第34話ハルウララ
風と共に紅梅の
粛々と
将門は白さ際立つ
対して良乃は花があしらわれた、まばゆい
一族に祝われ盛況に終わる……娘の幸せそうな顔を見やり、笑顔とは裏腹に拳に力が入り血が
「では、
晴れやかな笑顔と共に良兼の手を握る将門。
「
将門と良兼が話すところに、水を差すようにやってくる二人の男。
どちらも将門より少し歳若く、良兼とよく似た顔つきであった。
「将門殿! いや、
勢いよく将門に向かって頭を下げる男二人。
その姿がいやに
「頭を上げられよ、
鳥が囀りと軽い羽音を奏でながら飛び立つ。
その羽音に連れられるように良乃が笑みを崩さずに男四人の場にやってくる。
「楽しそうに喋ってるじゃないか」
やって来て早々に並んで立つ公雅と公連の真ん中に割って入り、肩を持ち抱き寄せ、ひそりと耳打ちする。
「公雅に公連……次に、じゃじゃ馬とか言ったら……ただじゃおかないよ」
「ひゃい……」
絞められる寸前の鶏のような声が二人から漏れ出る。
過去の記憶を思い出したのか青くなった二人、その顔を見ながら、良乃は満足げな顔をして手を放す。
「ふふ……良乃あまりいじめてやるな、姉思いの弟達なのだから」
「これくらいが丁度いいんさ。さあ将門、皆が準備万端で待ってるよ」
将門は義父と義弟達に頭を下げる。
ふと、思い出したように将門は口を開く。
「義父殿に義弟殿、また来春辺りに我らの地へと来てくだされば、面白いモノが見れます故、一度で良いので来て下され」
将門は大きく声を張り上げるが、返事も聞けずに少々強引に良乃に手を引かれ連れて行かれる。
引っ張られていく将門の顔も、引っ張る良乃も屈託ない笑顔を見せる。
「姉上……あんな顔、今までで一度も見たことないぞ」
公雅と公連は顔を見合わせながら、狸か狐に化かされたかと思い、唾を眉につけながら首をいつまでも傾げ続ける。
平良兼の本拠のある上総国武射郡から、下総国豊田郡へとゆっくりと談笑しながら帰路に着く将門一行。
良乃は将門と同じ馬に乗り、満悦の表情で将門の広い背に甘える猫のように頭を押し付けていた。
「良乃の姐さん……終わってからずっとあんな感じだな」
「良いのではないでしょうか? 自分の意思を貫いて、もぎ取った居場所なのですから」
将門らから少し離れたところで、いつの間にか仲良くなった平将頼と飯母呂の四人衆の一人である小太郎はひそひそと語る。
「まあ良いか……そういえば小太郎さんよ、筑波山の方はどうなんだ?」
小太郎は珍しく、頭からすっぽりと全身を覆うように羽織っている黒衣姿ではなく、胡桃色の簡素な直垂を着用していた。
小太郎の肌は右半身だけ赤黒く、髪は右の顔を隠す簾のように垂れさがっていた。
「居住できるように家も田畑も恙なく広がっております、すべては将門様や将頼様のお陰です」
「それは何よりじゃないか、何かあればいつでも言ってくれよ、もう俺たちは友なんだから」
曇りなく笑う将頼に釣られて笑みを溢す小太郎。
「人として扱ってもらえるだけで我らは……」
風音にかき消されるほどの微かな声で言つ。
言葉少なくとも雄弁に語るようにその顔はどこか誇らしげであった。
豊田郡に入ると仕事に精を出す人々が目につき、将門が手を振れば皆が笑顔で応える。
「将門様が戻ってこられたぞ!」
誰か一人が声を上げると皆が仕事の手を止め、将門らの周りに集まり始める。
将門らは下馬し、集まってきた民たちと談笑しあう。
小太郎は少し離れた場所から将門らを見ている。
すると髪の長い童の一人が藁で編まれた籠を将門へと手渡そうとする。
が……しかし、童は人垣に阻まれ、右往左往するばかりで進めなくなっていた。
「ふむ……童よ、どうした?」
見かねた小太郎は童に声をかける。
思いもかけない方向と人から声をかけられ驚く童。
「ひう、あの……将門様にこれを渡したいのです」
そう言いながら籠を小太郎に見せる。
中には蕨や土筆にゼンマイといった色とりどりの山菜がたんまりと入っていた。
「たくさん集めたではないか、将門様もさぞお喜びになるだろう……しかし――」
そう言いながら籠の中から幾つかを取り上げる。
「これはハシリドコロといって、蕗や反魂草に見えるが毒草なのだ。それ以外は大丈夫だ……将門様の所に連れて行ってやろうか?」
「よいのですか? やった! じゃなかった、ありがとうございます」
年相応に喜び、飛び跳ねる童。
小太郎は童の膝裏と背の辺りを腕でしっかりと持ち抱きかかえると飛び上がる。
小さい悲鳴と共に人垣を飛び越え、将門の後ろに見事に着地する小太郎。
「将門様、この者が将門様にお渡しになりたい物があると……」
今まで体験したことのない高さまで飛び上がった、その恐怖により引きつった顔の童は首を縦に振り、小太郎の手から降りようとする。
「将門様ごめんなさい……立てなくなっちゃいました」
瞳に涙を浮かべ、堪えてはいるが今にも泣きだしそうな声色を出し、申し訳なさそうに俯く。
将門は笑い童の頭を優しく撫でながら、籠の山菜を手に取りながら口を開く。
「うむ、それは仕方のないこと故に咎めはせぬよ。これほどの数の山菜を集めるとは……山菜取りの達人であるな、ありがたくいただこう」
将門はもう一度、童の頭を撫でる。
「よし、小太郎よ、この女子は責任をもって家まで届けよ。よいな?」
将門の指示に童を抱いたままに、恭しく頭を下げる小太郎。
「……は。承りました。……しかし、将門様、この童は男子では?」
小太郎の一言に集まっていた民も将門も良乃も将頼もを凍り付かせる。
春うららの中、良乃の叱りつける声が響き渡り、将頼と将門は失笑する。
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