1-08 初仕事
碓氷優喜たち『イナミネA』は町の西の畑に来ていた。ウサギ狩り十四匹が請けている仕事である。
「畑の西の端はこの辺りですね。皆で広がって探しましょう。動物の足跡や糞のようなものを見つけたら教えてください。」
優喜の言葉に、十二人は四方八方に散ってウサギを探しはじめる。優喜は、地面に寝転がっている。え? 寝るの?
「足跡あったよ!」
畑の中を探していた平田登紀子が声を上げる。
「相君、渡辺君、佐藤君、野村さん、あぜ道を回って区画の向こう側で足を踏み鳴らして騒いでください。こっちに追い出します。他は全員こちらに。」
「わかったー」
「了解」
「オーケー」
優喜が指示を出し各人が動く。三人が騒ぎ始めると、畑の中でいくつかの陰が動く。
「水も土も上から落とすタイプです。奴らの向こう側に落として、こちらに引っ張り出してください。」
優喜が魔法陣を並びたてて指示を出す。と同時に五人が詠唱を開始する。
「どんどん撃ってください。ダメで元々です。遠慮せずチャレンジしてください。」
そうはいっても、寺島理恵、山口茜以外は魔法成功率一割以下。まともに発動できるのは二人だけだ。それでも威嚇としては十分だったようで、畑の中からウサギが飛び出してくる。
「山口さん、穴を!」
言われて茜は目の前の魔法陣を起動すると、地面に大穴が空き、ウサギたちはそこに落ちていく。
「止めを。」
優喜の言葉で、逃げ道の無いウサギに魔法と手で投げた石が飛んでいく。
無事に五匹を仕留めた『イナミネA』は土魔法で穴を元に戻してさらにウサギを探す。
「このウサギでかくね?」
「大きすぎだよね。」
「怖いってこれ。」
皆が口々にウサギのサイズに物申す。
体長八十センチメートル程度。それに牛のような角が生えたウサギである。
「これ、十四匹も持って帰るって無理じゃね?」
「だから、最悪耳だけ切り取れば依頼達成はできるってことでしょ。」
相凛太朗が投げかけた疑問を理恵が一蹴する。
「取り敢えず、耳だけ切り取ってこれはその辺に置いて行きましょう。こんなの持って狩なんてできないですよ。」
優喜が言って、鞄からカッターナイフを取り出すとウサギの耳を切り取る。
「北に向かって探していきましょうか。畑の中に入り込んでいる奴を優先的に狩ります。」
優喜が号令をかけると、再びメンバーは散開してウサギを探す。
一キロほど北に行った辺りで再び足跡を発見し、先ほどと同様に畑から追い出してから、穴に落とし、止めを刺す。
四匹を追加で仕留めて、残りは六匹。このまま順調に行けば昼には狩りは終わりそうである。
教師小野寺雅美が率いる『点滴穿石』は南西の森に来ていた。ガイドに雇った若手ハンター、クシユリによると、採集対象の薬草はその辺りに多く生えているとのことだ。彼は第六等級であり薬草には詳しいようで、早々に目標の採集を終えると、ついでに周辺を散策し、色々とレクチャーしてもらっている。
「ずっと薬草採りやってるからね。この辺で採れる物は全部知っているよ。」
クシユリが自慢げにいっているのを奥田友恵と津田めぐみが「すごいね!」「さすが!」と煽てて、色々な薬草の情報を引き出していた。
尚、教師であり、リーダーである小野寺雅美の陰は薄い。
色々な葉を摘み、実を捥いでメモをしていくのをガリ勉軍団がひたすらメモしていく。
「これは依頼に有ったから、採れるだけ採っておこう。」
「了解。」
「ずるいことするね。」
「あいつらよりズルくねえよ。」
時田直弥、林颯太、古屋柚希の三人がコソコソと話しながら、色々な薬草を採集をしていた。彼らは請けていない仕事の分まで採集を済ませ、戻ったら請けると同時に完了する魂胆であった。
「ちょいストップだ。何かいる。」
突如、堀川幸一が右手の藪を指して声を上げる。みんなが振り向くと、何かが茂みの奥で動いている。
「離れた方が良い。周りにも気をつけろよ。」
幸一は言いながら、ジェスチャーでみんなに逃げるよう促す。
「えー? なんでー?」
「分かんねえから逃げるんだよ。ヤバいのに近づかれたら終わりだぞ!」
危機感の無い柚希に苛立った声を上げる幸一。
「だから何がいるの?」
「毒蛇。」
山林を舐めている柚希に、幸一が分かりやすい回答をするとダッシュで柚希は逃げて行く。
「一度引き上げようぜ。お目当てのはもう採れたんだろう?」
幸一に反対するものはいなかった。
『メシア』は南の森に来ていた。エスデとメキアノズトという草は全く分からないが、特徴は聞いたし多分大丈夫だろうと、みんなでそんな感じに纏まり、意気揚々と森の中を探索し始めたのだった。
エスデは、大きな木の根元に生える、尖った葉をもつ赤い花ということで、それらしいものはすぐに見つかった。依頼にあったのはこれの若葉。依頼数が七十枚もあるので、青く小さい葉をひたすら毟りまくった。
しかし、メキアノズトという草が見つからない。七つに分かれた葉が特徴と言うが、そんな葉っぱは全く見つからない。
「くそっ! どこにあるんだよ! 見つかんなかったらどーするんだよ!」
西村力也が相変わらず文句を言っている。
「うるせえよ。見つからなかったらお前のせいだよ。責任持ってどうにかしろよ。」
韮澤駿はかなり苛立っている。
「何で俺のせいなんだよ。ふざけんなよ!」
「何でお前には責任が無えんだよ。じゃあ誰のせいだよ。言ってみろ!」
一触即発の睨み合いが続き、リーダーの司が止めに入る。
「二人とも落ち着けよ。喧嘩しても仕方が無いだろう。みんなで探そうぜ。」
「ああ。」
駿は返事をし、歩き出す。
「なあ、一度戻って俺らもガイド雇おうぜ。このまま探しても見つかる気しねえよ。」
結城雄介が疲れた声を出す。
「ガイド?」
「ああ。なんか津田が薬草に詳しそうなやつに声かけてたぜ。報酬半分やるからとかって。」
「何で黙ってたんだよ」
「俺たちだけで見つかるなら、金なんて払う必要ねえし、言う必要もねえだろ。見つかんないから言ってるんだって。」
「そうだな。言ってくれてありがとう。」
司は笑顔で答えると、みんなを呼び集める。
「みんなどうする? このまま俺たちだけで探すか、一旦町に戻ってガイドを探すか。」
「意地張って依頼に失敗して違約金。ってのは絶対ヤだな。ガイド賛成。」
村田 楓(ふう)が現実的な意見を言う。
「まあ、それが最悪のパターンだね。」
「え? 最悪のパターンは森で遭難とかじゃない?」
「最悪過ぎだろそれ。」
楓は冷静に現実を客観視できるタイプのようだ。
「じゃあ、一度戻るって事で良いか?」
「おっけー。」
「しゃーない。無理だこれ。」
司が最終確認をすると、みな口々に同意する。
太陽が南天高く昇ったころ、『点滴穿石』がハンター組合に戻ってきた。
「ほら先生!」
促されて小野寺雅美はカウンターに向かう。
「仕事の完了はこちらで良かったでしょうか。」
「はい、プレートの提示をお願いします。」
小野寺雅美がプレートを提示していると、時田直弥が割り込んで来た。
「あの、すみません。これも一緒に採ってきたんですけど、これも請けてすぐ完了ってできますか?」
「はい、対象の品を持っていれば大丈夫ですよ。」
受付の男は笑顔で依頼書を受け取ると、請負手続きを手早く済ませて四枚のボードを出す。
「これを廊下奥の薬剤引き取りカウンターに出してください。」
薬剤受け取りカウンターで小野寺雅美が四枚のボードを出すと奥からおばちゃんがやってくる。
「薬剤採集の依頼完了ですね。こちらにお願いします。」
おばちゃんはボードと薬草を一つ一つチェックし、完了手続きを済ませていく。
「アール草が銀貨四枚、ナンサンの葉が銀貨三枚、ヨウロハイアが銀貨二枚、エルピプも銀貨二枚。合計で銀貨十一枚ですね。少々お待ちください。」
おばちゃんが奥の部屋に行き、銀貨を手に戻ってくる。
「これで終わりで大丈夫ですか?」
「はい。またよろしくどうぞ。」
小野寺雅美が確認すると、おばちゃんは笑顔で答える。
めぐみは銀貨を五枚を取り、横で見ていたクシユリに差し出す。
「どうもありがとう。銀貨五枚で良いかな。」
「え? 二枚の約束じゃ?」
「あれ? 半分って約束じゃ?」
何か認識に齟齬があったようだ。
「えっと、案内しかしていないし、二枚のつもりでいたし、それで良いよ。」
「じゃあ、三枚で。色々教えて貰ったしね。」
遠慮するクシユリに、めぐみは当初より多めの額、少なめの率で渡す。
「お昼ご飯、どうしよう?」
残った銀貨八枚を見ながらめぐみが呟く。
「そういえば、一階って食堂だっけ。行ってみようか?」
奥田友恵の言葉に、ぞろぞろと動き出す一同。
一階に降りると、ウサギを担いだ一団がやって来た。
「重ってええええええ」
「これの受け付けどこですか? 二階に持って上がりたくはないですよ……」
「もう無理。だめ。助けて……」
なんかもうグロッキー寸前だ。
「みんな、だいじょうぶ? それもう終わったの?」
友恵が優喜達に声を掛ける。
「狩るより運ぶ方が大変ですねこれ。」
優喜が肩で息をしながら答えると、ウサギをおろして二階に向かう。
「あの、ウサギ狩終わったんですけど。」
受付でプレートを出しながら言うと、ケモノの類は一階裏手で受け付けていると言う。優喜は階段を下りてウサギを再び担ぐと裏手に向かう。
「ウサギが八匹に、残りの耳です。」
優喜が息を切らせながら受付に言うと、中から屈強そうな男が出てきて軽々とウサギを持って中に入っていく。
「依頼料が銀貨七枚に、ウサギ八匹で銀貨四十二枚と銅貨百二十八枚、合計で銀貨四十九枚に銅貨百二十八枚だ。ほれ。」
優喜がコインを数え受け取ると、みなを振り返り、意を決して言う。
「すみません、前言撤回です。お食事にしましょう。無理ですコレ。食べないと体が持ちません。」
「ああ、今日はメシ抜きって言ってたっけ……」
根上拓海が力なく呟く。
「みなさん、パンと肉野菜たっぷりシチューで良いですか? 良いですね?」
優喜は勝手に決めて人数分、二十七人前を注文する。一食銅貨六十枚、二十七人分で銀貨八枚銅貨五十二枚の出費である。
出てきた食事にがっつく『イナミネA』の十三人。女子もなりふり構わず食べている。
「お前らそんなに腹減ってたのかよ?」
幸一が苦笑いしながらツッコむ。。
「いや堀川、あの四十キロくらいあるウサギ担いでさ、一時間以上歩いてみ?」
「四十キロ?」
「まじ。死ねるよ。」
拓海が疲れた顔で抗議する。その向こうでは、優喜がビールを注文しようとして芳香に殴られていた。
「お前ら何食ってるんだよ。」
「飯食ってるし。」
「俺らも食おうぜ。」
『イナミネA』と『点滴穿石』が食べ終わるころ、『メシア』が戻って来た。
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