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 劇場へ足を運ぶと、役者へ贈られたフラワースタンドが多量に並んでいたりする。そう言った出演祝いのスタンドは、同業者やお世話になった人以外にファンからも贈られたりするそうだ。俺はしたことないけど、個人名のプレートの付いたスタンドを何度も見たことがある。ハルさんもその一人だ。

「もっちろんじゃないですか! カズマきゅんの事務所は手紙以外のプレゼントを受け取ってくれませんから、スタンドを送って愛を示さないと!!」

「そ、そうでしたね」

「今回はですねぇ、舞台のイメージが天国と地獄で、カズマきゅんは超イケメン堕天使というとても美味しい立ち位置でしたから」

 ぶつぶつと言うと、ハルさんはスクロールさせていたスマホの画面をタップして、俺の鼻スレスレに見せつけてきた。これならオペラグラスはいらないね。

「わ、こんな色のバラ、あるんですね」

 画面の中には右に天使の羽、左に悪魔の羽が付いた大量の灰色のバラと黒いバラで作られたハートマーク、それからは埋もれたようなプレートの隣に紫の細長い花弁の花があった。プレートにはもちろん“祝御出演、柳沢 一真様”その下には“ハルより”と共にハートマークが描かれてある。

「素敵でしょう? ダメもとでお願いしたらとても素敵なお花を用意して貰えて。しかもこれ、カズマきゅんのブログなんですよ!」

「ブログ?」

 もう一度ちゃんと画面を見ると、ブログタイトルなのか【みんなありがとう!】と上部に書かれてある。

「カズマきゅん、いつもいくつかのスタンドを取り上げて写真を載せてくれるんです。私のスタンドは今まで取り上げられたことがなくて、今日が初めてなんです。沢山スタンドが贈られていたのに、凄く嬉しい!!」

 全身でその感情を表現するように、ハルさんはスツールの上で小さく跳ねた。

 そうだよな、こんなことして貰えたら嬉しいに決まっているよな。

「良かったですね、ハルさん」

「はい! とっても!!」

 ハルさんいわく、舞台のテーマによってスタンドのデザインは変えるそうだが、プレートの隣にあった紫の花は変えないんだと。初めてカズマきゅんに出会った時の彼の役名が“紫蘭”だったから、だとか。

 なんか一途でいいな、そういうの。きっとカズマきゅんにも届いていると思う。こんなにもキャスト想いのファンがいるんだってこと。そうだったら、俺もなんだか嬉しいな。

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