、その話を私にするのですか? 予め申し上げておきますが、私は人間との戦争行為には参加いたしません。断固として拒否させていただきます。」

「ティエユ卿。」

 一度大きく息を吐き、国王は力を込めて言う。

「兵を率いて、侵略者を討滅せよ。」

「お断りすると言ったはずです。」

 優喜は王命を真正面から拒否した。

 周囲がどよめく中、優喜は国王と睨み合っている。

「だいたい、何故私なのです? 第四位爵が出しゃばる場面ではないでしょう?」

「お前以上に用兵や兵卒の教育に優れた者がどこにいるというのだ?」

 噛み付くような優喜に、ドクグォロスは静かに答える。

「魔物の討伐と人間との戦争を一緒にしないでください。」


 王太子は辛抱強く説得しようとするが、優喜は断固反対の一点張りである。


「ねえ、偵察くらいだったら行っても良いんじゃない? クルマもあるし、私たちより早く移動できる人はいないでしょ?」

 同じやり取りが繰り返されるのにうんざりした様子で芳香が意見を出した。

 優喜は少し考え込む。


「今から兵を集めて向かうとしたら、出発は何日後ですか? それと、ここから国境、敵が越えてきたあたりまで何日くらいで着きますか?」

 優喜は急に戦争に前向きな意見を出した。

「暫定で四日後に出発、移動しながら合流し、国境まで進めば四十日は掛かるだろう。敵も進んでくるから二十日と少々程度で会敵することになるだろう。」

 騎士団長が答える。

「地図はありますか?」

 優喜の問いかけに、返事を待たずに控えの者が動き、地図をテーブルに広げた。

「ゲレム帝国から兵の侵攻があったのはここだ。このエイネス街道を南下してきている。」

 騎士団長は王都から北へ約八百キロ程度の地点を指して言う。


「この軍の大将、誰が率いているのかは分かりますか?」

「今の所、分かっていない。」

「皇帝が出てきている可能性は?」

「皇帝が直々にか? それは無いだろう。もし来るとしたら、これのさらに後ろの隊だろうな。」

「でしょうね。皇帝自ら最前線に出てくるとは思えません。」

 ドクグォロスが率直な意見を述べると騎士団長も同意する。


「では、こちらは、王太子自ら最前線に突っ込んでみましょうか。あ、いや、違いますね。これは王孫殿下の出番ですよ。そうだ、それが一番良い。」

 優喜は何か一人で納得している。


「帝都に電撃攻撃しましょう。」


 優喜は邪悪な笑みを浮かべて言うのだった。

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