ワナビ果樹園の避けられないバッドエンド

ちびまるフォイ

捨てる神あれば拾う神

連休だったこともあり、底辺作果樹園にやってきた。


「わぁ、すごいですねぇ。底辺作家がこんなに!」


「よかったらちぎって食べてみてください」


「いいんですか?」


女は近くで実っている作果をもぎって口に運んだ。


「ん~~! とっても面白おいしいです!

 なんていうかフレッシュで、食べたことない味です」


「そうでしょうそうでしょう。

 なにせ、夢と希望が詰まっていますからね」


「ああ、それでこんなにおいしいんですね」


「定期的に評価を上げたり、レビューしてあげるとね

 夢と希望を膨らませて実がぎゅっと詰まるんだよ」


農家の人も今年の底辺作果は自信作なのか嬉しそうに答えた。


「あ、こっちの色のも美味しそうですね」


「そっちはダメ!!!!!」


あまりの剣幕に女はびくっとおびえた。


「え……す、すみません」


「あぁ、大きな声を出してごめんね。

 実はそれは熟しすぎた作果だからそろそろ刈り取る予定なんだよ」


「なんかもったいないですね」


「あんまり熟し過ぎちゃうとね、捨てるしかないんだよ。

 他の作果のように挑戦することも夢や希望を持つこともなく、

 これまでに得た知識と経験を偉そうに語り始めるから有害なんだ」


「はぁ……」


「放っておけば、ほかの作果を感化させかねない。

 だからもう捨てるしかないんだよ」


農家は慣れた手つきで古株の作果をどんどんもぎっていった。

女は手伝うフリをしながら1個だけ、作果を持ち帰ることにした。


「なんだか、誰にも必要とされずに終わるなんてかわいそうだもんね」


自宅に作果を植えて様子を見守ることにした。

しばらくすると、作果はどんどん大きくなった。


「だ、大丈夫かな……?」


好奇心に押されて少し食べてみると、おいしさに驚いた。


「すごいおいしい! なにこれ!?」


塾した作果の実ならではの深みのある味わい。

これはぜひほかの人にも味わってほしいと売ることに。


「いかがですかーー。熟した作果ですよ~~!」


道行く人はその見た目を見るなりすぐにそっぽを向いてしまう。


「なんだか、古臭そうね」

「いまどきそんな作果なんて食べないよ」

「見るからにまずそう……」


見た目が完全に熟した状態であることから、

「廃棄物」を売っているように思われ誰も手をつけてくれなかった。


「こんなにおいしいのに……。目新しさがないのかな」


女はふと閃いた。

作果の実から種を取り出して冷凍保存。


長い年月を経た後に種を取り出してまた作果を育てることにした。


「前からだいぶ日が経っているし、今ならきっと目新しいはず!」


女はまた熟した作果を同じように売ってみることに。


「なにこれ、今ではあまり見ないわね」

「こんなの見たことないぞ」

「気になるな。ちょっと味わってみよう」


「やった! 作戦大成功!」


塾した作家の品種は一周回って、今の時代には目新しいものとなった。

つねに新しい発見を求める人たちに、熟した作果は輝かしく映る。

いまや一大ムーブメントを起こすほどの大人気となった。


「あのとき、捨てなくて本当によかった!」


女はすっかり安心していた。

ある日突然に作果の色が変色するまでは。


急に作果が見たことのない色になっていたので、女は作果農家に助けを求めた。


「いったい何が起きたんですか? 前までは普通だったのに……」


「これは……リバウンド症だね。作果に発症する病気だよ」


「り、リバウンド症……?」


「ラッキーパンチで人気になった作果がなる病気さ。

 最初の人気のハードルを越えられなくて一発屋で終わってしまう」


「治りますか?」


「この作果は目新しさだけで売れたから実力が足りてない。

 ここから挽回するのはもう無理だよ」


女はなくなく最後の作果の実をちぎって落とした。


地面に落ちた作果はびちゃっとつぶれて消えた。




「くんくん……! 匂うぞ……! いいネタのにおいが!!!」


「あなたは……実写化監督!?」


四つん這で地面を這ってきた監督は、落ちた実を嬉しそうに吸い取った。

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