第31話キョウシュウ
二人は仲睦まじく、二頭の馬をゆっくりと歩かせ、揺られながら談笑する。
「時に良乃よ、
唐突に話題を切り出す将門。
その言葉に対して、談笑していた良乃の顔が曇り、声に張りがなくなる。
「聞いたよ……将門の身体はすでに髄まで呪いに侵され、
良乃は溜息をつきながら、馬を将門の横にさらに近づけ、将門の脇腹辺りを何度か小突く。
「今度は独りで、何でもかんでも解決しようとするんじゃないよ、頼りになる部下も兄弟も、隣にはあたしも……」
良乃の言葉を聞き、小さく頷き微笑む。
「存分に頼りにさせてもらうぞ、良乃……その前に色々とやらねばならんことが山積みだがな」
笑いながら二人は馬の脚を進める。
しかし……少し走ると、その行く手を阻むように一つの影が見え始める。
二人は警戒を怠らずに馬の脚を止める。
「将門、今回は先に行けって言うのは無しだよ」
「――わかっている」
人相が分からないようにする為か、黒く
良乃は布を巻いた薙刀を持ちながら、馬から降り。
将門は下馬しながら、眼光鋭く睨みつけながら男へと話しかける。
「そこな
言い切ると同時に将門は男へと向けて、殺気を飛ばす。
男は将門の殺気に対してぶつけるように殺気を飛ばす。
空気が凍り、刃を持って襲ってくる――
そう錯覚するほどに冷たく、身を裂かれそうな殺気のぶつかり合い。
良乃は殺気が自身に向けられていないと分かっていても、余波を受け細かく身震いする。
「これが、隣に立つということ……」
小さく……将門に聞こえない声でぽつりと呟く。
良乃は気合を入れる為に、薙刀を持っていない右手で、自らの頬を周囲に響くほどの強さで叩く。
「将門……準備は良いかい?」
赤くなった右頬と引き換えに、良乃の震えは消え、その目と言葉には覚悟が宿る。
「無論よ」
将門は短い言葉と共に目配せを良乃にする……
言わんとする意図を察し、口角が上がる良乃。
じりじりと間合いを詰め寄る二人。
対して男は足を肩幅より少し狭いほどに開き、両腕は脱力させ、やや前傾姿勢をとる。
風が吹く――
瞬間に男の二つ目が見開き朱く輝く、身体は放たれた矢のように二人へと飛ぶように駆ける。
良乃は手早く、薙刀に巻いていた布をはぎ取り、男の視界を奪うために投げ広げる。
男の手ぬぐいに覆われた口から、
同時に地面を這うように体勢を落とし、滑るように布を
「とった!」
――確信した声。
良乃の薙刀が地を
それと同時に男の胴体を寸断するように真横から振り下ろされる将門の白刃。
「ぬん!」
気合と共に将門の振り下ろした刃は男の背骨を砕き、
上半身の行き着く先、良乃が振るう薙刀の刃――
男の喉元と
「ふう、将門これでしまいかい? あっけなかったね」
良乃は顔にかかった血を
当の将門は、周囲を警戒しながら問いに答える。
「分からん、殺気は本物であったが……何か――」
「違和感がありましょう?」
将門が言いかけたときに不意に耳元から男の声が聞こえる。
――二人は同時にその場から左右に飛びのきざまに薙刀と刀を声がした方向に向かって振るう。
「
左右から振るわれた薙刀と刀の刃。
それをたったの指先二本で挟むようにし、ピクリとも動かないようにしていた。
「この
将門は冷静に人ならざる行為を成した男へと問いかける。
「ふふ……
勢いよく刃を放す望月三郎、その顔は笑みを絶やさずにいた。
一方その名を聞き将門は、はたと思い当たり、指から離された刃を鞘へと納める。
「良乃、薙刀を納めよ……」
「将門、いいのかい? こんな怪しい奴の言い分を信じて」
望月三郎の言い分を信じず乗り気ではない良乃を目で制す将門。
良乃は口を
「さて、
「いえいえ、娘が仕事で死んだのは
望月三郎が襲撃してきた男の死体の方をちらりと見たのに合わせて二人も見やる。
煙を立てながら、姿形が
「ほう……実に面白い術だな」
「で、ありましょう……平将門殿、我らは貴方様の暗殺を請け負いましたが、この度に
にこにこと笑みを浮かべながら、悪びれる様子もなく朗々と語る望月三郎。
「ここからが本題なのですが……
回りくどい言い方に良乃が怒りを溜め始めているのか、身を震えさせ始める。
「将門殿の
じっくりと望月三郎の言葉に耳を傾け、熟考した将門。
「ふむ、望月三郎殿。ご忠告痛み入る。つまりは死ねば厄災を振りまく存在となるかもしれないということだな」
「ほほ……御明察。しかし、
嬉々として望月三郎は語る口が止まらない
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