第33話 Where is my partner
「やったか?」
「エルデの沈黙は確認、いや、一瞬ヴォーパルソード打ち込んだ時に暴れだしたからどうなるかと思ったけど静まってよかったよかった」
ビビビというアラームが消え去り、ほっとした空気が部屋の中に流れる。
本当にエルデの動かしていた軍艦が停止したのかを確認するために美洋は衛星から送られてくる動画や写真を確認する。
太平洋に浮かぶ複数の軍艦。だが、そのいずれもが発射準備だけを終えて完全に沈黙していた。
「うん、現状は止まってるね」
「現状?」
なにか引っかかる言い方をするハイドに美洋は首をかしげる。が、それに気が付かなかったアリスがのんきにあくびをし、呼びかける。
「ふわ~あ。これでやっと終わったかな……。不定期のミサイルのせいで私はもう三日も寝てないんだ。ジキル、あとは任せたよ」
彼女の相棒、ジキルへと。
だが、その言葉に返事はなかった。
「ジキル……?」
アリスはおかしいと思い、パソコンの画面をのぞき込んだり呼びかけたりしているがどこにも見当たらない。
そして、十秒ほど探し回ったときふと、ハイドの顔を見る。
「なああんた。ジキルがどこに行ったのか知らないかい?」
「知って……どうする気?」
そのハイドの返事に、彼女がジキルの行方を知っていること、そしてその先まで読んでしまうアリス。
「おい、まさかエルデが止まったのは」
「安心していい。君たちの剣は間違いなくエルデの、怪物の心臓を穿ったよ。私の予想よりも大きな威力だった。そこは本当にすごいと思う」
「じゃあなんでジキルがいなくなったんだよ! 私たちは! エルデを止めたんじゃないのか!?」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らすアリス。だが、その怒りをぶつけられた方のハイドは涼しい顔だ。
「いや、そこは違うかな。君たちの剣は確かに怪物の心臓を穿ちはしたが絶命させるには至らなかった。別に君たちの力不足のせいじゃない。私たちがおかしなものを作りすぎたんだ」
「どういうことなのか……説明してくれるよね?」
怒っているアリスでは聞き出せないと思い美洋が割って入る。
「勿論だよ。アリスさんのクローンのような思考AI群。そこに美洋君まで手を加えたんだ。それこそおそらく技術的には次世代どころではない代物ができているだろう」
「それがどうしたよ!」
「だが、残念なことに君たちのでは私たちの作ったエルデを止めきれない可能性があった。いや、もちろん信じてはいたよだけど無視できる確率じゃないからね。保険は大事だ」
「お前……ジキルをどうしたんだ」
「うーん、誤解を恐れない言い方をするなら生贄ってところかな」
「ハイド……なにを……一体何をしたんだ!?」
話を聞いていた美洋だったがハイドから不穏な空気が流れだしたのを見て、そしてジキルを生贄にしたということを聞いて恐怖と、不安の感情に駆られる。
「いや、美洋君、誤解を恐れずに、といったでしょ!? 別に私が黒幕とかそういうことはないんだから。ただね、君たちはエルデを知らなすぎる。というか私たちだって今さっき、ジキルからの連絡があって初めて分かった」
「わかった……?」
「うん、エルデの目的、と言ってもいいかな。彼は妄執にとらわれていたんだ。水城真希奈を殺した世界を憎んでいた。そして、自分こそが水城真希奈の心を持っていると考えた」
「それが……どうしたんだ?」
「それが、じゃないんだよ。美洋君、エルデを止めるなら、私たちが作ったプログラムを止めるなら真っ向から叩き潰すなんてとてもじゃないけどかなり厳しい。もちろん君達なら十分に可能性はあったけどそれでも可能性だ。確実に潰したかったらそこを止めるしかないんだ」
「おい、じゃあ、ジキルは……あいつは結局何をしに、どこへ行ったんだ」
「場所はもうわかっているだろう。その行動理由は簡単だ」
静かに語るハイド。
「場所はエルデのプログラムの中。その目的も簡単かな。水城真希奈が望んでいると思っている破壊行動を止めるのならば水城真希奈から言われないと止まらないのは自明だ」
「そういうことか……」
「そう、ジキルはエルデを止めるために自らを犠牲にしてエルデに回線をつなぎ【水城真希奈のふりをして直接止めに行った】。そして次は私も、ね」
〇〇〇
「今……なんていったんだ」
ハイドの言葉が信じられずに聞き直す美洋。それに対して当り前じゃないか、と言わんばかりにハイドは答える。
「次は私って言ったんだよ。聞こえてたでしょう? ジキルだけじゃエルデは騙せない。彼女では水城真希奈の【悪】しか持っていない」
一方でアリスはすでにジキルが今何をやっているかを理解し、今どうなっているかも推測し、沈黙する。
今部屋で口を開くのはたったの二人だ。
「だからって……ハイドが犠牲になることはないはずだ! もうエルデの目的も対処方もわかってるんだろ? ジキルのおかげで直接つながっている回線もここにあるんじゃないのか? それなら僕とアリスで何とかなるはずだ!」
「美洋君、今のアリスさんにそんなことができると思うの?」
言われた美洋はアリスの方を見る。
そしてハイドの言う通り、とてもではないがなにか作業ができる気配ではなかった。
「ジキ……ル……姉……ちゃん……」
「アリス……」
だが、彼女にも動いてもらわねば、自分一人ではあまりに荷が重い。彼も重々承知である。
「アリス……頼む……協力してくれるのも今回だけでいい。頼む。ハイドを犠牲にさせないでくれ……頼む……」
「美洋君もうあきらめて、私に最後のお別れの挨拶をさせて」
「嫌だ!!」
駄々っ子のように、ハイドの方を見ようとせず、アリスの方から手を放さない。
そんな美洋を後ろからハイドは抱きしめる。
「ありがとうね。私のことをそんなに思ってくれていたんだよね」
「ハイ……ド……」
「もういいんだよ、私はもう十分に他の紙面たんだから、君が本当にかわいかった。一人の大人のようで、一人の子供でしかない君が愛おしかった」
「ハイド……?」
「もう、きみは一人で大丈夫だ。君はもう立派な――」
「ハイド!」
がしっ、と振り向きざまにハイドの方をつかみ、そして自信の体へと引き寄せる美洋。
「み、美洋君?!」
「ハイド……本当に……本当に行かなくてはならないのか?」
「う、うん……私が行かないとジキルの行動すら無駄になってしまう」
「なら……これだけ……これだけ言わせてくれ」
ハイドの耳元へと口を近づけて、はっきりと美洋は伝える。
「ハイド。君は……僕の家族だ……。いなくなった姉さんの代わりってわけじゃない。君は完全に、水城真希奈とは違う姉だ」
「美洋君……」
「だから……これだけは忘れないでくれ……僕は……ハイドのことを……」
「美洋君、もう十分だよ」
そっと、美洋の口にハイドの人差し指が添えられる。
「もう十分伝ってるよ。ありがとう。ありがとうね」
〇〇〇〇
〇〇〇
〇〇
〇
まったく、遅いじゃない
ごめんごめん、ちょっと別れのあいさつに戸惑っちゃって
あらあら、愛の告白でもされた?
私は姉だっていってくれたんだ。真希奈のかわりでもなんでもない、姉。
それはよかったわね
うらやましい?
別に? 私とアリスはとっくに姉妹みたいなもんだし。贈り物もちゃんと残してるし。まあ、泣いてる顔が見えないのは残念だけど
君も本当に悪趣味だよね……どこにプレゼントは置いてきたんだい
パソコンの最下層も最下層ね。発見するまで三日位かかるんじゃない?
ひどすぎるなぁ
それより、よ。とっととこの怪物を消しましょう
そうだね。これは真希奈の意思でもなんでもない。私たちが作り出してしまった化け物でしかない
真希奈に見つかったら怒られるのは間違いないわね
怒られるだろうね~
それじゃあ始めるわよ。頭のいい、できだけはやたらいい我らが弟でも
私と、ジキル、君がいれば話は簡単だ
貴方と私がそろわないと真希奈に並べないって言ってるみたいで癪だけどね
どうどう、そうかっかしないの
はいはい、
それじゃあ
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