ロリコンな僕に与えられた罪と罰

森永文太郎

第1話、目覚め

 ピンポーン


 その日は突然訪れた。俺の部屋にインターフォンの音が突然鳴り響く。時間は12時を回り、俺は礼華ちゃんと丁度お昼にするところだった。

 俺は礼華ちゃんに席に座ってるように言い残し、玄関へと向かった。ドアスコープで訪問者を確認すると、二人の警察官の姿が見えた。

 ──ああ、とうとうこの時が来てしまったのか。


 二人の警察官の姿を見て、俺、前原努まえばらつとむはそう悟った。いつかこの日が来るなんてことはわかっていた。俺のしてることは犯罪で、世間一般の常識からいっても到底許されることではない。だからこそ、この生活が永遠ではないことなど理解している。それでも、俺はこの生活を手放すことは出来なかったんだ……。


 再びインターフォンの音が鳴る。外から「前原さん、前原努さん、いらっしゃいますよね?前原さん」と警察が声を掛けてくる。

 どうやら俺がこの部屋にいるのはバレてるみたいだ。これじゃあ居留守は使えそうにない。使えたところで一時凌ぎにしかならない。

 この絶体絶命のピンチをどう切り抜けるか努が頭を悩ませていると、追い打ちをかけるように、今度はドンドンとドアが強くノックされる。


「前原努さん、警察です。ここを開けてください」


 もう迷っている暇はない。出たとこ勝負だ。

 努は覚悟を決め、一応チェーンロックをかけたまま、ドアを開けた。

 ドアを開けると、早速警察の一人が努に対し言う。


「前原さん、どうして一回で開けてくれなかったんですか?」


「いえ……その、寝てたもので……。ほ、ほら、今日休日ですし……」


 努はキョドった声でそう答えた。しかし依然、警察は努に疑いの眼差しを向けている。


「と、ところでお巡りさんがうちになんの用でしょうか?」


 努がそう聞くと、警察は努の質問に対しこう返す。


「貴方が幼い女の子を拉致監禁していると近所から通報がありました。中を改めさせて欲しいので、チェーンを外して下さい」


 やはりそうなるのか……。

 努は後ろをちらっと後ろを振り返る。努の視線の先には、まだ小学校低学年ぐらいの幼い少女──竜童礼華りゅうどうれいかがいる。警察がここに来た理由はおそらく、いや、100%彼女を探しにここに来たのだ。


 彼女とは三ヶ月前、近所の公園で出会い、そして───俺は彼女を誘拐した。


 最初は公園で顔を合わせるだけでよかった。けど、彼女と顔を合わせるたび、それ以上の関係を求めている自分がいた。

 勿論、それはダメだと自分を抑えた。公園で二人で話すことさえ、他人に見られたら捕まるかもしれないのに、それ以上の関係なんてバレたら実刑は免れないだろう。だが、会うたびに募る俺のこの思いは抑えきれなくなっていたのだ。

 そして一ヶ月前、僕はとうとう彼女を誘拐した。してしまった。




 もう後には引き下がれない。

 このまま警察を部屋にあげれば間違いなく俺は捕まるだろう。

 なら大人しく捕まるか?犯罪者として?冗談じゃない。

 犯罪者として捕まれば何年も拘置所から出れなくなる。前科だってつく。もうまともな仕事にはつけないかもしれない。

いや、そんなことはどうでもいい。一番問題なのは、もう礼華ちゃんと会えなくなることだ!

 彼女に振られ、会社にも認められない。そんな俺が前を向いて生きていこうと思えたのは礼華ちゃんがいたからだ。

 捕まればもう彼女と二度と会えないだろうし、犯罪者になった俺を、もう社会は認めようとはしないだろう。誰も俺を認めてはくれなくなるだろう。

 元々死んだような人生だった。そんな俺の人生にいろどりを付けてくれたのは礼華ちゃんだ。だから───


 彼女を失ったこの世界に、俺が生きる意味なんてもうないんだ。


 努はチェーンを外すと、勢い良く部屋を飛び出し、目の前にいた二人の警察官を突き飛ばした。

 そして、アパートの柵に足をかけ、そのまま頭から真っ逆さまに飛び降りた。


 グシャ


 努が今まで聞いたこともないグロテスクな音がする。

 気づけば努は地面に倒れ込んでいた。激しい痛みとともに、努の周りには血の海が湧き上がり、努の視界は次第に暗くなる。


 そして、そのまま努の意識は遠のいていった───




 目が覚める。

 目の前には白いタイルの天井。体は何故かベッドの上にある。体を起こそうとするが、体中が痛み上手く体を起こせない。そしてそんな状況から努は察した。

 そうか……俺は助かったのか。

 もう死んだものかと思った。けどこうして意識があるっていうことは死ねなかったということなのだ。

 ここはおそらく警察病院、アパートから飛び降りた僕はここに運ばれて命を長らえたというわけだ。

 努はそんな現実を前に絶望した。

 犯罪者として生きるぐらいなら死にたかったのに……なのに、俺は生きてしまった。


「ハハッ……神様ってやつは残酷なもんだな。誰も俺を認めようとしないこの世界で、俺に生きろというのか……」


 どうせその内、警察がこの病室にやって来て事情聴取とかされて、怪我が治れば拘置所に移されたりするのだろう。

 すると努はあることに気づく。


「そういえば、頭から落ちたのに、何故体中を怪我している?」


 俺はあの時、頭から真っ逆さまに落ちた。その後体を強く打ったにしろ、あの時腕はなんともなかった……はずだ。なのに、今努の左腕は何故か折れている。

 それに、それ以外にもなんか体に違和感を感じる。なんていうか、まるで自分の体じゃないような……そんな感覚だ。


 すると努は体の痛みを必死に堪えて体を起こした。体を起こすと、目の前に洗面台のようなものが見える。そして、そこに掛かっていた鏡に映った自分の姿をみて、努は驚愕した。


「なっ……なんだよ、これ……」


 驚くのも無理はない。

 何故なら鏡に映った努の姿は、全くの別人のものだったのだから。

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