ヤンデレ彼女とヤンデレ彼氏

森永文太郎

プロローグ

第1話、盗んじゃいました

 朝のホームルーム、クラスの中は騒然としていた。

 教壇の前には険しい顔をしたクラスの担任教師、そしてその隣にはどこか浮かない顔を浮かべる女子生徒が立っている。生徒達の視線が教壇に集まる中、担任が口を開く。


「昨日の午後、倉田の体操服が失くなったらしい。誰か心当たりのいる者はいるか」


 担任の言葉を受け、クラスは再びざわつき始める。

 女子の体操服──それは男子にとって魅惑のアイテムだ。体操服自体は学生なら誰もが持ってる運動着に過ぎないが、それが異性の物となると話は別だ。その服を手に持っただけで興奮を覚える者もいるだろうし、普通であれば汚いとすら感じる汗の匂いですら、情欲を掻き立てられる者もいることだろう。


 つまり何が言いたいかというと、担任教師は教壇の隣に立つ女子生徒、倉田沙織くらたさおりの体操服を誰かが盗んだのではないかと言っているということだ。

 体操服を取られた女子である倉田沙織は明るく、誰にでも優しく接するクラスでも評判の良い女子だ。顔立ちも良く、男子からの人気も高い。


 これだけ聞くと同性によるイジメの線も否定できないが、倉田は女子からの評判も高く、決してイジメを受けるような生徒ではない。となるとやはり、彼女に好意を持つ誰かの仕業ということになるのだ。


 しかし一向にクラスの誰も手を上げたりはしない。当然といえば当然である。もし誰かが犯人を目撃していたのであれば、このネット社会のことだ。教師に言う前に、写真なり動画なりに収めて、SNS等を通じてネットに上げることだろう。

 しかしそういったことが起きてないということは、おそらく誰も犯人に関する目撃情報を持っていないということだ。


 そして「うそー」「まじー」などとざわつくだけざわついて、話が進まない中、生徒達に向かって担任は更にこう付け加える。


「もし、盗んだ奴がこの中にいるなら、すぐに名乗り出て欲しい。すぐに名乗り出てくるのであれば倉田も許してくれると言っているし、こちらも今なら厳重注意と反省文で許してやる」


 しかしそうは言ってもこの中に犯人がいたところで、わざわざ自ら名乗り上げるバカはいないだろう。担任の言葉を聞き、クラスの皆がそう思っているその時だった。


「はい!」


 すると突然、一人の男子生徒が手を上げた。男子生徒の名前は相沢祐輔あいざわゆうすけ、色々と奇行の目立つ男だが、そんな評価とは裏腹に、その実彼女持ちである。

 その男の手が上がるとき、皆が一瞬こいつじゃないかと疑った。しかし流石に彼女持ちで、しかも変人とはいえ、わざわざ自ら自供なんてしないよな……と皆すぐに思い直した。

 そして担任が相沢に聞く。


「相沢、何か心当たりがあるのか?」


「先生、今なら許して貰えるって本当ですか?」


 相沢のセリフにクラスの空気が一瞬凍りついた。「こいつなに言ってんだ……?」と。

 担任もクラスの生徒達と同様の反応をしており、意味がわからず相沢に聞き返す。


「あ、相沢……それはどういうことだ?」


「ですから、今先生が言ったことは本当なのかと尋ねたんです」


 相沢は相も変わらず、堂々とそう答える。それを聞くと担任含む皆は聞き間違いでないことを認識させられ困惑する。

 そして担任が相沢の質問に答える。


「あ、あぁ本当だが……」


「そうですか!なら良かった〜」


 そう言うと相沢は自分のカバンの中からある物を取り出した。そしてそれを見たクラスメイト達はざわついた。

 驚くのも無理はない。何故なら相沢が取り出したそれは紛れもなく倉田の体操服袋なのだから。


「相沢……お前、それ……!」


 相沢はニッコリと笑顔でこう答える。


「はい、俺がやりました」

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