そして君に惹かれてく・・・?

休日のある日、俺たちの住む街では長時間。雨が降り続いていた。


「それにしても雨強いね・・・」


そんな凛の呟きを聞きながら、俺は電話を切った。


「今日は塾休みだし、たまには好きな物作ってやるよ」


「本当?あ、でもこんな雨じゃお買い物行けないね・・・」


「雨降るって分かってたから、ある程度は食料買い溜めしといたから多分大丈夫だ」


そんな話をしながら、俺たちは自分のことをしていた。


俺は大学の勉強を、凛はどうやら雑誌のコラムを書いているようだ。


「あ、そういえ・・・


凛が何かを言い出そうとしたそのタイミングで、辺りが光に包まれた。


ゴロゴロ・・・


「だいぶ近くにカミナリ落ちたな・・・」


「ふぇ・・・」


すると俺のすぐ近くで、凛が小さくなっていた。


「凛、お前もしかして・・・」


俺と凛の目線が交わった。


「・・・そういうのいいから」


「残念、こういう路線ならいけると思ったんだけど」


俺が指摘すると、凛はさっさと演技をやめた。


「路線も何も、苦手なものとか少なそうだしな」


「私だって苦手なものくらいあるわよ。例えばシイタケとか・・・」


その瞬間、再び辺りは光に包まれ、今度は音とともに暗闇に包まれた。


「真っ暗とか・・・」


そう言った凛は、先ほどとは比べ物にならないほどガタガタと震えていた。


「大丈夫か?」


「ごめん、結構怖いかも」


俺はズボンの裾を掴まれ、仕方なくその場に座った。


「今日は離せとか言わないの?」


「どうせすぐ直るだろうからな。それまでだったら」


「やっぱり優しいね」


彼女の笑顔は薄暗くよく見えなかったが、何だか気恥ずかしくなり顔を逸らした。


「何だか君といると安心するね」


凛は俺の肩に頭を置きながら言った。


「小さい頃とかお母さん仕事ばっかりしてたからいつも家だと1人だったから雨って苦手だったっけ・・・」


そう言った凛の目は、少しだけ寂しそうな目だった。


「・・・はいっ!私の話終わり。次は君の話聞かせてよ」


「俺の話か・・・」


あまり実家に住んでいた時のことは思い出したくはなかったが、この状況で言い出せるわけもなく俺は諦めて話した。


「俺は別に雨だろうがピアノしてたし、やめてからも勉強してたからな・・・」


いつも運動していない俺を、妹がよく心配していた。


「あ、でも双葉が怖いからって布団潜り込んできたかな」


「妹さんいるんだ」


「今は高校二年生だったかな。俺とは違って社交的でいい奴だよ」


「へぇ・・・私が布団に潜り込んでも反応が薄いのはそのせいなんだ・・・」


「ん?何か言ったか?」


「何でもないよ。私の中での妹ルート崩壊のパターンを導き出しただけ」


「何を考えているんだお前は・・・」


妹と凛とが巡り会った問を想像すると、頭が痛くなってきた。


ゴロゴロ・・・


「おっと・・・だいぶ近いな」


「・・・・・・」


凛は無言で俺を抱きしめてくる。


すると凛が、小さく一言呟いた。


「私ね、もう一つ怖いものがあったの」


抱きしめる力が強くなった。


「誰にも必要にされなくなること」


そう言った凛の顔は見えなかったが、声はかなり弱々しいものだった。


「・・・そんなことは起こらないから安心しろ」


「え?」


「確かにピアニストとしてのお前はいつ消えるかも分からない。けど少なくとも俺はお前という人間の凄さを知ってるからな」


どれだけ疲れが溜まっていようが、ほぼ毎日ピアノの練習に励み、決してどんな事にも手を抜かず、いつも誰かを変えている、そんな凛を俺は心から尊敬している。


「だからお前はそんなこと考えずに、真っ暗にビビりながら、夕ご飯にシイタケが出ないことでも願ってればいいんだよ」


「えっと・・・ありがと」


凛は顔を赤く染めながら、俺に感謝してきた。


「なんかこっちが恥ずかしくなってくるからやめろ・・・」


そんな雰囲気の中、家の中に電話の音が鳴り響いた。


「私かな。多分如月さんだと思うけど・・・」


凛はしっかりと俺の手を握りながら辺りを手探りで探した。


「あった・・・きゃぁ!」


ケータイを掴もうとした凛の手が、綺麗に外れた。


「ごめん、なんか物理法則壊しちゃた」


俺を押し倒すような形になってしまった。


謝りながらもこちらを見つめてくる凛に、俺は何だか不思議な感覚に陥った。


「君って意外とまつげ長いよね」


何だかこの雰囲気に耐えられなくなり顔を逸らしたが、そんなことに構わず凛は顔を近づけてきた。


「ねぇ、こっち見て?」


「・・・どうして」


「その顔をもっとしっかり見たいから」


少しづつ顔は近づいていき、息がかかるまでになっていた。


「・・・・・・」


そんなどうしようもない雰囲気の中で、電気が復旧した。


「あ、電気戻ったね」


「そうだな・・・」


彼女は彼を解放した。


「さ、夕ご飯作ろ?」


「あ、ああ・・・」


俺は凛に引かれるようにキッチンへと移動した。


何なんだろうな、あの時の感覚・・・


少しだけ顔が熱くなっていた。恐らく蒸し暑いせいだろう。

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