2-22 お留守番

 ティエユ卿一派が抜けて、六級チームは三十人でウサギ狩をこなしていた。五月の二十六日付で晴れて全員のポイントが貯まったので揃って六級へと昇級していた。

 それに伴って七級のウサギ狩の制限数が解除されたのだが、六級になった彼らにはそもそも最初から制限数が存在している。ウサギ狩は基本的に七級の仕事なので、六級に昇級したら程々にしろと言うことだ。

 しかし、魔獣狩は五級からであり、現在、実質的に六級向けの仕事が無くなっている。本来、六級はゴブリンやオークの討伐、森の深部で採れる薬草等の採集がメインの仕事になるはずなのだが、魔物のせいで六級が森の奥に行くのは非推奨となってしまっているのだ。

 本来は六級になると二人で一匹までなのだが、あまりの仕事の無さに幸一と楓が必死で食い下がって制限数は現状維持にして貰っている。


「五級までの道のりは長い。長すぎる……」

 ウサギを運びながら楓が呟く。元気のない独り言のような声に応じたのは幸一だった。

「百九十六ポイントって、ヒドくねえか?」

「二日で一ポイントだから、三百九十二日掛かるんだよ。ってそれ一年じゃん!」

「ポイントになる薬草も集めよう。がっぽり稼げなくても少しでも増やしたいから……」

「そうだね。お金は薬草をティエユ卿に売れば良いけど、それじゃポイントが入らないからね。」

 楓と幸一がウンザリした表情で方針について話す。

「森に入るなら、やっぱり上着もほしいね。学校の制服は町用だよ。絶対アウトドアに向いてないもん。」

「だな。みんなで革ジャン、革パンツでロックバンド結成だな。」

「ギターって売ってるのかなあ。」

「ドラムも欲しいなあ。」

「誰か弾けるの?」

「知らねえ。うちの学校、バンドとかやってる奴っていないんじゃねえの?」

「だめじゃん。ロックバンド無理だよ。」

 なんか話がすり替わっている。

「広場でコーラスとかやったらお金もらえたりしないかな。」

「お金のことはティエユ卿に聞いた方が良いと思うよ。どうにかしなきゃならないのはハンターのポイントだよ。仕事無さ過ぎ。」

「ティエユ卿に仕事出してもらうとか?」

「それはそれでお金が掛かりすぎるから嫌なんだって。」


 二人が揃ってため息を吐いていると、司が話に入ってきた。

「魔物狩を六級でも認めてもらうよう交渉した方が良いんじゃないか?」

「そんなこと一々相談してくれなくて良いんだけど。」

 楓は見向きもせずに吐き捨てるように言う。

「どうしてだ? 大事なことだと思うけど。」

「みんなに相談するのは交渉してOKが出てからだろ? した方が良いんじゃないか、じゃなくて、してくるよ、で良いんだよ。」

「あ、ああ。わかった。」

 幸一が説明するが、司はどうにも分かっていなさそうな表情で答える。


 ハンター組合に戻ると早速司はエコネビアに六級の魔物狩を認めてもらうべく話をする。

 しかし、「うるせえ」「しつこい」だけで追い返されてしまった。情けない……

「清水さあ、交渉するならちゃんと考えて話しろよ。」

 呆れた顔で幸一が言う。

「クレクレ以外に言えねえのかよ? いつまでガキなんだよ清水はさ。こっちの事情なんて説明しなくて良いんだよ。相手は最初からこっちの事情は知ったことじゃないって言ってるんだからさ。」

「それならOKって言わせるのが交渉でしょ。向こうは基本反対なんだから、いくら駄々捏ねたって無条件でOKになんてなるわけないじゃん。こっちから条件付けないと。」

「それか、味方を付けるかだな。三級、四級全員の署名集めるとか?」

「碓氷もそれはやってないからね。残ってる手段は、たぶんそれくらいかな。」

「まあ、駄々捏ねるだけなんて幼児みたいなことをしたって、聞いて貰えるわけないだろ。」


「相談したのに聞きもしないで文句言わないでくれよ!」

 なんと、司は開き直った!

「小学生レベルの相談してくるなよ。」

「だいたいさ、私たちが一度も交渉していないって、本気でそう思ったの? 何度か話して、全部お断りされてるんだよ?」

「そんなの知らない。聞いたこと無い!」

「いや、清水もいただろ。お前が無視してただけだって。自分が知らないのを人のせいにするなよ。おれも村田も碓氷から交渉したとかそんな説明聞いたことねえよ。」

「じゃあ何で知ってるんだよ。」

「私たちの目の前で交渉してたからでしょ…… 清水だってそこにいたじゃん。」

「いつの話だよ。」

「よく換金のついでに色々交渉してたろ。」

「少しは周りを見ようよ。見たいものだけ見るんじゃなくてさ。」


「お昼食べたらは革ジャン注文してから薬草採りに行きたいと思います。」

「りょーかーい」

 楓が予定を言うと、賛成の声だけが返って来た。

「集合は広場の東側でお願いします。それじゃあ、お昼の鐘までお昼休みです!」

 みんな昼食は屋台で買うので、ぞろぞろと屋台広場へと歩いて行く。

 屋台に並ぶ食品も減っている。

 ウサギ肉は十分に供給されているが、それ以外の肉の供給量が激減しているのだ。森の恵みも殆ど入っておらず、パンとウサギ肉ばかりが並んでいる。

 南側の大河を利用した交易路は生きているのだが、入荷した食品類は最初に王族、貴族に回っていき、庶民の屋台広場まで下りてこないのだ。


 ウサギの串焼とパンで食事を摂り、革の上着と手袋を注文してから森へと向かっていく。

 優喜は薬草を指定してかなりの高額で買い取ると言っている。あまり知られていないが、魔法道具を作るための重要な材料になるらしい。

 葉っぱ二十八枚で銀貨二枚なんてケチ臭いものではない。若葉一枚で銀貨七枚だ。これのおかげで、お金には比較的余裕がある。足りないのはハンターのポイントだ。


 ダンジョンに向かった『ヤマト』が戻ってくるまで、一日の行動パターンは変わらないだろう。

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