第28話 Check
美洋がロボットから逃げ始めて五時間。
先に
そして場所はスカイツリーの展墓デッキ。普段であれば賑わい、多くの観光客が訪れるはずのその場所に今はたったの三人しかいない。
「よくここがわかったね、と一応言っておこうか」
「その様子だと僕たちの行動の意味は分かったのかな」
「たった今ね。全く、こんなことに気づけないとは……。雨水管かな、流石に下水管のほうは厳しいだろう」
美洋とハイドが監視カメラに映っていなかった理由、それは単純に地上にいなかったというだけである。
彼らが逃げ口として選んだのはマンホールの下の雨水管。ハイドの機械による馬鹿力でこじ開け中に侵入したのであった。
「正解だよ。マンホールはまあまあ重かったね」
「ふん、私の監視網をかいくぐれるなら十分安いだろう、で、その出てきたり消えたりっていうのも私の場所を把握するためかな?」
ドレスのような服を身にまとい美洋の方をまっすぐに見据えるアリス。
「そうだ。ロボットの配置、僕たちが地上に出てからロボットがやってくるまでのタイムラグ、そしてクローンのアリスから連絡を受けやすい高い位置。それを踏まえると」
「こうしてここにたどり着いたわけか」
スカイツリー、その先端は地上から六百三十四メートル。もちろんこの高さに比べると展望室は多少高度をさげるがそれでも東京タワーよりも高い位置だ。送られてくる通信を受け取るには丁度いい場所だろう。
「しかも私が逃げることはないと予想していたのかな? まあ確かに、私は
「疑問に思っていたがいったいどうやって逃げ出した? 僕たちは間違いなく君を警察に突き出したはずだ」
美洋の質問を受けてクククと笑うアリス。ハイドは黙って周りを警戒している。
「なに、簡単なことだよ。ちょろっと体を売ったら懐柔できたというだけの話さ」
ちらりと、服の胸元をはだけさせながら背丈に見合わない体付きを見せるアリス。
「ったく……警察のやつら……」
「まあまあ、そう言わずにね。それにお金も握らしたし結構簡単だったね」
恥ずかしげもなく言い切るアリス。美洋は動じずに腰からあるものを取り出す。
「アリス、あらためて君を逮捕する」
「おおっと、無粋だね~。そんな危ないものは人に向けるべきではないよ」
美洋が取り出したのは拳銃だ。一応扱う許可も訓練も受けている。
「それに、私の場所を割り出したということはこの近くにたくさんのロボットがいるということも知っているだろう?」
「彼らが到着することはないよ」
「なに?」
慌ててスカイツリー周辺のカメラを確認するハイド。そこにうつるのは……
「ちっ!! あの女ああああ!!」
スカイツリーの内部に侵入しようとするロボットたちを端から破壊していく少女の姿であった。キャタピラーで動く彼らの数倍速く動き、銃口が向く前に相手の両腕を破壊して、とどめにキャタピラーを破壊して動きを止める。
一体につきかける時間は一秒にも満たない。ほんの一瞬だ。
「どうなってる! あいつは他の戦場に行かせたはずだ!」
「それでも過小評価だったんじゃないのか? リーシャ、彼女の全力はまだ発揮されていない。流石のアリスでもそれを推し量ることには失敗したみたいだね」
「美洋君は一体でも逃げるしかなかったのにね」
数十数百とスカイツリーに迫るロボット群、それをリーシャが、その補佐でピノキオが動き破壊する。恐れることなく戦うその姿はまるで狂戦士そのものだ。
呆然とその映像を見ていたありすだが、しばらくすると集まってきたロボット群もあらかた破壊しつくされリーシャがピノキオに後を任せて非常階段に向かい上り始める。おそらくエレベーターがハッキングされ乗っている最中に落とされるということを考慮したのだろう
美洋の方はそんな心配せずに乗ったのだが。
しかし、エレベーターでないにもかかわらず数千段とある階段を物凄い勢いで上り詰めるリーシャ。美洋たちのる展望台にたどり着くのも時間の問題だろう。
「もう一度言う、もう抵抗はやめておとなしくつかまれ」
「私が負けを認めたらきちんと投稿するからその武器をしまいなよ~」
そういいながら胸のケットに入っていたリモコンを取り出す。
「おい! 動くな!」
「いやだね。それにこの状況、私が何もやらなくても動くけどね」
「あのひとは……何を言っているの……」
警戒レベルを最大限に挙げてハイドは周囲を見渡す。
「なんならこのリモコンだってもう私はいらない。君たちにあげよう」
一つしかボタンのないリモコンを美洋たちの方へと投げ捨てる。美洋の足元に落ちたリモコン。だが、美洋はそれをボタンを押さないように蹴り飛ばす。
「何をする気だ」
最悪の場合、撃つことを考えながら美洋は銃の照準をアリスにあわせる。もっとも銃の扱いがうまくないこともあり最悪の場合殺す可能性もあるため本当に最後の手段だが。
『そこまでだよ!』
突如シャッターがアリスと美洋の間に下りる、というよりは落ちるような速度で二人の間の空間を分断する。
「!? ジキルか!?」
ハイドと同クラスという電子の少女を思い出す美洋。だが次の瞬間、シャッターの向こうからヘリの飛行音が聞こえてくる。自動走行なのか、それとももう一人協力者がいるのか。
「美洋君! 攻撃に備えて私たちも逃げるよ! エレベーターが使えないから階段!」
アリスをとらえるという思考から切り替えたハイドが美洋を階段へと導く。アリスがいるはずの向こう側を名残惜し気に見ながら彼もハイドの誘導に従い階段を駆け下りる。
『聞こえるかな? 美洋。前半戦は君の勝ちでいいだろう。それに私の大事なロボットもかなりの数が壊されたみたいだ。全く、彼女も手を焼かせてくれるね』
階段を降り始めた二人の耳に館内放送がながれ、アリスの声が耳に入る。
と、その時、地上から駆け上がってきたリーシャが二人の目の前まで上ってくる。
「美洋さん! ハイドちゃん! 無事?」
「リーシャ!?」
「は、早すぎませんか?!」
この高さを階段で駆けあがてきたその膂力に驚く二人。
「とりあえず僕たちは大丈夫だ! でもアリスには逃げられた!」
「美洋さんが無事なら大丈夫です! 早く逃げましょう!」
驚きから解放された美洋はアリスに逃げられたことだけを伝えると再び階段を駆け下りようとする、が。
リーシャがそれを邪魔した。と、言っても地上に向かうことを邪魔されたわけではない。
「ちょっとじっとしててくださいね」
そういうとリーシャは美洋とハイドの両方の体を持ち上げると昇ってきたのと同じ速度で、いや、のはや転がり落ちるような速度で階段を下っていく。
美洋たちはふわっとうる浮遊感に襲われながらも館内放送に耳を傾ける。
『さて、では仕切り直しだ。ロボットはやられはしたが私のトランプ兵団は健在だ。また電子の世界での戦いでもしようじゃないか。その日を楽しみ……ん? ジキル! なにが起こっている!?』
どうやらヘリからスカイツリーの内部に向けて生で放送しているらしかった。焦った声がスカイツリーの中にこだまする。
「お? 敵さんもなにかミスをした様子。今のうちに追撃を仕掛けたいところですね。まあ、無理ですけど」
階段を二人の人間を抱えながら駆け下りていくリーシャ。まだまだ余裕そうだ。
それに対して放送の方は焦りの割合が増大していた。
『止まれ! おい! エルデ?! 私の言うことを! ジキルの言うことを聞け! 私はそんな結末認めていないぞ?!』
ヘリの音が近づいてくる。窓側の腕で抱えられていたハイドが不思議に思って窓の外を見ると
「っ!! リーシャさん!! 美洋君!! 伏せて!!」
直後、階段を下っていた美洋たち三人に、ヘリから発射された銃弾が撃ち込まれた。
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