127話 『姉の友人達と弟はクイズに弱い』

「あー、怪しい忍者だー」

「不審者不審者不審者!」

「おまわりさあああんッッ!」


 突如現れた忍者を前に、皆が騒ぎ出した。

 テルミは先輩女子達の前に立ち、皆を守ろうとしつつ、スマホで通報しようとする。


 だが忍者はこのような反応を予期していたのか、「まあまあ君達落ち着きたまえ」と冷静だ。目にも留まらぬ素早さで、テルミが手に持つスマホを操作する。


「ああ、いつの間にかスマホの電源が切られています」

「忍法、他人のスマホ弄り! さあさあさあ。盛り上がってきたところで、それではさっそくクイズスタートだっ!」

「いやー盛り上がってないけどー」


 鈴のツッコミはスルーして、忍者は「ジャジャン!」と『クイズを今から出します』的な効果音を叫ぶ。


「第一問! そろそろクリスマスの季節ですね。クリスマスはとある聖人の……」

「分かった分かった分かった! キリスト様の誕生日!」


 一人の女生徒が、ついクイズに答えてしまった。

 しかし忍者は両腕で大きなバツ印を作り、


「ブッブー。問題は最後まで聞きましょう」


 と、してやったりなセリフを述べる。


「クリスマスはとある聖人の――そう、イエスキリストの誕生日――で~す~が~?」

「うわー、何かヤな言い回しの問題だなー」

「ズルいズルいズルい!」

「姑息ですね!」


 そんな女子高生達の罵倒にもめげず、忍者は問題の全文と解答を最後まで言う。


「それではブッダ、つまりはお釈迦様の誕生日はいつでしょう? 正解は、『宗派によって言い伝えられている誕生日が違うから分からないけど、強いて言うなら日本では四月八日』でした。単に四月八日と言うだけでは不正解です」

「えー! 何ですか、その意地悪の極致みたいな問題は!」

「忍者と関係ないしー」

「ず、ずるいですぅ……」


 人見知りな柊木いずなからさえも、文句を言われてしまう忍者。

 しかし気にせず、次のクイズへ。


「第二問! わたくしNINJAは、忍者なのでお風呂が大好きなの――で~す~が~?」

「それって、忍者関係あるのー?」

「わたくしとは逆に、風呂嫌いで有名な動物と言えば猫! さあ、猫はどうしてお風呂が苦手なのでしょうか!」

「えーとえーとえーと」

「臭いのが好きとかじゃないですか!」


 女性徒達は、いつの間にか忍者への警戒を解き、クイズを真面目に答えようとしていた。

 まんまと忍術、というか、話術に掛かっている。

 忍者の放つクイズが、何故だかとても気になってしまうのだ。


 しかしテルミは、何とかクイズの誘惑を跳ね除けていた。

 突飛な状況に慣れてしまっているおかげだろうか。


 そして落ち着いて忍者を注視してみると、彼がテレビやネットで良く見る格好をしている事に気付く。

 つまりは、九蘭百合や九蘭昼子(仮名)と同じ。

 例の暗殺者グループのユニフォームだ。


 本当は一目で気付いて然るべき特徴ある服装なのだが、何故だかすぐには気付けなかった。

 唐突なクイズ展開に、脳が追い付けなかったのもある。が、当然それだけでは無い。

 忍者は自分の周囲に薄い霧を張りぼやけさせ、視認性や印象が薄くなってしまう仕掛け・・・を施しているのだ。


「正解は、『猫は体表から分泌する脂分が少ないため、体毛が濡れると乾きにくく、体温を奪われるから』でしたー」

「へー、そうなんだー」

「さっきとは違って、普通の豆知識クイズですね!」

「ノッて来たねキミ達。それでは第三問!」


 出題を続ける謎の忍者。

 彼を見ながら、テルミは考える。

 

 何故クイズなのかは分からないが……この忍者が突如現れたのは、自分達が百合の生徒であるという事に関係しているだろうか。

 それとも別件か。本当にクイズが好きなだけの変な忍者であるのか。


 そう言えば、百合は通行人に撮影された動画内で「私は忍者じゃない!」と言い張っていた。

 しかし目の前の男は自分から「NINJAです」と名乗っている。

 開き直りか、それとも実は本当に忍者だったのか。


 まあ何にせよ、この忍者もおそらく殺し屋。

 簡単に気を許してはいけないだろう。


「さあお次は、『知恵を利かせろ! テクニカルNINJAクーイズ!』」

「テクニカルNINJAクイズ!?」

「ルールは簡単!」


 そう言って忍者は、懐から小指爪サイズの白色宝石を取り出した。


「わあ、ダイヤ? キレイキレイキレイ」

「ダイヤじゃないねー。水晶かな」

「良いお値段で売れそうですね!」


 女子達が色めき立つ中、忍者は説明を続ける。


「この宝石はある条件・・・・でピカピカ綺麗に光ります。その条件を見つけだせれば正解だ!」

「光るー? LEDでも仕込んでるのかなー」

「って事はぁ……これ、偽水晶イミテーションですかぁ?」

「とにかく! 知恵の輪みたいなものですね! 私得意ですよ、いつも壊れちゃいますけど!」


 そして皆は、宝石を手に乗せ条件・・を探し始めた。

 振ったり、擦ったり、温めたり、風にさらして冷やしたり、太陽にかざしたり、ミネラルウォーターを振りかけて見たり。

 しかし宝石は光らない。


「そこの男子、キミもやってみたまえよ」

「え、僕もですか」


 警戒しつつ傍観していたテルミに、忍者が話しかけた。

 すると、宝石を噛み砕いてみようとしている先輩女子が、


「あーーん……おお、そうですね! テルミさまもどうぞ!」


 口に入れる寸前で取りやめ、テルミに差し出す。


「ええと……分かりました」


 テルミは戸惑ったが、宝石を触ってみるくらいは問題無いだろうと考え、先輩から受け取った。

 すると、


「……えっ?」


 テルミが触れた瞬間に、白い宝石が緑色の光を放ち始めた。

 幻想的な光線が、皆の顔を緑に染める。


「おおー光ってるー」

「えー、なんでなんでなんで? 静電気とか?」

「テルミさま! どうやったんですか!?」


 そう聞かれても、テルミは本当にただ触れただけ。


「わ、わかりません」


 としか返せず、困り顔で忍者を見た。

 当の忍者も驚いたように目を見開いて「おお……マジで家長いえおさの言う通りだった……」と呟いていたのだが、テルミの視線に気付いて慌てて態度を戻す。

 そして大きく拍手をし、


「おめでとう、大正解!」


 と祝福した。


「わー正解だってー」

「これでパリ旅行も頂きですね!」

「お、おめでとうございますぅ、テルミくん……えへへ……ぱ、パリには私も……その……な、何でも無いですぅ……」


 完全に雰囲気に呑まれ、喜ぶ女子達。

 未だ腑に落ちないテルミ。


 そして出題者の忍者は、


「それでは皆さん、楽しいクイズの時間もそろそろお開きとなってしまいました。では!」


 パチンと柏手かしわでを打つ。

 すると突然、


「……あー、あれー……?」

「ふにゅあ……」


 その場にいる皆の意識が遠くなった。


「何を……こ、これは……?」


 ついクイズに乗せられ油断してしまった。

 警戒しているつもりだったが、結局は忍者の術中にハマっていたのだ。

 テルミは後悔しながらも、唇を噛みしめ、眠気に抵抗する。

 だが忍者はそれを鼻で笑い、


「無理無理、素直に眠りたまえよ。一族秘伝の眠り薬を、わたくしNINJAの霧に乗せて体内に送り込んだのです。リラックスしてお休みなさい、百合ちゃんの生徒くん」


 と言って、次は指を鳴らす。

 その瞬間、テルミは完全に昏倒してしまった。

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