2-06 圧倒

 速やかに兵たちが動かされ、昼前には東西の門より続々と出て行く。兵士三小隊四十二人に魔導士七人を加えて四十九人として一班を構成。それを東西に十四班ずつ街道沿いに配置し、周辺の魚獣の討伐に当たる。

 さらに、門のすぐ内側に前線部隊補給所を設営、ハンターを含めて、兵士たちの長時間の門外活動を支援することとなっている。

 優喜たちは王城を出ると、ハンター組合に赴いて為政者の判断と兵の動きについて報告した。

「四級、五級のハンターが勝手なことを! 王宮との話し合いは我々に任せておけば良いのだ!」

 支部長は大変に憤慨している。自分たちの頭を飛び越えて、直接宰相たちと交渉などされては立場が無いのだろう。

「おや、宰相閣下は現状について存じていない様子でしたけど。任せろと言う割に、何も動いていないじゃないですか。何もしない人に一体何を任せるのです? あなたがウスノロだから私が動かざるを得ないんですよ。そんなことも分からないのですか?」

 優喜の辛辣度というか苛烈度が段々上がってきているような気がする。顔を真っ赤にして怒鳴りつける支部長を一喝すると、優喜はダメ押しの言葉を吐く。

「あなたが今すべきことは私を怒鳴りつけることなんですか? 違うでしょう? あなたが今すべきは魔物対策ですよ。」

 ワナワナと身を震わせる支部長を背に、優喜はさっさとハンター組合を出て行く。


「さて、少し早いですが昼食にしましょう。一息ついたら、私たちも出ますよ。」

 優喜の言葉に、理恵が表情を硬くする。

「心配しすぎですよ。いくら怖い思いをしたって、結局のところ私たちは無傷なんですよ。次は死ぬかもしれない? そんなことは大怪我でもしてから言ってください。寺島さんってもしかして、ホラー映画見た後、夜に一人でトイレに行けなくなっちゃうタイプですか?」

「う、うるさいッ! だったらなんなの!」

「起きないことを必要以上に恐れても仕方が無いんですよ。食事後、私たちは魔物の駆除に向かいます。戦いに行くのではありませんよ。私たちの今日の戦いは既に大勝利で終わりましたから、気楽に行きましょう。」

 理恵は腑に落ち無さそうな顔で唸るも、それ以上は何も言わなかった。確かに優喜の言う通り、彼女たちは戦闘でかすり傷一つ負ったことが無い。それはそうなのだが、だからと言って、これからも無傷で済む保証などないのだが……

 家に戻ると、七級のクラスメイトたちとともに昼食に向かう。『イナミネA』、『点滴穿石』も荷車を引き、昼食後には町の外に出る気満々である。優喜としても、二つの理由からウサギ狩は『しなければならない』としている。一つはもちろん、お金を稼ぐこと。もう一つは魚獣の餌となるウサギを減らすこと。狩りすぎて持ち帰られないということは許されないと強く念をおしている。ウサギの死体を残したのでは意味が無いのだ。

 優喜は食事を終えると、銀貨七枚分の食料を買い込み、荷車に積んで西門へと向かう。兵士たちでごった返している街路を抜けて門の外に出ると、魔導士団が整列し団長が訓示を言い渡している。

 優喜は思い出したようにその横で足を止めて、団長の訓示が終わったところで割り込んだ。

「すみません、私から一ついいですか。皆さんに簡単で便利な魔法を教えたいと思います。」

 怪訝そうな顔をする魔導士団長の前で、理恵と茜がそれぞれファイヤービームとウォータービームを放つ。

「そのレベル四の魔法は知っている。」

「いえ、これはレベル二の魔法ですよ。レベル四よりも詠唱も短いし、魔力消費が少なくて便利ですよ。」

 優喜が言っている傍で、理恵と茜が無詠唱でビームを連発している。

「二人とも、もう良いですよ……」

 調子に乗って撃ちまくっている二人を止めて、優喜は再び魔導士たちに向き直る。

「見ての通り、レベル二の簡単な魔法です。しかし、威力はレベル四のビーム魔法と同程度です。」


 優喜たちは魔法陣と詠唱を一通り教えると、狩に向けて出発する。街道を一キロメートル程西へと進み、そこから畦道を南下する。ハンター達の前線よりも北側ではウサギ狩はしないので、全員が固まって周囲を警戒しつつ進む。

「右前方に魔物発見! 三匹くらいだ!」

 クラス最大の長身である中邑一之進は視力や聴力も良く、芳香の次に索敵能力が高い。その芳香は後方の警戒に当たっている。

 優喜は全員に止まるよう言うと、槍を手に一人で魚獣に向かって走っていく。魚獣も優喜を見つけたようで、耳障りな声で騒ぎながら畑から飛び出てきた。

 すかさずそこに二条のビームが迸り、それぞれ魚獣の頭部に命中してする。残る一匹の首筋を優喜の槍が薙ぎ、倒れた魚獣にさらに槍を立てて止めを刺す。相変わらずこの男は一撃で魚獣を屠ることができないようだ。

 優喜は周囲を見渡して警戒し、魚獣が近くに潜んでいないことを確認してから手招きしてクラスメイトたちを呼ぶ。魚獣の首を切り落として荷車に積み込みむと、火魔法を放って魚獣の死体を焼き払う。燃え尽きたことを確認して一行は再び南へと進む。

 その後、一度、五匹の魚獣の群を発見、駆除して進み、門を出発しから一時間半ほど歩いた頃にハンターの一団、五級パーティ三つの合同部隊と出会った。

「お食事をどうぞ。他の方々も近くに? 魔物の状況はいかがです?」

 優喜に促されて、ハンター達が串焼き肉に齧り付いた。

「俺らより内側に四級の『双葉』と五級のなんてったっかが一緒にやっている。あとはみんな外側だな。」

「全部で四十九くらいは狩ったかな。ああ、ウサギも何匹か見たぞ。お前らの仕事だろ? 頑張ってくれよ。」

 後ろの七級の集団を見ながら言う。

 ハンター達が食事の礼を言って別れようとしたところで、優喜が止めた。

「ちょっとまってください。ちょうど良いのでここで一度呼んでみたいと思います。」

 何のことか分からず首を傾げるハンター達を余所に、優喜は大声を張り上げる。

「おおおおおおおおおい! こっちですよ! 魔物もハンターの方たちも! お食事有りますよー!」

 声に釣られて、内側方面から七匹、外側方面から五匹の魚獣が出てきた。

「内側のは任せてください。外側の五匹お願いします。」

 言って優喜は七匹の魚獣を睨みつけ、魔法陣を描く。優喜は四級に昇級して尚、レベル一の魔法をよく使う。今回は久しぶりの落とし穴だ。見事に穴に落ちた七匹に向かってビームが放たれて、あっけなく仕留めると穴を戻して魔物の首を切り取る。

 五級合同チームも五匹の魚獣を危なげなく仕留めていた。

 内側にいた『双葉』プラス五級が近づいてくるのを見て、五級合同チームは別れを告げて北へと進んでいった。別に仲が悪いわけではない。単に、あまり一か所に留まりすぎてても仕方が無いという判断である。

『双葉』たちにも食事を振る舞い、互いに情報交換すると優喜たち『ヤマト』は外側へと向かう。七級チームはそのまま南下しながらウサギ狩である。

 優喜たちがハンター達の姿を探しながら西に向かっていると、芳香が緊張した声を上げた。

「北西ウサギ! こっちに来る!」

 理恵と茜に緊張が走る。

「伊藤さんはそのまま北西を。寺島さん、山口さんは他の奴らがいないか周囲を警戒。」

 優喜は指示を出すと、レベル三の土魔法の詠唱を開始する。

 魔法を発動すると、地面が上に荷車を乗せたまま十メートルほど迫り上る。側面から錐を生やさない分だけ、その高さが増している。

「ねえ碓氷。私の出番って見張りだけなの……?」

「安全第一です!」

 少々寂しそうな芳香に、優喜は胸を張って言うのだった。

 凶暴化した十一匹の魚獣は必死に飛び掛かろうとするも、結局その高低差を超えることができず、ビーム魔法で一方的に殺されていくことになった。

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