公園にて

「滅びろー!滅びろー!」


右手に黄色のメガホン、左手はキツネの形で叫んでいる。深い紺のセーラー服に赤リボン、僕よりも五つか六つ上であろうおねえさんが、公園の花壇に片足かけて叫んでいた。こわっ。目が怖い。眉毛がくっついてしまいそうに寄っている。よく見たら傍らに剣道の剣もあるし。スカートが妙に長いような気もする。いったい何に滅んで欲しいんだろう。叫びかける先は虚空だった。いや、完全に虚空ではなく象がモチーフの滑り台はあるけど。まさか象の滅亡を望んでるわけじゃない、よね。確信はもてない。


ジロジロ見るのもヘンなので、僕はおとなしく僕のしたいことをすることにする。四つ並んで揺れるうちから、なんとなく三番目を選んで、体重を預ける。足を地面から離した。ふと気付くと、今日は人気がない。雨が降っていたわけでもないし、ふつうに日曜日だし。祭りとかあったっけ。いいや、無いはずだ。祭りは二週間前にやったばっかしだし。・・・いまはいいや。いちいち公園までやってきてブランコに座って考え事をしていいのはクビ帰りのサラリーマンだけなんだ。僕はクビ帰りでもないしサラリーマンでもない。ブランコに弱く揺られながら悩む資格なんて無いのだ。

膝を曲げて、伸ばす。曲げて、伸ばす。繰り返す度に楽しくなってくる。うんうん。ブランコ乗りに来ようと思った僕よ、君は偉い。内閣総理大臣の次くらいに偉い。僕がどっかの王子だったら好きなだけ持っていけって札束を投げつけるほどにね!


「あはは、あはははは」


楽しいなぁ。楽しいよ。どうしてブランコに長蛇の列ができてないんだろうねぇ!


「滅びろ!滅びっろ・・・!ほろっガッ・・・げほっげほっ・・・・・・」


むせてる・・・そういえばずーっと叫んでたからね。さすがに疲れるよね。あ、水飲んでる。大きなペットボトル片手に持ってゴクゴク飲んでる。強い。僕なんかより遙かに強い生物だ。何を滅ぼしたいのかはまるでわからないけど、この人はいつか成し遂げる。僕はそんな気がする。


「・・・負けてられないな」


ブランコから飛ぼう。できるかぎり遠く。そうしたら僕は前に進める気がした。

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