Passing
@hzz
epilogue
水槽に積もった埃が陽の光を浴びてきらきらと輝くのが、まるで街の光のようで笑わずにはいられなかった。寂しくて、私はこんなにも寂しいのに、朝の光は魚1匹いやしない空の水槽を残酷なまでにありありと見せつけてきた。
あの日、祭りの夜に気まぐれで買った金魚は今頃裏庭の土塊になっている。私はそんなことにも気付かずにいた。いいや、気付かずにいようとした。ため息混じりの吐息が白く曇った。
寂しい夜が嫌いだった。寒い冬が大嫌いだった。だから見ないふりをした。それがどれだけ虚しいことかも知らずに。
明日は花の種を買って来ようと思った。できるだけ明るい色をした花の咲く品種がいい。目を閉じて、陽光を一身に浴びて咲き誇る花の姿を脳裏に思い描く。その間幾度も、光の波が瞼の上を優しくくすぐりながら寄せては返していった。それは暖かくて、どこか懐かしい感覚だった。
頬を伝い流れ落ちた涙の玉が手元の水槽をゆっくりと満たしていく。私はもう空の水槽を抱きしめなくていいのだ。
Passing @hzz
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