第14話  囚われの少女

ミーナの危機を知ったリーディスたちは、急ぎ男たちの足取りを追いかけた。

本来であれば即追跡されたのだが、今回は事態の把握に若干手間取ってしまった。

この時間のズレがどこまで影響を与えてしまうのだろうか。

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____



「連中はどこだ!」


「あの山の方よ、間違いないわ!」


「急ぎましょう、嫌な予感が収まりません」



街道から外れて小道を行くと、登山道に辿り着く。

幸いイベント中は魔物とはエンカウントせずに済むが、快適な進行とは言いがたい。

道と言っても人通りなどなく、手入れもされていないからだ。

放置された落石や張り出した枝が、逐一歩みを妨げる。

ちなみに元のシナリオでは中腹付近で誘拐犯に追い付けるのだが、今回は後ろ姿すらも見つけられていない。

やがて、本来遭遇するイベント地点を通過したのだが、手がかりひとつ見当たらないのだった。



「クソッ。どこに行きやがった!」


「ともかく捜しましょう!」



所定場所に居ないとなると、手当たり次第に探すしかない。

見通しの悪い山中を必死に捜索する。

が、一向に手がかりすら見つからなかった。

焦りを胸にしまいつつ進んでいくと、分かれ道にぶつかった。



「勇者さん、どうしますか?」


「マリウス、迷ってる暇はねぇ。オレたちも二手に別れて捜索するんだ」


「わかりました。私は右へ行きます」


「じゃあオレは左だ!」



こうして左手にリーディス、リリア、メリィが行く。

右手はマリウス一人で挑む。

4割る2は1という異次元算数だった。

そんな仕打ちを受けても彼は慣れたもので、特に驚いた様子はない。



「まぁ、予想通りですよ……」



ただ寂しげな言葉が山野に投げ掛けられるだけだった。

一人山野を行く。

視界の端に飛び立つ鳥を眺めては、ふと羨みを覚える。


自分は何のために存在しているのか。

誰かに必要とされているのか。

何もかも投げ出して、どこかへ消え入る事はできないか。


思いがけず一人になり、魔物に襲われる不安から解放された彼は、ふと去来した言葉に惑わされた。


くたびれた足が止まる。

だが、すぐに思い起こす。

仲間を救うためにも今は急がなくてはならない。

僕はいったい何を考えているんだ。

頭を振って気持ちを切り替えようとしたところ、ふと目に留まった。

意識しなければ見落としそうなほど、木々の隙間に僅か垣間見えたのだ。



「あんなところに、屋敷なんてあったのか……」



廃屋とも領主小屋とも違う。

それなりに整備された館が木々の間から見えた。

調査するにしても、出来ればリーディスたちを呼び戻したいが、今はどうにも時間が惜しい。

意を決し、斜面をかけ降りて館へと向かった。



「この胸騒ぎは何だろうか。ともかく無事でいてください!」



道なき道を進み、急斜面を登り降りすること数度。

マリウスは館の入り口にたどり着いた。

ドア越しに聞き耳をたてると、か細い呻き声が聞こえてくる。



「いやだ……たすけて……」



その声を聞いた瞬間、彼の義憤に火がついた。

すぐにドアを蹴破り、大声で呼び掛けた。



「ミーナさん、マリウスです! ご無事ですか!?」



うす暗い室内は見通しが悪かった。

目が慣れるまでは中を確認するのは難しい。

そうやって目を凝らしていると、ギシリ、ギシリと床が軋む音が聞こえ、徐々に近づいてくる。


そして、その人物の姿は足元から明らかになる。

白く細い足首、乱れた衣服、そして生気を失った顔となったミーナ。

彼女は近くまで歩み寄ると、力なく倒れた。

慌ててマリウスが抱き抱える。



「ミーナさん大丈夫ですか! お怪我はありませんか!」


「マリウス……さま」



労りの声をかけつつ辺りの様子を確認する。

敵はどこか、何人居るのか、武装はしているのか。

必死に室内へ目をやると、次第に状況が明らかになってきた。


10人近くはいるだろうか。

男たちが床に倒れて呻き声をあげていた。



「いてぇ、いてぇよぉ」


「いやだ。たすけてくれ。誰か治してくれよ」


「うでが! オレの腕が……!」



いったいここで何が起きたのか。

マリウスが到着するまでの出来事は、ミーナの言葉によって知ることとなる。

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