第11話マサカド乱のおわり
気の集まる、こめかみ……という将門の
力の源……唯一の急所。――そこを秀郷の矢で刺し貫かれたまま、首を
最初の様に、将門の身体は勝手に動きだすことはなく……首元より、どこまでも朱い血が吹き出だし、揺れた後に倒れこむ。
限界が来たのか、秀郷はぐらりと倒れこみそうになる。
「むぐ! 倒れるのはまだ早い!」
――何とか気合を入れ、蜈蚣切丸を杖の様に立て、踏み留まる秀郷。――
「ぼろぼろじゃわい……あと少しで儂の方が死んでたわ」
秀郷はゆっくりと近づき、将門の身体の前で膝をつき……手を触れる。
将門の魂と、何かを語り合う様に目を瞑る。
――何かを感じ取ったのか、秀郷は目をかっと見開く。
「
秀郷は拳を振り上げ、気を込め、将門の身体に拳を振り下ろす。――将門の身体が陸に上げられた魚の様に跳ねる。
それは血とはまた違った、全ての光を通さない
漆黒の液体は細長く形となり、尺取り虫の様に逃げ出す。
「これが
力弱く、地を
「呪術か呪法の類かのう」
将門の首がころころと転がる。――
「将門の首はここにあれども、魂は何処へと……か。
水の結界を張っていた龍神の姫へと声をかける。直ぐ様に結界が解かれ、
「
泣きそうな顔をしながら、
「それに貴方の魂は先約があるのですよ! 龍脈の力に耐えられても、あれに殺されていたら。――きっと魂は無事では済まなかった」
怒りながら秀郷の胴を叩く。
秀郷はその心遣いが、姿が、
「
秀郷の言葉に
直ぐ様に貞盛が兵に肩を担がれ、
「叔父上! ご無事でしたか! いたた」
脇腹を押さえながら、倒れ込む貞盛。苦痛を耐え悶える。
「馬鹿じゃのう、そんなに興奮しては傷に響くじゃろうて」
苦笑しながら、痛みで
「さて、首は京に持って行かねばならぬが……将門の身体は手厚く
貞盛を支えながら、何処が良いかと思案しはじめる秀郷。
「そういえば、叔父上……やはり、何か違うモノが入っておりましたか?」
抱えられたまま、貞盛は疑問を投げかける。
「うむ、記憶や力は体に残ったままに別のモノが入っておった……残っていればの話じゃが、魂を探して、事の
痛みと秀郷に聞かされた話により、にが苦しい表情を浮かべていた……が、いつものように明るい顔に切り替え――
「叔父上……何はともあれ、将門は討ち取りましたからね。全軍! お預けにした分もだ、
貞盛の掛け声と共に全員が
大軍勢が平たい野原で休憩をしている……その軍勢を率いるは将門討伐を命ぜられた、征東大将軍――
「
「早過ぎぬか? 見えたのか
「いえ、もう少し近づかないと見えないのですが……伝令が来ました故、藤原秀郷様が討ち取ったようです」
「ふむ、藤太は
どたどたと帰還の準備をしだし、慌ただしくなっていくなか、経基は忠文に話しかける。
「次は西の
「また儂が形だけの、今度は征西大将軍になるな……経基、西にはお前が行ってきてくれよ、"
忠文の豪快な笑いが野原に大きく響いていく。
同じ頃、森の中を木の根に足を取られ大きく転んだ男が一人……仕立ての良かった着物も枝で切ったのか、ぼろぼろになっていた。
「
大の男が地面に突っ伏したまま、ぼろぼろと涙を流しはじめる。
「なんだよ……『
興世王の恨み節と
「絶対に……許さない、日ノ本を必ず呪って潰してやる。独りでも魔の国を作って、今度こそ余が皇に――ぐび」
音もなく忍び寄ってきた男に背中を刺され……最後の言葉を
興世王の顔は鼻水と涙に濡れ、情け無い顔であった。
「
口元を手拭いで隠し、顔を見られても問題がない様にしている、白髪の男。
短く言葉を投げ、
男は興世王の顔を手で持ち上げ、舌を引き出す。何をするかと思えば。――手に持つ刀で舌を根本から切り落とす。
血の滴る舌。――紋様が刻まれている舌を、口が広い竹筒に押し込む。
男は興世王の
木の上には赤い三日月が一つ……
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