第8話ハルはまだ遠し
「不味いな、これは……全軍聞け!
先に秀郷が手本を見せ、全員が腰の
見様見真似で手順通りに符を使用していく。
「そこの十人、先の方の偵察に行ってきてくれ、敵を見つけたらすぐに戻ってくるんじゃぞ」
いち早く符を使用し、準備を整えていた十人に手早く偵察の指示を出す。
彼らは頭を下げた後に言葉も無く、矢の如く放たれ駆けていく。
「おお! こんな地獄のような瘴気の中でも、素晴らしいほどの
戦さ場にあるというのに能天気な声……貞盛は童のように飛び跳ねながら、興奮気味に
「うむ、
秀郷は一人で
「
貞盛の言葉にきょとんする秀郷。
「貞盛、お前は京で勤めておったのに知らんのか……それは表の顔じゃ、裏の顔は鬼退治や
やっと
その声の主は腕が砕けているのか、血を流し……明後日の方に向いている腕をぶらぶらと揺らしながら秀郷の方に歩いてくる。
「敵だ! 敵軍がこっちに来るぞ! はや――がっ――」
その者は最後まで言葉を
「全軍、抜刀! 足の速いのが来るぞ、注意をしろ!
荒い息と駆ける軽い足音と共に
「クソ
秀郷に飛びかかってきた狗の口に刀を突き入れ下方向に切り裂く。――
「狗なんか
貞盛に飛びかかった狗の
精鋭の
「よし、全員無事じゃな! 次は敵の本隊が来るぞ、敵影を見たら迷わず一斉に矢を射かけるんじゃ!」
その声と共に全軍が弓を構えて、今か今かと敵の影を待つ。段々と足音に馬の音も近づいてき、軍勢が見え始める。
「放て!」
鳴り
「瘴気で頭までやられておるようじゃな……どんどん矢を射かけてやれ!」
さらに矢の雨により大量の
「よし、このまま
じわりと包囲をする為に秀郷の兵らは鳥が羽を広げるように進んでいく。それを見て将門の軍勢は勝ち目が無いことを悟ったのか徐々に引き始める。
「うむ、狗を
「叔父上!
コツンと貞盛を小突く。
「阿呆、奴らは散り散りに逃げていっただろうが、このままの勢いで彼奴の……将門の手薄な本拠地に行くぞ!」
「小突かなくても……全軍!
「叔父上、そういえば将門の本拠地は何処なのですか?」
「"調べ"はついておる、島広山じゃよ」
貞盛は馬に乗りながら首を傾げる、一体いつ調べたのであろうかと。――すぐに
「叔父上に着いて行けば間違いないだろうし、大丈夫だろう」
「そうだぞ、なんたって儂には
地獄の中を笑いながら進んで行く。
同じ時の頃、護衛に手厚く守られ京への遠い道のりを行く。
将門の血縁である二人の姫と将門の妻。三人は護衛に聞こえないほどの小声で語り合う。
「母上……藤太の爺様が父上のことを絶対に助けてくれるよね、ちゃんと助けるって約束したし」
「五月、貴女も見たでしょう? 天に昇る龍の
秀郷に助けられた時にも、秀郷をじっと推し量るように見つめて一言も喋らなかった春姫が口を開ける。
「母上も五月姉上も楽観が過ぎると思いますよ、父上の魂はすでに
その幼さからは考えられないほど、春姫は妙に達観し
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