想いの交差
カゲトモ
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「あれ? 何か聞こえませんか?」
「え?」
突然、洗い物をしていた斉藤君が不思議そうな顔をして訊いた。
「別に何も聞こえなかったけど」
「空耳ですかね?」
洗い物をしているからか、それともお客様同士の話し声が聞こえただけか。
グラスを拭いていた手を止めて耳を澄ましてみた。ジャズの曲とお客様のヒソヒソ声、グラスをテーブルに置く音、氷の回る音・・・あれ?
「ちょっと外見て来るよ」
「え、僕行きましょうか?」
「大丈夫大丈夫」
なんか外で人の声が聞こえる気がするから。一応確認だけでも。
ゴールデンウィークとか長い休みには特に羽目を外し過ぎてしまう奴が出てくるから。
それにお客様が嫌な思いをされるのが一番困る。騒いでいるやつはその時だけでいいかもしれないけれど、ここはそういう訳には行かないから。あそこは危ないから近づいちゃダメってことになったらどうしてくれんの? 営業妨害だよ? 分かってんのか。
とりあえず喧嘩でも始めていたら早急に警察に電話だな。
なんて他人事のように思っていたのに、扉を開けたら咄嗟に飛び出していた。
「ちょっ、やめろッ!!」
「んだ、てめぇ。じじぃのくせしてカッコつけてんじゃねぇぞコラッ」
「相手女の子だろうが、お前ら何やって「この人のどこがお爺さんなのよっ!」
「るっせぇ! もとはと言えばてめぇが」
「何よ! そっちが悪いでしょ!」
「黙れやクソアマァ! ぶっ殺すぞッ!!」
「なっなに「っうるせぇぇッッッ!!! これ以上騒ぐなら警察呼ぶぞ。今すぐここから消えろ」
「はぁ? るっせぇのはそっちだろッ!!!」
胸倉を捕まれ引き寄せられる。短い金髪の、挑戦的な視線がすぐ近くまで迫った。
「ものわかりのわりぃガキだな。痛い目みねぇと分からねぇのか?」
「あ? 調子のんっ」
どっちが。
ドサッと情けなく背中に砂を付けたくそガキは一瞬目を丸くしたかと思うと、良く分からない捨て台詞を吐いてその場を去った。生憎、仕事柄護身術は身に着けているんだ。
そんなことより。
「わぁ、あなたそんなことも出来たのね、凄いじゃない! というか、さっきの人たち、なんて失礼な」
なんで。
「何してんだお前はッ!」
ビクン、と小さな肩が跳ねるのが見えた。その目は戸惑っているようだった。
「何って、あ、あの、人たちが、子供にぶつかって難癖をつけていたから・・・」
「つけていたから?」
だからこんなことしたっていうのか。
「だから、あの人たちに、謝りなさいって・・・」
「はぁぁぁぁ」
なんなんだ、溜め息しか出ない。
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