第39話リュウメ
背丈ほどに伸びた
風吹き――右に左にと揺れる様は……さながら意思を持ち、白く燃える
「ああ、素晴らしいほどの
狐面の女。それは祈るように――五体全てをくねらせながら一心不乱に踊る。
「しかし、まったく足りない。もっともっと頑張っていただかないと」
――
月明かりをその身に
「ああ、
果てるか果てないかの瀬戸際まで踊り狂う。
周りには青みを帯びた
実りの秋は過ぎさる。
厳しい冬がやってくる。訓練や家の修繕に費やし、
寒さを
「梅の花がもう少しで咲くな……竜を受け取りに行かねばな」
将門は新しい愛馬が、どのような気性の馬であろうかと想像を膨らませながら、軽い足取りで
「将平! 三十
将門は
「三十貫文なんて駄目ですよ、兄上」
まさか将平に
類を見ないほどに眉間に
「馬を二十頭ほど、
将平は
「兄上……最初にそう言えば素直にこちらも出しましたよ。開口一番にあれは無いでしょう」
「うむ……今度は馬は馬でも
照れながら頬を掻く将門。
「銀装飾の太刀
将平は、
「大丈夫だ、訓練次第で誰でも乗れるようになるぞ。将平も乗ってみるか?」
頭を大きく何度も横に振る将平を見ながら将門は笑う。
その笑い声を聞きつけたのか、ひょっこりと顔を出す、
「なんだい、なんだい、楽しそうに兄弟二人で話し込んで。あたしたち三人は退けものかい?」
大きくなった腹のせいか、動きにくそうにしながらも、君乃に手を支えられ、助けられながら部屋の中に入ってくる二人。
君乃は素早く軽い足取りで、部屋の外に出ていき、倚子を持ち戻ってくる。
「ささ、良乃お姉さま、こちらへお座りになってください」
「なに、
「兄上……あまり言わないでください、刀よりも筆の方が性にあっているのですから」
苦り切った顔をしながら将平は筆を手に持ち、
そのどこか滑稽な仕草に皆が笑う。
「ああ、笑わしてもらったよ。竜馬ね……子が宿っていなかったら、あたしも一緒に行くんだけどね」
将門は良乃の腹に武骨な節くれ立った手をゆっくりと当て、腹の子に話しかける。
「産まれてきたら、一緒に竜馬を駆って遠乗りに行きたいものだな」
春陽が誕生を今か今かと待つ子を祝うように、良乃と将門を照らす。
馬の背に男二人は狭く、暑苦しいであろうと想像に容易い。
「ようし、見えたぞ! 遠路ご苦労、皆の衆! これより望月の牧へと入るぞ!」
遠路を馬とはいえ、走破した皆は歓喜の声を上げる。
牧の入り口には、聞きつけたか、見つけられたか、定かではないが……すでに
「お久しゅうございますな、平将門殿。奥方と一緒に手合わせのような事をして以来ですな」
下馬をする最中の将門に声をかける望月三郎。
「ふむ、また手合わせしたいものだ。今度はお互いに全力でな」
ひりつく空気。乗ってきた馬が首を振り逃げようと騒ぎ始め、
望月三郎と将門はお互いに、にやりと笑う。
「しかしながら、
「全くもってその通りでございますな。物がないところを見ると……もしや、全て
望月三郎の言葉に対して、示し合わせたように、
「占めて三十貫文ある、
将平は貫文を刺し貫いている紐を掴み、望月三郎とその横に
「ひい、ふう、みい、よ、いつ、む、なな、や、ここの、とお……」
銭を数える望月三郎。――
銭の勘定が終わり。望月三郎は、ほくほくとした顔のままに、手早く部下に竜馬を連れて来るように指示を出す。
「三十貫文……しかと頂きました。竜馬を連れてきますので
「うわあああ!」
望月三郎が言いかけた折に、一番奥に見える
「……問題でもあったのか
「いやあ……なんでござりましょうな? まあ大丈夫でござりましょう」
珍しく――たらりと一筋の汗を流しながらも、
が……やはり気になるのか、ちらりちらりと悲鳴の聞こえた、一番奥の
人が次々と
「望月三郎殿……
将門の冗談に、顔色を悪くしながら頭を掻く望月三郎。
「
大地が揺れたかと思うほどの大きな音が響く。
黒い馬が長い首に縄を掛けられ、
「何だあれ? 普通の馬を
将頼は鼻で笑う。それに釣られ将門の部下たちも笑う。――将門は笑わず、
暴れ回り縄を持っていた人をふり落とし、将門たちの方へと一直線に駆けてくる馬。
「ははは……兄い、あれ馬で……すよね?」
青ざめる
「馬だぞ? しかし、竜馬より更に大きい」
その馬は
「ブオオオ!」
その竜馬の姿と、鼻息と、
将門の目の前で前脚を上げながら、
「かは! 踏み潰そうとするか! 手出し無用見ておれ!」
将頼らを制した将門の眼前に迫る前脚――
将門は両手で振り下る
「むぐ……思ったよりも力強い……」
力負けをしているのか、じりじりと押される将門。
「兄い!」
「将門様!」
「ぬぐああああ!」
将門の顔が汗だくになり、青筋が浮き立つ。――両腕に
「ブオオオオオオ!」
負けじと竜馬も力を
「ぬうん!」
将門は気合と共に竜馬を放り投げる。
――が、竜馬は危なげなく着地する。その顔は敵意に染まっていた。
「将門殿、あの馬は人嫌いが極まっておりましてな……
「望月三郎殿! あの竜馬をいただこう! 気に入ったぞ!」
「良いのですか? あの馬……いや、
将門は首を縦に振り、腕まくりをしながら肩を回し、竜馬へと近づく。
「さあ、竜馬よ! 気が済むまで相撲でも取ろうか!」
大きく笑いながら、天高くまで片足を上げ、降ろす。――地を揺らす
「ああ……兄い、
「程々で終わるかどうかは……この竜馬……
将頼は
「すでに名をつけてら……これは長くなるぞ、お前らゆっくりと英気を養っておけよ」
将頼は休息の指示を皆に出し、一番近くだが危なくないであろう距離の丸太……特等席に座り、相撲鑑賞と
幾度もぶつかり、竜馬を投げ飛ばす将門を見ながら握り飯を頬張る将頼。――ついには何刻で竜馬が根を上げるかの賭けが始まる。
陽が傾き、美しい夕焼けのなか、一頭と一人は相撲を取り続ける。――影法師が仲良く、じゃれ合っていように見える。
いつしか竜馬はその大きな体を将門の前で
「ふふ……楽しかったな黒丸よ。これより我が脚として、武器として存分に働いてくれよ」
「ブヒヒン!」
返事をするように鼻を鳴らす黒丸はさらに将門の顔を舐めあげる。
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