1-10 反省会

 宿を取った後、稲峰高校一年五組全員が宿の前庭に集まっていた。みんなの手には、屋台で買ったパンと串焼き肉がある。

「はい。それでは、本日の反省を行いたいと思います。まず、収支から。クラス全体の残高は銀貨十三枚銅貨百四十一枚になりました。十四進数が分かり辛いので全部銅貨にすると、四千三百二十九枚。うち、イナミネAが千四十八、メシアが二千五十一、点滴穿石が千二百三十です。」

 歓声が上がる。

「え?私たちが一番?」

 申し訳なさそうに行ったのは村田楓。

「すげえじゃん。俺ら。」

 調子に乗るのは榎原敬。

「ただしです。メシアは自分たちだけで一枚も稼いでいません。まあ、その半分くらいはAと穿石の手柄だと思っておいてください。」

 優喜が念を押す。項垂れる敬。

「誰の手柄とか、そういうのは良いじゃないか。みんなで頑張ったんだ。」

「頑張っていませんよ。だから差がついているのでしょう。あなたの考えは必要ありません。事実として差があるのです。その差はどこから生まれましたか? 私が意地悪を言っているから差が出るのですか? 違うでしょう。それぞれの人の、チームの行動の差が結果の差に繋がっているのです。」

 言い終えて優喜はパンに齧り付く。一同を見回しながら咀嚼し、嚥下を終えると話の続きを始めた。

「えー、では私たちの今日の行動から説明します。仕事の受諾後、先ほどみんなで行った西の畑の端でウサギを十五匹狩り、その内八匹を運んで売却。昼食後はご存知のように穿石と一緒にウサギ狩ですね。何かご質問は?」

 優喜はそこでパンをもう一齧りして一同を見回す。

「では、次、穿石チーム。お願いします。」

 優喜がパンを飲み込んで話を『点滴穿石』に振る。

「えっと、私で良い?」

 前に出たのは津田めぐみ。

「どうぞ。」

 反対するものも居なさそうなので、優喜はめぐみに促す。

「薬草採集の仕事を請けた後、組合で仕事を探してるっぽかった人をガイドにお願いして薬草を集めていました。で、毒蛇がいるとかで危ないからって町に戻ってきて。あとは、碓氷たちと一緒にお昼食べて、その後ウサギ狩して運んでってところかな。」

「何か質問は?」

「毒蛇? そんなのいるんだ。よく大丈夫だったね。」

 質問したのは理恵。

「ああ、それ嘘。だって、そうでも言わなきゃ動かなさそうだったじゃん?」

 あっさり嘘を告白する堀川幸一に古屋柚希が非難がましい声を上げる。

「山とか森の中だと、分からないってのは危ないって事なんだよ。知識も経験も装備も無いのに危ないのに近づいたら本当に死ぬからな?」

「堀田君が今、とても大事なことを言っていますので、みんなよく覚えておくように。」

「堀川だよ! 碓氷、茶化さないでくれ。で、興味本位で近づくとか、一番やっちゃダメなんだ。みんなあの角生えた巨大ウサギ見たろ? あれの体当たり喰らって無事でいられると思うか? 他にもどんなヤバいのが居るか分からねえんだ。それと。怖いと危険は全く違うんだ。怖くないから安全なんてことは絶対にない。」

「まあ、狼とかも出るらしいし、日本の山よりも危険だと思っておいた方が良いですね。他に何かある方はいますか?」

「薬草のこととか、できたら教えてほしい。あ、私、神殿で薬とか治療魔法とかちょっとだけど教わってて、それで……」

 加藤聖が怖ず怖ずと発言する。この子はあまり前に出るタイプではない。指名されもしないのに発言するのは、役立たずになりたくないという思いからか。

「知識の共有については考えていきましょう。儲かる薬草とかあったら、みんなで探した方が良いでしょうし。他にはありますか?」

 優喜は全員を見回し、肉を齧る。食べ終わっていないのは優喜だけだ。

「んじゃ、最後メシア。お願いします。」

「僕たちはエスデとメキアノズトを集める仕事で南の森に行った。エスデは上手いこと見つけたんだけど、メキアノズトが見つからなくて、それでみんなで話してガイドを雇おうかってなって町へ戻ったんだ。そこでみんなに会って、時田が持っていたからそれで終わり。昼食べた後はウサギ運ばされて、それ売って終わりだな。」

 司がメシアの行動を振り返って説明する。

「はい、質問、津田さん、早いですね。」

「なんでもっと早く、ガイドを雇おうとしなかったの?」

「ごめん……」

 雄介と楓が同時に謝り、互いに顔を見合わせる。

「謝らなくて良いです。何故なのか理由を言ってもらえますか? 同じ失敗を繰り返さないようにするには、きちんと原因を把握して対策を立てる必要があるんです。 それとも単に面倒くさいから怠けていただけなのですか?」

「怠けていたって言われるとあれなんだけど、何か言い出しづらくて……」

「俺は、えっと、最初は自分らで見つけられるならガイドに金払うなんて勿体ないだろって。でも全然見つからなくて、これならガイドを雇った方が良いんじゃないかって思ってそれで言ったんだけど。」

「なるほど。お二人はいつガイドのことを思いついたのですか?」

「思いついたっていうか、津田が声かけるの見てて。」

「私も。」

「というと最初からと言うことですね。その時に相談しなかったのが失敗ですね。欲を出して自分勝手に判断してしまったということでしょうか。チーム全体の責任ですね。特に私も含めてリーダーは反省しなければなりません。」

 司が驚いた顔をして優喜を見る。

「僕が悪いのかい?」

「そうですね。メンバーが意見を言いづらいというのは、リーダーの責任です。今回のケースだと、最初に皆に良い作戦がないかを訊いていれば、結果も違っていたのではないでしょうか。まあ、要するに、明日からそうしなさいっていうことですよ。」

 大きく深呼吸して優喜は続ける。

「私も作戦について一言も説明をしなかったのは失敗と言えますね。申し訳ありません。思い上がっていたようです。」

 そう言って頭を下げる。こいつが自分から謝るとは思わなかったよ。


「他に何かありますか?」

 優喜はパンの最期の一欠片を口に放り込んで、全員を見回す。

「無いようですね。では、明日の予定です。朝食は日の出から一時間以内なので、早めに食べちゃってください。その後はお仕事です。目標一人銀貨四枚で頑張ってください。生活するので精いっぱいでは日本に帰ることなんてできませんからね。装備や旅支度を整えるのにもお金が必要です。頑張って稼ぎましょう。では、解散!」


 みんな疲れているようで、元気なく宿の部屋に戻っていった。

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