素晴らしきかな高校生活!~やりたいようにやってしまえ……~

愛妹魅唯

第1話プロローグ

プロローグ


 教室の窓から木々の紅葉による季節の替わりを見てとれる今日この頃、二年三組では二人の男女が濡れた身体をタオルで拭きながらお互い背中合わせで気まずい空気の中にいた。

そして、不意に康太郎が立ち上がりそして言った。

「…寒いな……」

「うん」

「…なぁ?」

「ん……」

「シないか?」

その一言を聞いた霞は耳までかぁ~っと赤く茹で上がり湯気のようなものが頭から……それを振り払うようにブンブンと頭を振った後、コクっと小さなかぶりをうつ。

「ぬ、脱がせるよ?」

「い、いいよ」

康太郎は霞の制服のボタンに手をかけ、ぽちっぽちっと外していく。

するすると学校指定のリボンを取るとその艶めかしい首筋に興奮していた。

首から順に見下ろしていくとその貧相な体つきが分かる二つの柔らかいそれが目に映る。

下着を着けてはいるのだが、雨のせいだろうか……ぴちっと張り付いたそれは本来の恥部を隠すという機能を果たしていない。

「すごく…きれいだ…」

そう言うと康太郎は霞の言葉を待たずに、霞の胸に喰らいつく。

可愛い女の子の声を外を走っている部活動生に聞こえてしまうのではないかと思えるほどの大きさ、激しさで連呼する霞を見て康太郎は何かに目覚めそうになる感覚を紛らわすように弄る手をより一層激しくした。




…………。

「どう?」

「どう?っじゃねぇよ」

ここは先ほどまで話していた猥談紛いの小説の舞台の教室とは打って変わり、熊本県熊本市翔海(しょうかい)高等学校のとある使われていない教室。

先ほどの話のようにこの部屋には俺九条蓮太とこいつ宮崎いろはの男女二人だけだが、あんな展開にはならないから安心してほしい。

「なぁ、俺宮崎先生の新作発表会って聞いてきたんだけど?」

「言ったわよ、さっきのがそれよ」

俺の「まさかさっきのが新作とか言わないよな?」をちょっとばかし遠まわしに言ったセリフに宮崎は何知らぬ顔で平然と答える。

「いや、あれなんてエロゲ?って思うくらいに酷かったわ」

「なんですって!ちょっとエロゲの要素を持ち込んだだけじゃない!」

「全然ちょっとだけじゃないんですがね」

宮崎いろは……彼女は超が付く程売れっ子のライトノベル作家である。

シリーズ累計一千万部を突破した超大人気作『季節少女シリーズ』は春、夏、秋、冬を舞台に季節ごとにかわるヒロインと主人公の恋愛を描いている。

このシリーズが売れた大きな理由は何と言っても、季節の終わり……その際に訪れるヒロインとの別れのシーンに取る主人公の行動、ヒロインの心からの叫びに読者が読むたびに泣かされていたからだろう…………かく言う俺もその一人だったりする。

そして、そんな感動作を手がけた作者が「最近遊んだエロゲが楽しくて、なんとなく書いてみましたーw」とかなんとか言ってこんなものを書き上げたのだ。

「もしかしてどこか変だった?」

「どこがって言われると難しいけど、あえて言うならいつもとジャンル違うくね?」

「確かにね……マンネリ化を避けたいがためにこんなことになってしまったことは反省しているわ」

「いやもう『エロゲにハマって書いちゃった』って言ってる時点でそんなこと言われても誰も信じないだろ」

「うっさいわね!私が頼んだことだから黙っていたけど、本当何言ってくれちゃってンの!普通の女の子なら涙ぐむわよ」

あっ、普通じゃない自覚あったのか。

「だいたい、適当な事ばっかり言って私の事ちゃんと見てくれるって言ってたのに!」

「お前の小説をみるって言ったんだよ!」

「やっぱりあんたは私の処女(処女作)が目当てだったのね」

「お前もう黙ってろ!いいからもう喋るな!」

なんでこいつは誤解を招くようなことばかり言うのだろうと俺が頭を抱えていると、宮崎はクスッと笑うと俺に顔を近づけてきた。

「あんたをからかうのやっぱり楽しいわね!」

「はぁ……お前なぁ…」

「そうだ、私が今日あんたを呼んだのってまだ他にも理由があるのよね」

「は?他にも……?」

そう言うと宮崎はスマホを取り出しどこかへ電話をかけた。

「もしもし、うんうん……えぇ、頼めるかしら?そう、明日までに頼むわね」

「あのぅ?宮崎さん??」

「ちょっとまってね……なに?」

「あ、いや…どこにかけてんのかなぁって」

「すぐわかるわよ…お待たせ、それでね?」

いや、何も知らない身としては不安で仕方ないんだけど?

これどこかに売り飛ばされたりしないよね??

とかなんとか考えているうちに宮崎は通話を切り、こちらを向いていた。

「もうすぐ来るって」

「いや、誰が?」

「すぐにわかるわよ」

だから、知らない身としては不安で仕方ないんだって!

「なぁ、とりあえず男か女かだけ教えてくれないか?」

「……女子だけど」

「まじかっ」

すると俺の反応を見た宮崎はむっとした表情で、俺の襟を両手でつかむと、ブンブンと揺らしてきた。

「蓮太ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!どうせあれでしょ!また女の子って聞いて期待に胸を躍らせてるんでしょ!このすけこましぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「ち、違うから!俺あんま知らない人と話せないからきいただけだからぁぁぁ!」

「うーるっさーい!蓮太の……ばか」

「なんだよそれ……っ!痛い痛い!叩くな!」

そんなやり取りを二人でしていると、教室の扉がガラっと開き、俺と宮崎は入ってきたその人物に目を向けた。

「まったく、一体何の騒ぎなの?廊下にまで響いて……」

「助けてっ!先輩助けてっ!」

「な、なんであんたがここに!?」

「受験生が遅くまで残って面接の練習をするのがおかしいのかしら?」

「そんなことを言ってるんじゃないの!なんであんたが……この普段は立ち入ることを許されていない電気情報科三年一組に来ているのかって聞いてるの!先生言いつけちゃうわよ?」

「それはあなたにも言えることじゃない、あなたは何?他人を貶めるために労力は惜しまずとも、自身も道連れの諸刃の剣を一作目で披露したドラコ何某(なにがし)かしら?」

「なっ!わたしのどこがドラコ・マルフォイよ!」

「やめてっ何某の意味を一瞬で消さないで、てかお前作家だろ?そういうやつの意味一番解ってなきゃいけないじゃん」

すると、教室の扉は再びガラッ……ガラガラと立てつけの悪い音をたてて開かれ、誰かが入ってきた。

「み~やせ~んぱいっ!呼ばれて飛び出る有能後輩、津島桃花!華麗に参上ですっ!」

だがその声は俺たちには届かなかった。

「リアルで何某とか言う根暗ヲタクに私はなりたくないわよ!」

「リアルじゃないから……あ、いや…でもこちらにとってはリアルでもあちらからは違うと言うか……」

「物凄くメタイ話ね……」

何か心当たりがあるように話すこの先輩の名前は小岩井轡。

この人もなかなかの功績をもっており、一人でサークルを立ち上げ、世界的に有名なゲーム会社『クロニクル・ソフトウェア』に協力してもらい、常に高スペックなゲームを生み出し続けている。

代表作として挙げるとするならば、MMORPGの進化版『拡散型MMORPG』だろう。

拡散型MMORPGとは通常のオンラインのネットワークを必要とするゲームの場合、一つのゲームに対してフィールドは元より制作者の手によって決められており、そのうえで必要に応じてアップデートやメンテナンスと呼ばれるものを行うことにより、ユーザーに飽きを感じさせさせない工夫があるものだが、絶対誰もがぶつかるであろう壁である「あぁ、ここでこれができたらな」という要望がユーザーを飽きさせる原因となってしまっている。

そんなところに目をつけた小岩井先輩は、先ほど紹介した『クロニクル・ソフトウェア』と共にユーザーがフィールド、ルールを作成し、世界に拡散することでアップデートや、メンテナンスを必要としないユーザーが作成側に参加、拡散するRPGが通称『拡散型MMORPG』の全貌である。

「とにかく、何某は置いといて、なんで俺が呼ばれたのか聞かせてもらえるか?」

「私も気になります!」

「まだ桃花が来てないけど……後で話せばいいかしらね?」

「私ここにいるですよ?」

「一応話すことプリントアウトしてきたから目を通しておいて」

「あぁ」

「私の分はないです?」

俺がプリントに目を通すとそこには『フェアリー・ウォーズ』と書かれてありその隣にはcv九条蓮太と書かれてあ……り?

「え、なにこれ?」

「見てわからないの?アニメのタイトルとキャラクター名と声優さんのお名前よ?」

「それは知ってる、何がしたいのかってことだよ」

「私も教えてほしいです」

その一言に俺、宮崎、小岩井先輩の三人は揃って、

「「「おまえいたの?」」」

「すみません、帰っていいですか?」

目尻に涙を浮かべた自称出来る後輩津島桃花は、かばんに手をかけ教室の扉へと歩き始めた。

「ごめんごめん、全然気付かなかったわ」

「ちゃんと来ましたって言ったのに」

「そんなことより」

「ん?」

「早く説明してくれよ」

「ふふふーん!では説明しましょう!私のしたい事とはっ!」

そこまで言うと宮崎は教室右前方にあるスクリーンを下げて、教室の電気を消し、机に設置してあるプロジェクターを起動させた。

「じゃじゃーん!」

「……?」

「えっと、じゃじゃーん」

「……?」

「さっきから絵面とセリフが全然変わってない!文字だけじゃ伝わりづらいけど!」

ましてやセリフすらも言っていないのである。

「ほんとどういうことだ?これだと俺達が声優やってアニメ作るみたいにしか解釈出来ないけど?」

「ばっちり伝わってたみたいで安心しましたっ!」

今日のこいつなんかテンション高いなぁ……。

っとそれよりもだ。

「えっ、俺が声優するの?」

「そうよ!私が脚本、蓮太と桃花が声優でOAを作るの!」

「いやさ、OAを作るにしたって人数足りなくない?」

そう俺が言い放つと宮崎はメッチャ嫌な顔を……うわっ、すごいブサイク。

すると俺達の視線に気づいたのか、ゴホンと一つ咳払いをしてこちらへ向き直った。

「これからスカウトするのよ!アタックアタックのガンガン行こうぜ!で!」

「いや、そんな勧誘の仕方だと誰も来んだろ」

「うるさいわねっ!例えよ!た、と、え!」

「あなたのほうがうるさいわよ、そんなに覚えたての言葉を使いたいのならよそで使いなさいロトの勇者さん」

「なによ!私は天空の勇者よ!」

「いや、大事なのそこじゃないから!話脱線しちゃってるから」

前言撤回、この物語は特にツッコミは誰、ボケは誰というのは決められていないようです。

「天空もいいけど、やっぱりロトじゃない?」

もうその話題終わってよくない?だめなの?

「とにかく、私達は頑張ってメンバーを集めなくちゃいけないのよ」

「集める集めないとかって問題はもっと前からどうにかしておいてほしかった……」

「そうね、流石に一年前じゃ遅いわよね……」

一年かけて準備してこれだったのかよ。

なんというかまぁ、宮崎の要領の悪さが窺えるな………。

はてさて、俺達のOA作りがどこまでいけるのか、どういった形で終わりを迎えるのか………それはまだ誰も知らないのである。

「あ、そうそう!私この間オレオレ詐欺に引っかかっちゃってお金今ないから皆バイトよろしくね!」

うん、結末が見えてきた。

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