ビア・スプリッツァー

カゲトモ

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「暑くなるとビールが美味しいわね」

「と言っても蘭子さんはビール苦手でしょう?」

「あら嫌だ、そんなことないわよ。私、どんなお酒だって飲めるんだから」

 どんな意地の張り方なの。確かに酒豪の蘭子さんは何でも飲むけどさぁ。

「オーダーされたのはビアカクテルですけれどね?」

「辛いお酒は好きなのに、ビールの苦さは苦手なのよね」

 ビールはそれが売りなんですけどね。

「そう言うお客様、結構多いですよ。特に女性の方は」

「あ、やっぱりそう? ビール自体は嫌いじゃないんだけどね、味と言うより喉ごしが好きだから。最初の三口までが美味しいのよね」

 うーん、それは分かるな。それが一番美味いもの。

「だから大体ビールを飲みたいなって思ったらビアカクテルか、小さいグラスを頼んで残りはあげちゃうの」

「浩太郎さんにですか?」

「ぶっ」

 無意識だったのか、最近いい感じの片思いの相手の名前を口にすると、珍しく吹き出していた。

「ちょっと! お酒がもったいないじゃないっ!」

「・・・一番にそう言ってもらえて嬉しいくらいですよ・・・」

 どんだけ酒飲みなんだよ。

「まったく、マスターが急にそんなこと言うから・・・まぁ間違ってないんだけど」

 間違ってないんかーい!

「や、私がビール得意じゃないのを知っているし、大体頼んだら自分に回って来るもんだって分かっているんだろうし、それに私が口を付けたカップでも、その、普通に、飲んだりしてくれる、から・・・」

 ふしゅー、と飲酒で赤くなったわけではない頬を両手で挟んで、蘭子さんは目蓋を伏せた。

「それはそうは、ご馳走様でございました」

「ばっ、べつに惚気たわけじゃ」

 これが惚気じゃなかったら何だってんだ。だがしかし、この二人は今だ付き合ってはいない。

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