第31話 川永の三割
「さ、そんじゃもう行こうぜ。ごめんな。天野くん。勉強の邪魔してよ」
金山さんが石田さんに促しながら僕に謝罪する。
「いえ、そんなことは……」
「石田の奴がなんか小難しいこと言ってたけど、俺らがやることはなんも変わらねえぜ。ただ、一生懸命勉強するだけだ」
そうですね、と僕は相槌を打つ。
「川永の三割に入るのは嫌だからな。お互い頑張ろうぜ」
「川永の三割?」
なんだ、それは? 聞いたことの無いワードだ。
「え? 知らないの、天野くん」
「はい、なんですかそれ?」
「ウチの学園の留年率だよ。ちなみに退学率は1割だ」
「ええ!? そんなに高いんですか!?」
ちっとも知らなかったぞ。そんな話。もしかして僕って結構まずい位置にいるのか?
「天野くん、君はもっとリサーチをした方がいいね……」
石田さんがまたまた、メガネを直しながら話してくる。
「石田、お前さあ、リサーチって言いたいだけじゃねえだろうな?」
「…………」
「おいっ!」
「まあ、それは置いといて、天野くん、君は才能があるけど、もう少しずるさも覚えた方が良いと思うよ。直球勝負だけじゃ、打たれてしまうよ。変化球も覚えなきゃ。色々情報収集した方がいい。悪いことは言わない。人生の先輩からの忠告だ」
石田さんは野球に例えてくれたが、生憎スポーツに疎い僕には上手く伝わらなかった。きっと、もっと知識を磨けということだろう。
「わかりました。ご忠告、有り難く受け取ります」
「お前なんでそんな偉そうなの?」
金山さんがじっとりした目付きで石田さんを見ていた……。
さて、始めるか……。
授業が終わり、僕は図書館に来ていた。入学から1カ月が過ぎ、明日からはゴールデンウイーク、4連休だ。だが、僕は両親にこの連休中、実家には帰らないと伝えた。集中して勉強できる良い期間だと思ったからだ。
結局、この1ヶ月間、講義を理解することは困難を極めた。どの教授も教科書を解説することはなく、自身の研究内容を講義しており、何を言っているか分らなかった。しかも中には、授業を英語で行う教授もいたため、言語的な意味でも何を言っているのか分らないこともあった。
……僕は英語のライティングには少々自信があるが、リスニングとスピーキングはからっきしなのだ……。
「取りあえず、論文を読み進めながら、言語の勉強だな……」
僕はそうつぶやくと、「はじめてのロシア語」というタイトルの本を開いた。これまで文系の勉強は全くと言っていいほどやってこなかった。理系の専門書も日本語翻訳の物しか読んで来なかった。それで十分だと思っていたしね。ここに来て外国語の勉強を一からやることになるとは思いもしなかった。だが、そんなことを言っても仕方がない。とりあえず、最低限の文法を学習し、論文を読み進めるしか方法はない。
「よーし、やるぞー」と心の中で言いながら伸びをする。そのときだった。スマートフォンのバイブが鳴った。シンヤからのメッセージアプリを受信したようだ。
『明日、暇か? 面白いもん見せてやるよ!』
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