2-07 計画通り
『ヤマト』は魚獣を狩りつつ、畦道を西へ、西へと進んでいく。途中で出会ったハンター達に食事を振る舞い、情報交換を進めていく。凶暴化した魚獣に遭遇したチームも幾つかあるが、今のところハンター側に損害はでておらず、事前に凶暴化の情報を得ていたことは大きかったと感謝される。
優喜たちは畑の外縁部まで来ると、魚獣の登れない高台を作り出し、周辺の状況を確認するとともに大声を出して魚獣を誘い出す。
声に釣られて出てきた魚獣を駆除していると、最外周を狩っていた第三級パーティー『緑峰』呆れた顔をしてやってきた。
「それ、なんかずるくない?」
優喜たちが魔法を解除して降りてくると、ヨシュザセミが苦悶の表情で言う。
「私たちは戦いません。一方的に殺します。安全第一です。」
そう言う優喜のドヤ顔が超ムカつく。
「えっと、取り敢えずこれでもどうぞ。」
言って芳香はパンと串焼きが入った籠を差し出す。しかし、『緑峰』のメンバーは遠慮がちだ。
「西側は他のみなさんに配っていますので大丈夫ですよ。あなたたちで最後です。確か緑峰が一番外側ですよね? 食べないなら捨てちゃうだけですので遠慮なくどうぞ。まだまだ長いですので、食べて体力を回復しておいてください。」
そういうことなら、とノキチェイがパンを口にし、他のメンバーもそれに追従する。食べ物を籠ごと渡して芳香は魚獣の首を切り落とし、残った死体に火を放っていく。魔法による攻撃は得意では無いようだが、死体処理の炎程度であれば、芳香も扱えるようになってきている。
全ての死体の処理が終わると、揃って移動を開始する。
優喜たちは畑の外側の草原に土魔法で道を作りながら進み、百メートルほど行ったところで進路を北に向ける。そこから地均し移動魔法により一気に草原を突き進む。
「ねえ、あなたたちってオリジナル魔法いくつくらい持っているの?」
「私はオリジナルと思っているのは、これ一つだけなんですよ。他の魔法は全部、範囲とかを使いやすいように調節しているに過ぎません。」
「だから普通そんなことできないんだって……」
常識の通じない優喜に、ヨシュザセミは諦めたように溜息を吐く。
「それはそうと、周囲の魔物がいないかよく見ておいてくださいよ。東西の街道より南の魔物は全部狩り尽くのですから。一匹も見逃してはいけません。」
「了解。」
『緑峰』の六人は元気よく答えてから、我に返る。
「なあ、俺が言うのもなんだけどさ、俺ら『緑峰』は三級だぞ? お前よくそうやって指示出せるな。」
「大丈夫だよ。碓氷は王孫殿下にもガキは黙れとか言っちゃうくらいだから。」
「それ、全然大丈夫じゃねえだろ。よく無事でいられたな。」
「大丈夫です。王太子殿下にも、子供の躾はちゃんとするよう言っておきましたから。」
呆れた顔をする『緑峰』だが、優喜は当たり前のように平然としているのだった。
「いたぞ!」
ウォンジアが突如叫び、一行は足を止める。慌てず騒がず優喜が土柱魔法を詠唱し、地面を十メートルほど迫り上げて安全地帯を作り出す。それとともに芳香がキャーキャーと叫び、魚獣を呼び寄せる。そして、近づいてきた魚獣を理恵と茜がビームで狙い撃っていく。『ヤマト』はこのスタイルを崩すつもりは無いようだ。
「これ、俺ら要らなくね?」
エクヘイツが呻くように言う。
「この程度の数がこっちに向かってくる限り、要らないですね。」
優喜が無情なことを言う。
「逆に言えば、もっと多くの数がこちらに来ない場合、つまり、他のチームが襲われている場合はこんな悠長なことはしていられませんからね。その時はお願いしますよ。」
しかし、幸か不幸かそんな場面に遭遇することは無く、一行は街道までたどり着いた。
一行は東へと進路を変え、魚獣の首を満載した荷車を引きながら町へと戻る。途中の兵士たちと労いの言葉を交わしながら優喜は荷車を引いて行く。優喜によれば、首を満載した荷車を兵士に見せつけるのも必要なのだと言う。それによって、本当に敵が近くにいることを実感させ、そして、ハンターが働いていることを示すのだ。そのため、東側でもカナフォスたち『翠菖蒲』が荷車に魚獣の首を満載して進んでいるはずなのだとか。
優喜たちは町に戻るとハンター組合に向かう。魚獣の首の換金はもちろん、東側との情報交換はとても大切だ。特に、ハンター側の損害、犠牲者の状況は今後の作戦に向けて重要な事項である。って優喜が言ってた。先に戻ったチームのリーダーたちは既に、死傷者の確認にあたっていて、西側は『ヤマト』と『緑峰』が戻ってきたことで全員が無事、東側も翠菖蒲だけなので恐らく大丈夫そうだ。
凶暴化した魚獣と遭遇・戦闘した者も多く、その中でも、東側に当たっていた四級五級合同チームが十八匹の凶暴化した集団と遭遇し、優喜の危惧していることを実感したと言う。ハンター側が二十二人と、数で敵を上回っていたために特に被害なく勝つことができたが、それぞれのパーティーがバラバラに動いていたのではどうにもならなかったのではないか、というのが彼らの所見だ。
東側担当のチームは食事がまだと言うことで、それぞれ屋台で適当に買って食べながら情報交換をしていると、荷車に凄まじい数の魚獣の首を積んだ『翠菖蒲』が戻って来た。
「一体幾つ狩ったんですかそれ……」
「狩ったのは九十八以上だ。まあ、そんなに積みきれんがな。」
カナフォスが事も無げに良い、荷車を引いてケモノ買取受付に向かう。
「まあ、換金と食事を済ませちゃってください。状況の確認と今後の方針について話しましょう。」
優喜が言うと、カナフォスが指示を出し『翠菖蒲』の魔導士三人が屋台広場に向かって走っていく。
「そういえば、だれか兵士たちの状況を確認している方はいますか?」
優喜が訊くが、誰からも返事は無い。
「すみません、誰か東側の状況確認に行っていただけますか?」
そう言っているところに、芳香が息を切らせながら走ってくる。
「兵士たちの状況聞いてきたよ。」
「さすがです。仕事が早いですね。」
「私、今日出番無かったし…… で、本題なんだけど、東西の街道の兵士の配置は完了。交代要員含めて確保してあります。門に作った補給所ももう使えるようになっているから、ハンターたちも使って大丈夫です。それと、敵に大きな動きが無い限り東西の門は閉めないので、時間は気にしなくて大丈夫らしいです。」
「魔物と兵士たちがもう当たったか聞きましたか?」
「あ、西側で二回、全部で九匹を倒したみたいです。東側でも一回、五匹と言ってましたけど、その連絡来たのは結構前だから増えてるかもしれないって。」
「その魔物は南北どちらから来たのかは聞いていますか?」
「ごめん、そこまで聞いてない。」
「いえ、向こうもそこまで管理していないかもしれないですからね。あとで言っておきましょう。今後も南側から来るならば、作戦を考え直さなければなりません。」
「おう、遅くなってすまんな。どんな状況だ?」
魔物の換金を終えたカナフォスがやってきて誰にともなく問いかける。優喜は手を叩いてリーダー陣を集めて話を始める。
「まず、西側から簡単に。狩った魔物の数は全チーム合計で九百八十匹程度、凶暴化した魔物に会ったのは計七回ですが、幸い全部数匹程度の群で問題なく撃破。ハンター側に死亡者、重傷者はありません。」
優喜が終わると、バナセンキが口を開く。
「東側は俺からでいいか? 狩った数は正確には把握してないが、たぶん、西側と同じくらいだと思う。死んだ奴、動けなくなった奴はいない。凶暴化したやつらは、何匹だ? カナフォスはやったか?」
「ああ、一度、五匹やった。」
「俺たちも六匹だ、他はいるか?」
「こっちは三匹と四匹で七匹だ。」
「さっきも言ったが十八匹の群とやった。」
「他はどうだ?」
優喜は全員を見回す。
「全部で五回、そのうち一回が大集団ということですね。昨日も言いましたが、北西部はさらに遭遇率が高くなると予想されます。皆さん、十分に気を付けるようお願いします。では、次、兵士側の状況を伊藤さんから、すみませんがもう一度お願いします。」
言われて芳香は再度、先ほどと同じ説明をする。
「時間気にしなくて良いって、夜中もやれってことか?」
バナセンキが苦い顔で言う。
「あ、それ、私がお願いしたんです。夜中までやれって話じゃなくて、日没ギリギリまで頑張ってるのに、外に締め出されたら困るって話ですので、ご心配なく。ただ、夜間の奴らの動きも見たいので、何チームか協力していただけるとありがたいのですが。まあ、兵士は一晩中街道を守りますからね。ハンターも頑張っているところは見せておいた方が良いかもしれませんが。まあ、それについては、夕方戻ってきたときにでも話しましょうか。」
優喜の説明に殆どのハンターたちは納得したようで、首肯している。
「とりあえず、今は、敵の数を減らせるだけ減らす。ただし、こちらの損害は出さない。それに集中してください。無理に夜中に出て損害を被ったなんて莫迦げたことをするつもりはありません。」
「じゃあ、午後も複数パーティーでチーム組んで動くって事で良いか?」
「それでお願いします。北側は敵の数がかなり多くなると予想されます。皆さん、気を引き締めていくようお願いします。カナフォスさん、バナセンキさん、ノキチェイさん、他に何かありますか?」
三人は顔を互いに見合わせて、軽く首を横に振る。
「よし、東西分けは朝と同じで行く。出るぞ!」
カナフォスの号令で、ハンター達が一斉に動きだす。
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