第1話 語られない主人公と露天風呂のSF談義
これは現代よりも少しばかり前のお話である。
平成の大合併によって市区町村が次々と統一化を果たす前のお話であり、おそろしい宗教団体の手によって地下鉄に毒物がばらまかれる前のお話であり、冷戦の象徴の壁が市民の手によってノミとハンマーでぶち破られる前のお話だ。
ならばかの有名な三億円事件よりも前のお話であるのか、と言われれば、そこまではさかのぼらない。
日本が好景気に浮かれていた時代。
八ヶ岳の麓に広がる草原ばかりの村に若者が集まりはじめ、とある集落を作りあげた。都心にもアクセスしやすく、開放的で世俗の喧噪からはなれることのできるこの地で、彼らはペンション経営を思いついたのである。
若者たちはこじゃれた家を建て、かわいいお庭と手作り感あふれる家具などで個性を演出し、いかしたペンション名を表札代わりに道路わきに立てた。
気がつけばあっちを向いてもこっちを向いても同業者、巨大な窓ガラスで中がすけすけな個性派ハウスが立ち並び、都会のお客さんいらっしゃいと、手招きするペンション村が完成した。
東京から車で二、三時間。標高が高く、一年を通して暑さを知らない自然豊かなこの村は、あっというまに人気リゾート地の名をほしいままにした。
さてこの観光地に、ある日あやしげな客人があらわれた。
活気に満ちあふれた村では、お金を惜しげもなく落としていく快活な客人たちが常に出入りしていた。彼らの世話をするため、地元の人間は毎日が目の回るほど忙しい。そんな中にあって、大きなボストンバッグを後生大事にかかえた陰気な顔の男があらわれても、あまり人の目には止まらない。
なんせ商売人は忙しいのだ。気楽に休暇を楽しみにきた家族連れの中に一人くらい場違いな人間がいたって、競馬場を駆け抜ける馬たちの背後で猫がのんきに昼寝をしているようなものである。異質には違いないが、いちいち気に留めてなどいられない。馬券を買った人間たちは、場内に侵入して寝こけている猫よりも、馬に向かって「刺せー!」と怒鳴りちらすので忙しいのである。
この陰気な男が陰気なのには理由がある。
彼が持っているボストンバッグは大きく、そして重かった。たとえるならば、3億円分の一万円札がまるまる入っているくらいの大きさと重さなのである。
しかし、さすがにボストンバッグひとつに3億円が入っているわけもなく。ボストンバッグには、2億4430万円分の一万円札がまるまる入っていたにすぎなかった。
ペンションを経営する家族の子どもたちは短い夏休みが終わり、村の小学校や中学校にふたたび通いはじめる。彼らは自宅の車やバスで送り迎えをしてもらいながら、一時的に家の手伝いから解放された。
とあるペンションのオーナー夫婦はまだ子宝にめぐまれていなかったが、ふたり手を取りあってお客をもてなし、なんとか経営を落ち着かせていた。あれこれとイベントを企画し、集客につなげるため、なにより自分たちが楽しむためにはどうすればよいかと、毎晩のように仲間と酒を飲み交わしては話に花を咲かせた。
そんなペンションに、その陰気な男はあらわれた。
小さな中古車に乗り、危なっかしい運転でペンションの専用駐車場に停めた男は、のっそりと出てきてトランクからボストンバッグを引っぱりだした。
歳は三十代前半だが、それよりもっと老けて見えるのは心労のせいかもしれない。小柄で背中を丸め、目はぎょろりとして落ち着かない。
夏であるのに長そでを着ているが、この避暑地ではそれはあまり気にならない。なにしろ標高が高く、涼しいのだ。車を十分走らせて町に降りると汗ばむほどだが、このあたりでは扇風機さえだれも持っていない。四十年後、二度目の東京オリンピックが近づく時代になっても、やはりクーラーひとつだれも設置しない地域なのだ。
男は2億4430万円分の現金が詰まったかばんをひきずるようにして玄関に運び、インターホンを押す。出てきたのはメガネをかけた、どこか頼りない風貌の若い男。
これがこの物語の主人公、梅山シンジである。が、今しばらくは主役ではなく、このあやしい男にフォーカスを当てたい。
ペンションのオーナーは男ににっこりと笑いかけた。
「はいはい、こんにちは! ご予約の方ですか?」
「ええ、ええと……」
「須崎さん、ですよね? お一人さまの」
男は遠慮がちにうなずいた。
オーナーはからりと笑ってボストンバッグを奪い取る。持ち主がひやりとするのにも気づかずに。
「どうぞどうぞ! 部屋に案内しますねー。予定より遅かったよね? 道に迷っちゃいました?」
「ええと、いえ、はい……」
「あはは、あとでわかりやすい地図を書くんで、ぜひ日帰り温泉に行ってきてくださいよ。露天が最高でね。今日は天気もいいし、星がめっちゃきれいですよー」
そのペンションに泊まっていた客は、ほかに二組。還暦をとっくにすぎたであろう老夫婦と、犬連れの家族である。
陽気なオーナーは陰気な男を部屋に案内し、廊下に並ぶ本棚の漫画や雑誌は好きに読んでいいと笑い、ダイニングルームでまきストーブに火を焚き付けている妻を紹介して、なんでも頼ってくれと胸をたたいた。
陰気な男は笑顔のまぶしすぎるオーナーに目をしばたたかせながら、どうもありがとう、今日はちょっと疲れたので少し部屋で休ませてもらいます、と述べた。
オーナーの奥さんはコーヒーかハーブティーを飲むかとたずねたが、彼はどちらも結構ですと答え、それきり夕食の時間まで部屋に引きこもった。
「大丈夫かしらね、あの人」
オーナーの奥さんは夫に向かって首をかしげた。
「なんだか顔色が悪くなかった?」
オーナーはしばし考え、無理もないかもしれない、と困った顔で言った。
「おもての車、見た? おんぼろ中古車だよ。ここに来るまでに慣れない山道を蛇行して、車酔いしちゃったんだと思うよ」
奥さんはまゆをひそめた。
自分の運転で、車酔いなんてするかしら?
陰気な男の名前は須崎ではなかった。
ずっと押し入れに眠らせていた2億4430万円の入ったカバンを持って、しゃあしゃあと本名を名乗る根性など、彼は持ち合わせていない。
男は東京生まれ東京育ち、悪そうなやつはだいたい彼をいじめていたという、根っからのいじめられっ子として学生時代を過ごした。
いじめていた不良たちはたびたび彼を「デンパ」と呼んでいたので、彼の名はここではデンパとしよう。もっとも、彼がそう呼ばれたきっかけは精神状態が不安定なせいではなく、マニアックな科学雑誌「電波科学」の熱心な読者だったからだ。
デンパは物心ついたころからメカニックや配電図、実験や観察といったものが大好きで、わりと裕福だった両親は、息子の知的欲求にあわせて欲しがるままに与え続けた。ときどき、与えたお金が不良たちのポケットに入っているとは知らずに。
彼は十二歳で時計やラジオをばらして組みなおすことができ、爆発物や発煙筒などの仕組みにも興味を持った。理科の授業はだれよりも意欲を示し、専門教科の先生たちから絶大な信用を勝ち取った。
一般に、理系に傾いた者は文系に弱いとされるが、デンパの場合はあてはまらなかった。彼はSF作品を好んだのだ。小説や映画に精通し、たびたび深く考え込み、自分でも短編をいくつか書いて、雑誌に投稿したこともある。
理系少年デンパは物語にどっぷり浸かるうち、あることに気づく。
物語は読者の共感を得られるよう、計算されて描かれている、と。
ある条件では感情を揺さぶって涙を流し、ある条件では怒りを感じ、ある条件では腹を抱えて笑い転げる。読者は作家によって、そう誘導されている。
人間の心理には科学の分野と同じように、一定の法則性があるようだ。この法則を理解している者は多かろう。小説家や映画監督だけではない。もっと身近な、他人をだます詐欺師などはそれを使いこなしているにちがいない。
ならば、自分にもできるはずだ。
デンパは詐欺師や犯罪者が、人の心理をうまく利用して完全犯罪を成し遂げる小説を書きはじめた。爆発物や車を使い、偽の事前情報や集団心理、恐怖心などを効果的に使って、時計のように正確な計画を練り上げる。計画を練ってはじめて、デンパは物語を書くよろこびにうつることができる。
フィクションであるのに、なぜか実際に犯罪計画を立てているような気がして、悪いことをしているような心持ちになったことも幾度かあった。そういう理由で、デンパは小説を書いていることを家族にも友人にもだまっていた。
ただ、上手くできたら雑誌に投稿してみよう、と自分の中で目標を立て、犯罪計画の穴がないかをチェックするために、創作ノートをいつもカバンにしのばせていた。
そのノートをいじめっ子の不良に発見されたのが、三億円事件のことの発端である。
「須崎さーん? ごはん、できましたよー」
ペンションのオーナーが呼びにいくと、しばらく反応がない。寝ているかもしれないと、きびすを返してダイニングに戻ろうとした矢先に、背後でドアが開いた。
「あ、須崎さん。寝てました? 夕食、できたけど」
「……ほかのお客さんたちも、一緒ですか」
「ああ、うちはそうだね。みんなでテーブルを囲むんです」
輝く笑顔がデンパにはまぶしい。現代では「リア充」とでも呼ばれる部類の笑顔だ。このオーナー、見た目はデンパと同じくオタクっぽさがあるものの、こんな田舎で半分自給自足めいた生活を送っているのだから、自分とは真逆の人生を歩んできたにちがいない、とデンパは思った。
「あのう、さっき言っていた日帰り温泉って、どこにありますか」
「ああ、こっから車を飛ばして十五分。近いでしょ」
車を飛ばして十五分が、「近い」。
田舎者の「そこ一里」とはこういう感覚なのであろうな、とデンパは思った。
「あ、でも、もしも行くならはやくしたほうがいいよ。九時に終わっちゃうから」
「そうなんですか?」
「そうそう、あ、よかったら一緒に行きましょうよ。急いでメシ食って、おれの車で行けばはやいし。このへん、外灯もないから真っ暗で、夜道はあぶないから」
お客にときどきため口になるのも、田舎特有なのだろうか。
デンパは素直に従うことにした。他人の言うことをだまってきくのには慣れているし、なにより今日はくたびれ果てていて、自分で運転する気になれなかったのだ。
ダイニングルームには、山登りを楽しみにきた老夫婦と、犬と一緒に泊まれるペンションに家族そろって休暇にきた一家、オーナー夫婦、そしてデンパがあつまった。
夏といえど、夜は冷え込む。ダイニングのまきストーブがぼうぼうと火を燃やし、部屋を暖めていた。窓を開けて寝ないでくださいね、とオーナーの奥さんがごはんをよそいながらお客たちに声をかける。朝方は本当に冷え込みますから。
「じゃ、行きますか」
食事が終わると、オーナーがデンパにうなずきかけた。
「タオルとか着替えとか、用意してきてください。銭湯に行くみたいなかんじでね。温泉って言っても、なんもないから」
デンパが持ち物をまとめて一階に下りると、オーナー夫婦は食事の片付けをあらかた終えていた。ぱっと顔をあげて、「あ、おれも用意しますね」と言ってプライベートルームに引っ込んだかと思うと、二秒で出てくる。片手にタオル、もう片手には季節感のないジャンパー。
「じゃ、あとたのむね」
「いってらっしゃーい」
笑顔の少ない奥さんは自分用にコーヒーをいれており、デンパにも手をふった。外へ出て車に乗り込む際、デンパがたずねる。
「奥さんは、行かなくていいんですか?」
「ああ、生理だからやめとくって」
デンパは顔を真っ赤にして「そうですか」と口ごもる。オーナーは気にするそぶりも見せず、にこにこしながらエンジンをかけた。
やはりリア充。自分とはまったく相容れない人種なのだ、とデンパは思った。
「外灯がない」とオーナーが言ったのは真実で、ペンション村の外側には闇が広がっていた。しかし、空を見上げてデンパは思わず声を上げた。
降り注ぐほどの、星。
「きれいでしょ」
オーナーはにこにこした。
「はい。東京でも星がきれいな日はあるけど……レベルがちがいます。全然ちがう」
「須崎さんは東京の人なんだ?」
「はい、府中です」
言ってすぐ、しまった、と思った。
満天の星空に感動して、つい実家の所在をばらしてしまった。
しかもそれは、三億円事件の発生現場でもある。
しかしオーナーは「あ、そうなんだ」とうれしげに笑った。
「おれ、立川ですよ。近いね」
そこからは東京あるあるで盛り上がり、温泉にたどり着いたころにはすっかりデンパも打ち解けていた。オーナーはかなり明るい性格ではあるが、いくつかの漫画雑誌を好み、SF映画もわかることが判明した。
それでもやはり、デンパはこのポジティブな男に無意識ながら一線を引いた。やはりとっつきやすすぎる性格には異質さしか感じない。
田舎あるあるの制限速度二十キロ超えで車を飛ばし、ついた時刻は八時半。お客はまばらで、脱衣所には素っ裸の子どもがかけまわっていた。デンパとオーナーはそれぞれ数百円のお金を払い、湯につかる。
「こんばんはー」
オーナーは何人かの顔なじみに声をかけ、内湯につかった。デンパはだまって体を流し、露天に向かう。
おそろしいほどの星空の下、口を半開きにして湯につかっていると、ここが日本とはとても思えなくなってくる。まるで地球の反対側か、どこか異国の桃源郷か。
「いいよねえ、このへんは」
湯につかっていると、ひとりのおじさんがお湯で顔を洗いながらしみじみと言った。おそらく、デンパに話しかけている。どこか怒りを秘めたような、淡々としたしゃべり方のおじさんだ。
「ええ、ほんとに」
「君、東京の人?」
「はい。今日来たばかりで」
「このへんはいいよねえ。雨もあんまし降らないし。毎日星空だ」
はてとデンパは首をかしげた。
どこかで見たような顔だが、知り合いだったろうか……?
「僕はこの近くに別荘を買ったんだ」
「そうですか」
おじさんは四十代前半だろうか。黒ぶちのメガネをかけているが、すっかり湯煙でくもってしまい、目が見えない。そのせいで、デンパはこの人物の顔が思い出せそうで思い出せなかった。
「いいよね、ほんとに。東京なんかいたくないよ。あんなとこに住んでたって気が狂うよね。そう思いませんか?」
「ええと、はあ……」
「人間はそもそもああいう環境に適応していないんだと思うよ。なんかあれば金だ、金だってさ。おかしいでしょ。いつか大変なことになるよね。滅ぶよ、文明は。昔の人間だってなんもわかっちゃいなかったんだ。真面目な人たちがね、一生懸命働いて、結果できちゃったのが環境破壊なんだよ。もうどうしようもないよね」
おじさんはため息をつき、「でも、ここはいいよねえ」ともう一度言った。
「なんかさ、心が洗われるよね。リフレッシュできる。あーあ、帰ったらまた仕事だよ。でも、好きではじめちゃったんだから、やらないといけないんだよね」
デンパは知らずこのおじさんに親近感を抱いていた。
どう見てもめんどうくさく、説教くさいこの人は、おそらく自分と同じであまり友達がいないにちがいない。理想主義者で、偏屈で、なにかに没頭したらほかのなにも目に入らなくなる、オタクなのだ。
「こんな星空を見ていたら」
デンパはかまをかけてみることにした。
「宇宙の果てはどうなってんだろうって、思いませんか?」
「宇宙の果てで大戦争でもやってるかもね。おれは興味ないけど。それより未来の地球がどうなってるかだよ、おれの興味はね。今、そういう映画を作ってる」
デンパは思わず腰を浮かした。
「映画を? 監督さんですか?」
「本当はやりたくないんだよ。全然やりたくない。おれは現場のほうが向いてるから」
デンパは感激した。見覚えがあるのは、映画雑誌かなにかかもしれない。
しかし、ああ、思い出せないのがもどかしい。
「どんな映画ですか? ええと、未来の地球?」
「そう。きっとどうしようもなくなってるよね。それは間違いないよ。どんなに優れたリーダーがあらわれたってさ、市民が愚かなら意味がないんだ。古代ギリシャ人がそう言ってんだからさ。いつの時代も、人間は変わらないよね。それでも、生きなきゃいけないんだよ、人間はね」
「ぼく、SFが大好きなんです」
デンパは声をおさえて言った。それから、好きなSF小説、SF映画、SF漫画について熱く語りはじめ、おじさんのほうでもかなりの知識量で返してくるので、ふたりはすっかり意気投合した。
偏屈でイラついた声のおじさんは、いつのまにか頬がゆるんでいた。
「未来世界って、どうなってると思う、きみは?」
「ぼくが思うに……予測できないくらいよくわからない世界こそ、未来なんじゃないでしょうか」
「へえ。つまり?」
デンパは物事を深く考え抜く男だ。だからこそ、今までに考えた未来予測に関しては、ひと言どうしても言いたい。まさかそれを、露天で叶えられるとは思ってもみなかったが。
「まだ車のなかった時代に、アメリカで描かれた未来の予想図があるんです。ロボットの馬が馬車をひいている絵ですよ。当時の人間は馬車をひくには馬の存在をさっぴくという発想すらなかったってことです。それくらい、未来予測はむずかしい。どうしても現在の常識に引っぱられちゃうんです」
「うん、それはそうだ」
「なのにSF映画の未来世界は、いつも見た瞬間、すぐに『そうなった過程』がわかるようにできてるんですよ。つまり、発想が貧困なんです。そのへんの素人でも思いつきそうな未来世界ばかり描いているからそうなるんだ。本当の未来というのは、なんでそうなったか全然わからないし、なにが常識なのかも、どんな歴史をたどったのかも全然わからないくらいがちょうどいい。そう思いませんか?」
おじさんは手を差し出した。
そしてふたりはかたい握手を結んだ。
「まったくきみの言うとおりだ。ぼくは今日、この温泉に来て大正解だった」
「ぼくもです。とても楽しかった」
ところであなたのお名前は、と訊く前に、「須崎さーん」とオーナーが内湯から顔を出した。
「あ、やっぱり露天にいた。気持ちいいでしょー」
「あ、はい」
オーナーが露天に入るのと入れ替えにおじさんが立ち上がり、「じゃ、僕はこれで」とふたりにうなずきかけた。オーナーはにっこり笑った。
「おやすみなさーい」
おじさんはたった今デンパと語り合ったことをひとつ残らずこぼさぬかのように、ずしずしと脱衣所に歩み去った。デンパは満足だった。彼の映画をぜひ観たいものだ、と考えたところで、名前を聞き忘れたことを悔やむ。
「どう、須崎さん? 車酔いは回復した?」
車酔いをした覚えはなかったが、デンパはこくりとうなずいた。自分よりも強そうな人間には、いつでもだまって従う。それがいじめられっ子として培った処世術だ。
「ええ、すっかりいいです。ここに来てよかった」
ここに来てよかった、と思ったのは本当だった。こんな自然いっぱいの田舎で、まさかSFの熱い議論を戦わせることができるとは思ってもいなかったのだから。
そしてデンパは知らないが、さきほどのおじさんがのちに作る映画によって、この物語も大きく動いていくことになるのだ。
ちなみにその映画のタイトルは『風の谷のナウシカ』という。
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