3-07 疑われるヨルエ神

 凄まじい爆風に光の盾は全て砕け、優喜とめぐみは洞窟の中を吹っ飛ばされていく。二人は途中で何度も体を岩壁に激しく打ちつけ、苦悶の声をあげる。

 打ち身や擦り傷はあちこちに作っているが、それでも大怪我をしていないのは優喜の無詠唱光の盾のお陰だ。優喜はタイミングよく魔法を使い、ダメージをコントロールしている。実に器用なものである。


「エフィンディルさん、大丈夫かな……」

 爆風が治まり、めぐみが身を起こす。

「私の心配よりあっちが先ですか。」

 優喜は突っ伏したまま不満そうな声を上げる。意外とダメージがあるのか?

「自慢じゃないですが、私はHPが低いんですよ……」

 本当に自慢じゃないな、それ。


 優喜が岩壁にもたれながらよろよろと立ち上がり、奥の様子を見に行こうとしていると、逆にエフィンディルが平然とした顔で出てきた。

「どうなりました?」

「どうもなっていないな。向こうは無傷のままだ。」

「私たちだけ吹っ飛ばされ損じゃないですか……」

 優喜は恨みがましい目でエフィンディルを睨む。

「お前たちはあの程度でダメージを受けるのか。」

 エフィンディルはレベル九の魔法をあの程度扱いだ。どんだけ強いんだこいつは。

「そもそも戦いとか得意じゃないんですよ。私は。」

 優喜はかなりご立腹だ。それでも口で言うだけなのは、腕力では絶対に勝てないと分かっているからだろう。


「どうやってアレを出てこれないようにした?」

 エフィンディルは唐突に問いかける。

「どうやってと言われましても、私が来た時にはあの状態でしたよ。」

「では、あれは、こちら側には来ていないと言うことか?」

「自分から戻っていったのでなければ、そういうことになりますね。」

 エフィンディルは顎に手を当てて考え込む。


「異世界から来た世界を滅ぼす者とは何を指している?」

「それは一体どこからの情報ですか?」

 一体何の事を言っているのか分からず、優喜は怪訝な表情で訊き返す。

「我が国の大神官長にお告げがあった。ウールノリアに異世界より世界を滅ぼす者が現れた、とな。それで確認、可能ならば討伐のために私が来たのだ。」

「既に現れた、なのですか? これから現れるのではなくて。」

「そうだ。」

「じゃあ、既に私たちが倒してしまったのかも知れませんね。」

 優喜はあくまでも、お告げの『世界を滅ぼす者』が自分ではない事にしようとする。

「お前ごときが?」

 エフィンディルは嘲るように言う。表情は全く変わらないが、態度は悪くなっているような気がする。

「私の知る限り、ここ最近で異世界から来たのは私たちと、この穴から出てきた奴らだけです。どちらにせよ、あなたからすれば大したことの無い力しかありません。放っておくとそのうち大きな力を得て、と言う話であれば、私たちより魔物の方が危険だと思いますよ。まあ、掃討は進んでいますけどね。ここより北に残っている奴らを掃討すれば終わりです。」


「念のため、お前たちも殺しておくか。」

 エフィンディルが物騒なことを言い出す。

「念のためで殺さないでくださいよ。止めてくださいよ。世界を滅ぼすのはあなたなんじゃないですか? それを邪魔する者がこの国に現れたの間違いなんじゃないですか?」

「莫迦なことを言うな! 私が何故世界を滅ぼさねばならんのだ!」

「それはこっちのセリフですよ。念のためで人を殺そうとする人が善人の筈がありません。世界を滅ぼす理由なんて、悪人だから、で十分でしょう。だいたいあなたみたいな人は、自分の大切な人のためだったなら世界中の人たちを虐殺するんですよ。何故なんて聞くまでも無いでしょう。」

 図星だったのか絶句するエフィンディル。優喜は変なところで人を見る目があるようだ。


「だいたい、神のお告げなんて、そんな莫迦げたことを信じているのですか? 阿呆にも程がありますよ!」

「貴様! ヨルエ神を侮辱するとは何たる不敬な!」

「ヨルエ神? そんなの知りませんよ。だいたい、そんなお告げが本当にあったのですか? 神官が適当な出鱈目を言っているのではありませんか? それを真に受けて恥ずかしい人ですね。」

「大神官長が私を騙すなどありえぬ。ふざけたことを言うな。」

「では、その大神官長様とやらが悪魔に騙されているのかも知しれませんね。ねえ、どうやって神からのお告げなのだと証明するのです? 異世界からの侵略者が神を騙っていただけではないのだと、何故分かるのです?」


 優喜の正論暴論入り乱れた詭弁が始まった……

 いや、確かにヨルエなんて神は知らんし、そのお告げは神からのものではない。百パーセント、神を騙る何者かの仕業だ。それは神の私が言うんだから間違いない。

 けれど優喜にはそれは分からないはずだ。だが、この口ぶりだと、優喜は殆ど確信を持って言っている。


 この辺りで信仰されている宗教の最高神はヨルエとかいうのになっている。だが、その聖地はエフィンディルの母国であるスウィデニオではなく、ゼアラという宗教国家だ。大昔に神が顕現したとか、救世主が現れたとか言う地らしい。

 その国はスウィデニオの遥か北に五千キロほどのところにある。

 普通に考えれば、お告げがあるならそっちだ。どう考えても信仰の薄いスウィデニオにお告げがあるなんて嘘くさい。だが、その辺りの情報も優喜は持っていないはずだ。聖地の場所は知っていても、スウィデニオの信仰状況なんてウールノリアで知れるはずが無い。


「そもそも、世界を破壊しようとする者をどうにかしたいなら、まずこの国にお告げを出した方が早いでしょう。なんでわざわざ他国に出すんですか。この国が他国の兵を受け入れるとでも? そちらの国が兵を出せば戦争になりますよ。そんなことは当たり前じゃないですか。お告げが本当に神からのものなのだとしたら、世界を滅ぼしたいのはヨルエとかいう邪神ということですね!」


 優喜にあまりの勢いで言い募られて、エフィンディルは狼狽え、自信を失いかけている。

 相手が少しでも怯んだら、優喜は言いたい放題である。


 優喜は、自分には素質や才能というものが無い、なんてよく言うけどね、絶対に『罵倒』の才能があるよ。

 うん。天才だと思う。

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